COLUMNコラム

【トラウマインフォームドケアという関わり】②なぜ今の時代に必要とされているアプローチなのか

こんにちは、所属カウンセラーの古宇田です。

気が早いのですが、来月11月は「オレンジリボン・児童虐待防止推進キャンペーン」となっています。平成16年度から令和4年度まで厚生労働省において「児童虐待防止推進月間」として実施されていました児童虐待防止キャンペーンが、実は令和5年度からは、こども家庭庁が取り組むことになりました。「オレンジリボン・児童虐待防止推進キャンペーン」として、家庭や学校、地域等の社会全般にわたり、児童虐待問題に対する深い関心と理解を得ることができるよう、期間中に児童虐待防止のための広報・啓発活動など種々な取組を集中的に実施することになっています。こども家庭庁については以下のコラムで紹介をしています。
【こどもまんなか社会を目指す】コラムシリーズはこちらからご覧になれます。
【こどもまんなか社会を目指す】①こども家庭庁の成り立ちと役割
【こどもまんなか社会を目指す】②こども政策とこども家庭庁が大切にする3つの姿勢
【こどもまんなか社会を目指す】③こども家庭庁の体制
【こどもまんなか社会を目指す】④子ども基本法とは・・・

子どもへの虐待は、社会的な問題であり、私たち一人ひとりが目を向け、声を上げ、行動することで初めて解決の道が開けます。このキャンペーン月間は、虐待を防ぐための意識を高め、予防活動に対する理解を深める貴重な機会です。子どもたちは未来の礎です。子どもたちが安心して成長し、夢を追いかけることができる社会を築くために、私たちの力を合わせましょう。一人ひとりの積極的な参加が、子どもたちの未来を輝かせ、社会全体をより安全で温かい場所に変える力になると考えています。虐待防止に向けた意識と行動が広がりますよう願っています。

前回のコラムでは、【トラウマインフォームドケアという関わり】についてお伝えし、環境要因によって形づくられる子どもの発達の質について考えてみました。子どもの脳の発達に重要な影響を及ぼす遺伝という視点、そして子どもの育ちにおける環境からの影響という視点。遺伝子について我々は今のところ出来ることはほとんどありません。一方で子どもに与える環境についてはできることが沢山あるという事実から、環境へのアプローチの一つにトラウマインフォームドケアというものがあることをご紹介しました。詳しくは前回のコラムをご覧ください。

【トラウマインフォームドケアという関わり】①環境要因によって形づくられる子どもの発達の質とは・・・

さて、今回のコラムではトラウマインフォームドケアについて、その発展の歴史をご紹介し、なぜ今必要とされているアプローチなのかを考えていきたいと思います。

【トラウマインフォームドケアはいかに発展してきたのか?】

トラウマインフォームドケアが発展した背景には、トラウマの理解が広まったことが大きな要因と考えられます。過去数十年間で、虐待、災害、戦争、事故、性的虐待などのトラウマ体験の影響を受けた人々が増加しました。これにより、心身の健康に関する問題が顕在化し、専門的なサポートが求められるようになりました。

加えて心理学と神経科学の進歩や研究によってトラウマのメカニズムが解明されてきたことも挙げられるでしょう。トラウマが脳と心の機能に及ぼす影響がより深く理解されるようになり、これに基づいて、トラウマに対する効果的なアプローチが模索されるようになったのです。

またトラウマインフォームドケアの発展に大きく寄与した海外の研究として小児期の逆境体験(ACE)が挙げられます。18歳までの被虐待体験、両親の離婚やDV(ドメスティックバイオレンス)、家族の物質乱用・精神疾患・服役などの経験が累積するほど成人になってからさまざまな精神疾患や身体疾患、不適応行動のリスクか高まることが明らかになったことも影響しています。詳しくは以前のコラムでご確認ください。【小児期の逆境体験(ACE)とは・・・】将来の健康のために幼少期のトラウマを防ぐ支援

当然のことながら、これらの人の多くが、その後の人生において医療・保健・福祉・司法と関わりをもつようになる可能性が高く、そして,過去のトラウマやACEから派生してきた問題の末端に位置する心身の疾患や社会行動上の不適応のみに目を向けて対応するアプローチは有効ではなく、その人のトラウマ歴やACEと現在認められている症状や問題との関連に目を向けることこそが重要であると言われています。また次世代のACEリスクが高まるなど、公衆衛生上の大きな問題として捉えられており、現在では国連の持続可能な開発目標(SDGs)においてもACEの予防、レジリエンスの向上、 ACEに配慮したサービスの提供などが盛り込まれてきています。

