COLUMNコラム

【トラウマインフォームドケアという関わり】①環境要因によって形づくられる子どもの発達の質とは・・・

こんにちは、所属カウンセラーの古宇田です。

前回のコラム冒頭で、若者の居場所支援という視点から、こども家庭庁の「トー横」エリアを視察したというニュースを取り上げました。視察後に、若者の居場所支援の強化をしていく考えを示し、より安全で安心な居場所づくりが目指されています。その中で今までにされている取り組みをご紹介したいと思います。

こども家庭庁が取り組んでいる子どもや若者の居場所支援には、さまざまなものがあります。例えば、子どもや若者が自分の興味や関心に合わせて自由に活動できる「子ども・若者の居場所づくり事業」や、子どもや若者が地域の人と交流しながら社会参加できる「子ども・若者の地域参加支援事業」などです。これらの事業は、子どもや若者が自分らしく生きる力を育むとともに、孤立や不安を防ぐことを目的としています。

また、子どもや若者が困ったときに相談できる窓口として、子ども・若者相談支援センター子ども・若者SOSダイヤルなどの電話相談サービスがあります。これらのサービスは、子どもや若者が抱える悩みや問題に対して、専門的な知識や経験を持つ相談員が親身になって対応してくれます。こども家庭庁は、これらの取り組みを通して、子どもや若者が安心して成長できる環境を整えることに努めています。

今後も若者への居場所支援の現状をお伝えしていきたいと思います。

前回までのコラムでは、【遊びをもちいて子どもとの関係を育む方法】についてお伝えしてきました。子どもとの良い関係を構築していく際の参考になればと思っています。

【遊びをもちいて子どもとの関係を育む方法】シリーズはこちらからご覧になれます。
【遊びをもちいて子どもとの関係を育む方法】①肯定的な注目による子どもへの関わり
【遊びをもちいて子どもとの関係を育む方法】②アテンディングのためのガイドライン
【遊びをもちいて子どもとの関係を育む方法】③アテンディングを実践する上で気をつけること

さて、今回のコラムではトラウマインフォームドケアという関わり方について、ご紹介していきたいと思います。遊びをもちいて子どもと関係を育む方法があれば、こちらは子どもへ関わる際に、子どもに大なり小なり何かしらのトラウマの影響があるということを考慮するアプローチになります。大人側がトラウマのことを知るという姿勢を通して、困っている子どもにどのようにアプローチしていくかという方法になります。大人が知るという姿勢が、子ども自身がトラウマについて理解をすることを助けもします。まずは日本の子育ての現状や課題を通して、このトラウマインフォームドケアが果たす役割を考えてみましょう。

【日本の子育ての現状や課題】

日本では、少子化や高齢化、経済的な困難やジェンダー格差など、さまざまな要因が子育てに影響を与えています。子育てをする親たちは、仕事と家庭の両立や子どもの教育や健康などに関心を持ちながらも、多くのストレスや不安を抱えています。また日本の子育ては、社会的な環境や個人的な事情によって、さまざまな形があります。しかし、一般的に言えることは、日本の子育ての背景には、少子化、仕事と家庭の両立などの問題に直面しているということです。

少子化は、日本の社会全体に影響を与える問題です。日本では、出生率が低下し、高齢化が進んでいます。これにより、将来的には人口が減少し、経済や社会保障などのシステムが崩壊する恐れがあります。少子化の原因としては、結婚や出産を遅らせる傾向や経済的な不安定さなどが挙げられます。また、子どもを産んでも育てる環境が整っていないということも問題です。

仕事と家庭の両立は、特に女性にとって大きな課題です。日本では、男性が仕事をし、女性が家庭を守るという役割分担がまだ強く残っています。しかし、近年では女性も社会進出をするようになりました。職場では女性も男性と同じように働く一方で、家庭では子育てや家事を担うことが多くあります。これにより、女性は時間的にも精神的にも疲弊してしまいます。また、職場では妊娠や出産を理由に差別されたり、キャリアアップの機会を失ったりすることもあります。

このように、日本の子育ての現状は多くの課題に直面しており、それらに対処するためには、政府や社会の支援が必要です。例えば、保育所や学校の充実や助成金の拡充、育児休業や時短勤務などの制度の改善、ジェンダー平等や多様性の尊重などが挙げられます。また、親同士や地域社会との連携や協力も重要です。子育ては一人で行うものではなく、社会全体で取り組むべき課題です。

一方で、子どもたちは、友だちや先生との関わりや学びの機会が減り、孤立や不安を感じることもあります。さらに、虐待や貧困など、子どもの権利や福祉が脅かされる事例も報告されています。子育てをしていく環境が安心したものとなっていくには、あまりにも多くの課題が立ちはだかっているのではないでしょうか。日々を子どもと関わる大人に必要な視点にトラウマインフォームドケアがあり、子どもとの関係性をより健全なものにしていけるヒントがあります。