このように心的健康の問題が広がる中、適切な精神保健サービスの必要性が求められました。特にトラウマ体験を持つ人々にとって、適切で安全なサポートが必要であるとの認識が広がってきています。そうした背景からトラウマの理解を深め、社会的な認識を高める教育と啓発活動が今後さらに必要となってくるでしょう。トラウマがどのように人々の行動や感情に影響を与えるのかを理解することで、適切なサポート体制を築く必要性が認識されつつあります。

日本でトラウマインフォームドケアが紹介され始めたのは、2010年代のことです。トラウマインフォームドケアは医療・保健・福祉・教育・司法などさまざまな領域で、トラウマについての理解を深め、トラウマの影響を考慮し、トラウマへの癒しを大切にしようとする支援の基本概念とされてきています。こうしたさまざまな領域における認識が、トラウマインフォームドケアの必要性を浮き彫りにし、トラウマを持つ人々に対してより理解あるサポートとケアを提供するためのアプローチとして、この概念が広まる要因となりました。

トラウマを抱える人々は表立って「わたしが」トラウマを抱えているとは言いません。またトラウマの影響について、周囲が気付くことは容易ではありません。特に、家庭内で起きた虐待やDVといったトラウマは、語られにくく、認識されにくいものとされています。そのためトラウマを抱えると考えられる子どものケアを担う支援者、あらゆる対人支援の現場でトラウマに関連する知識がないと、子どもをひたすら温かく見守るだけの支援や従来の叱咤激励、道徳的倫理的指導に終始してしまい、トラウマの観点に立った支援が失われてしまうことも少なくありません。まさにこのような事態を改善するために生まれてきた概念とも言えるでしょう。

【最後に】

トラウマの影響はしばしば見過ごされ、誤解されがちです。しかし、トラウマインフォームドケアのアプローチは、トラウマを経験した人々の行動や感情を理解し、適切なサポートを提供する手助けをします。トラウマの影響を無視すると、支援が本人のニーズとずれ、効果のない介入が繰り返される可能性があります。支援を受ける人々が理解されないと感じると、不信感が強まり、孤立感が増します。

トラウマの影響を理解するためには、本人と支援者が共にトラウマの視点を持つ必要があります。表面的な問題だけに介入するのではなく、問題行動の背後にあるトラウマを理解することが重要です。ただし、問題行動を非難するのではなく、背景に関心を持つ姿勢が求められます。こうしたアプローチによって、トラウマの影響が明らかになり、現在の状態との関係が見えてきます。

例えば、過去に虐待を受けた子どもが、同じような状況にさらされると、トラウマの記憶がフラッシュバックし、子どもたちが防御的な反応を示すことがあります。これは過去のトラウマ体験を思い起こさせる「リマインダー」によるものかもしれません。このような状況で、支援者が単に問題行動を非難するのではなく、子どもたちの過去の経験を理解し、適切なサポートを提供することが重要です。

トラウマの影響を無視せず、問題行動の背後にある本当の理由に焦点を当てることで、支援はより効果的になります。トラウマインフォームドケアのアプローチは、トラウマを抱えた人々の視点と感情に共感し、サポートする方法を提供します。支援者がトラウマの視点を持ち、問題行動の背後にあるトラウマを理解することで、トラウマを抱えた人々は安心感を持ち、より適切なサポートを受けることができるのです。

次回も引き続きトラウマインフォームドケアについてお伝えしたいと思います。

【参考資料:『トラウマインフォームドケア“問題行動”を捉えなおす援助の視点』著:野坂祐子・2019、『実践トラウマインフォームドケア』著:亀岡智美・2022】

【トラウマインフォームドケアという関わり】シリーズはこちらからご覧になれます。
【トラウマインフォームドケアという関わり】①環境要因によって形づくられる子どもの発達の質とは・・・

さまざまな社会生活の変革という過渡期での不安やストレスは、さまざまな形で表出されることがあります。ポジティブな考えを持つきっかけとして、そして安心・安全な人との関わりを通して生きる力を養うサポートもカウンセリングの一側面とも考えています。子育てや子どもの抱える不安やストレスに関してのご相談もお受けしております。

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Writing by古宇田エステバン英記

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