こうした日本の子育ての状況の中、子どもとどのように向き合って行くことが必要になってくるのでしょうか。子どもの資質について、遺伝か環境どちらが大切なのかという視点を考えてみたいと思います。

【生まれか育ちかによる発達への影響とは・・・】

生まれか育ちかということについて考える時、人間の性格や能力に影響を与える要因として、遺伝や環境のどちらが重要なのかという問題に直面することでしょう。この問題は、心理学や社会学、教育学などの分野で長年にわたって研究されてきましたが、決定的な答えはまだ見つかっていません。

一般的には、生まれと育ちの両方が人間の発達に影響を与えると考えられていますが、その割合や相互作用については、さまざまな見解があります。また、文化や歴史的な背景によっても、生まれと育ちの重要性に対する認識は変わる可能性があります。

生まれか育ちかという問題により、子どもが将来示すようになる才能や弱点は、どの程度まで私たちの遺伝子によって、どの程度まで子ども自身の経験によって形づくられるのか。

生まれか育ちかという疑問は人類の歴史そのものと同じくらい古いとされています。「生まれ」と「育ち」のどちらに肩入れするかによって、親も社会も子どもを育てるやり方が大きく変わってきます。20世紀前半、振り子は大きく「環境」の側に振れたと言われており、そのお陰で重要な社会的プログラムの確立につながりました。現在は「遺伝子の時代」と言われ始めており、その振り子は大きく反対側に振れています。遺伝子研究の発展によってさまざまなことが明らかにされてきており、子どもの運命は遺伝によってほぼ決まっており、私たちの努力で改善できる余地はほとんどないとさえ考えられることもあります。しかし、人間の脳を発達させる【手順】は遺伝子にプログラムされていますが、各段階における発達の【質】は環境要因によって形づくられると考えられています。

大多数の健康な赤ちゃんが同じように発達するという限りでいえば、基本的な遺伝のプログラムが許容する「正常な」環境の幅はかなり広いと言われています。さまざまな育て方(ああした方がよい、こうした方が良い)で悩んでいる親にとって、このような発達の柔軟性があるというのは安心材料となることでしょう。

同時に、成長の初期段階にどういう経験をするかによって子どもの脳の発達に重要な影響を及ぼすこともほぼ疑いようがありません。遺伝も環境も両方とも重要ですが、実際のところ私たちは遺伝子についてはほとんど何もできず、子どもに与える環境についてはできることが沢山あるということが事実です。つまり生得的な因子と環境因子の両方を考慮する中で子どもの環境へアプローチしていくことの大切さをより意識していくことが、子どもの健やかな成長を支えることに繋がるのではないかと考えています。

【最後に】

問題行動を起こす子どもは、よく「困った子ども」として捉えられていることを見聞きします。実際その子どもと関わる大人からの相談にはそうしたニュアンスを感じることもあります。大人が子どもの行動に「困ってしまっている」、当の子どもは大人から見ると「困っていない」ように見えることもしばしばあります。しかし、実は「困った子ども」ではなく、「困っている子ども」として、子ども自身が困ってしまっているので問題行動を起こさざるを得ないという視点が、子どものさまざまな問題行動を見ていくには必要な視点であると常日頃から感じています。トラウマインフォームドケアにはそうした「困っている子ども」をしっかりと捉えるための視点を我々に与えてくれます。

そして子どもに与える環境としてのアプローチ方法としてのトラウマインフォームドケアがあります。トラウマインフォームドケアとは、トラウマの影響を理解し、その影響に配慮した関わりを目指すアプローチです。トラウマインフォームドケアでは、トラウマの経験者に対して、安全感や信頼感を損なわないように配慮し、自己決定権や回復力を尊重し、共感的な関係性を築くことで、関わりの質や効果を向上させることができるとされています。

トラウマインフォームドケアは、トラウマの経験者だけでなく、トラウマに関わる仕事をしている大人や組織に対しても有益です。トラウマの理解や対応スキルを高めることで、関わる大人のストレスやバーンアウトを防ぎ、チームワークや組織風土を改善することも可能です。

我々大人ができる子どもの発達を支えていく方法として、環境因子を考慮し、そして子どもの発達の質を整える方法として、トラウマインフォームドケアという視点で子どもとの関わりを今後のコラムを通してお伝えしたいと思います。次回のコラムも楽しみにお待ちください。

【参考資料:『赤ちゃんの脳と心で何が起こっているの?』著:リザ・エリオット・2017】

さまざまな社会生活の変革という過渡期での不安やストレスは、さまざまな形で表出されることがあります。ポジティブな考えを持つきっかけとして、そして安心・安全な人との関わりを通して生きる力を養うサポートもカウンセリングの一側面とも考えています。子育てや子どもの抱える不安やストレスに関してのご相談もお受けしております。

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Writing by古宇田エステバン英記

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