COLUMNコラム

【里親制度を考える】④里親養育の理念や基本となる考え方

こんにちは、所属カウンセラーの古宇田です。

今、世界では持続可能な社会を目指してさまざまな取り組みが行われています。これは簡単に言うと、人類がこの地球で安定して暮らし続けるために、どうしたらよいのかという問いを地球から投げかけられ、それに人類がどのように応えるのかという試みでもあるように感じています。2015年に国連で採択された「2030年までの達成をめざす17の目標」を子どもも含めた全ての人が、それぞれの立場から目標達成のために行動することが求められています。「持続可能な開発目標」という最近では聞きなれたSDGs(エスディージーズ)という言葉。こうした目標があることで、持続可能な世界を創るために、一歩を踏み出してみようという意識を作っていくのだと思います。目標や理念が最初の一歩を踏み出す原動力になっているのではないでしょうか。

前回コラムでは世界のフォスターケアと日本の里親制度を比較しながら、日本での里親委託という社会的養護について、そして海外での取り組みの主流となっているキンシップケア(親族里親)をお伝えしました。児童福祉サービスの重要な選択肢を考えるとともに今後の多様性のある里親制度の発展を期待しつつ、社会で子どもを育てるという考えの根底にはどれほど人が助け合いながら、支え合いながら共同養育ができるかという思いが大切なのかを「世界のフォスターケアと日本の里親制度」でご紹介しました。

詳しくはこちらをご覧ください。
【里親制度を考える】③世界のフォスターケアと日本の里親制度

さて今回は「里親制度の理念や基本的な考え方」についてお伝えしていきたいと思います。こうした理念は里親制度に限らず、すべての子どもの未来に向けた進むべき道筋を定めていくために必要な基本的な考え方であると同時に、社会全体で子どもと子育て家庭を支援するためのヒントがあるのではないかと考えています。安心して子どもを産み育て、子育ての喜びを実感できる社会を目指す目標を実現するために、里親制度における理念がもつ重要性を一緒に考えるきっかけとしていただきたいと思っています。

里親制度にも関連があります「子どもの人権」「児童虐待」などのコラムはこちらからご覧になれます。
【子どもの心との向き合い方】コラム

【児童福祉法改正による理念の明確化とこどもまんなか社会への転換期】

児童福祉法は2016年に改正され、子どもが権利の主体であることという子どもの福祉における理念の明確化や家庭と同様の環境における養育の推進などが明記されました。それ以前は要保護児童の福祉の視点に立つ主要な考え方は、個別ケアの必要性と、子どもの成長における家庭的環境の重要性でした。しかし子どもの福祉にとって何が提供されるべきかについて理念なり考え方が、国レベルや児童福祉現場レベルでほとんど明確にはもっていない、示せていない状況が実は続いていたのです。そのため2016年の改正での理念の明確化は画期的とさえ言われました。

現在は、児童福祉法の改正によって日本における子どもの福祉における理念がしっかりと示され、これから理念が根付いていくという転換期であり、まさに現在進行形のお話なのです。

また2023年4月に創設されるこども家庭庁がこどもまんなか社会の実現のため、子どもや家庭が抱える様々な課題に対し、制度や組織による縦割りの壁を廃し、関係省庁と連携していく大きな動きが始まろうとしています。さらなる児童虐待の防止対策子育て世帯の支援の強化などが示された児童福祉法の改正法が2024年に施行されることも、子どもを中心に捉えた、そして今以上に子どもの視点に立ったさまざまな取り組みをしていく社会へと変化していく時代に入ろうとしています。

まずは里親制度の理念や基本的な考え方を一緒に見ていきましょう。

【パーマネンシ―・プランニングという理念】

パーマネンシー・プランニングは社会的養護の理念であり、1970年代のアメリカやその後のイギリスで取り入れられた考え方です。アメリカにおいて1970年代には子どもの虐待が増加し、親から引き離された子どもが、虐待した親への援助がないために親の元へ帰れず、施設や里親を転々とするドリフト現象が起きました。これらは子どもの不適切な親子分離(子どもを家庭から保護する)や社会的養護における子どもの無計画な措置変更(里親家庭を転々とする)が要因となって引き起こされていました。

こうした大きな社会問題の背景からパーマネンシー・プランニングが発案される契機となり、子どもを取り巻く社会の問題に歯止めを掛けることがパーマネンシー・プランニングの狙いでした。

パーマネンシー・プランニングを直訳すると「永続的な計画」となります。これは、施設養護や里親養育といった社会的養護を受けている子どもに対して、計画的に「永続的な家族」を実現することを意味します。ここでいう「永続的な家族」とは、継続的な養育を行い、生涯にわたり変わらない関係を保つ家族を指しています。実際、この「永続的な家族」は子どもの実親家族や養子縁組家族が担うことが多くなります。そのため社会的養護を受けている子どもは、必然的に「永続的な家族」が実現されていない状態にあるとも言えます。パーマネンシー・プランニングの理念では、子どもは「永続的な家族」の元で生活する権利があり、社会はこれを保証する責任があるとしています。

パーマネンシー・プランニングの基礎となる考え方は、「家族」「愛着関係」に関する考え方にあります。子どものさまざまな心理・社会的ニーズを満たすためにもっともふさわしい養育環境とされている家族という集団は、子どもにとって明白なまでに永続的に帰属する場所です。子どもの心の底にある「私の家族は誰?」という問いはこの変わらない居場所の大切さを物語っています。また、愛着関係にも永続性が求められます。大人や他者(きょうだいなど)との愛着関係は子どもの心理・社会的な発達には欠かせないものであり、発達や成長を支えるだけでなく、その子どもの生涯にわたって大切なつながりや支えになります。したがって、パーマネンシー・プランニングの理念では、子どもにもっとも必要なのは「永続的な家族」とそこに生じる「永続的な愛着関係」であるとしています。

里親養育は子どもの「永続的な家族」の実現に向けての援助活動の一環として行われる養育と考えられています。子どもが里親養育を受けながら児童相談所が子どもの家族復帰に向けて親に対する援助を行うなどがその一例です。

アメリカでは、優先されるパーマネンシー・プランニングは家族復帰や養子縁組です。しかし、子どものさまざまな状況によっては、長期的な里親養育が選択される場合もあります。里親養育は「永続的な家族」実現に向けての一時的な措置であることが理想とされているのです。

日本におけるパーマネンシー・プランニングは、2016年の児童福祉法改正の理念を具現化するため、厚生労働大臣が参集し開催された有識者による検討会で「新しい社会的養育ビジョン」がとりまとめられたことで、「永続的解決(パーマネンシー保障)の徹底」という形で計画されることになったのです。

続いて、家族保全という視点から里親養育の理念に触れたいと思います。

【ファミリー・プリザベーション(家族保全)が里親養育へ与える影響】

 

ファミリー・プリザベーションとは、子どもの成長発達において家族の果たす役割を重視し、家庭内で不適切な養育が行われていたとしても、あるいはその可能性があっても、安易に親子分離するのではなく家族の力を引き出したり社会環境上の工夫をしたりしながら、子どもと家族が一緒に生活できるようにするサービスのことです。家族保全という訳語で表現されることもあります。

家族保全がわが国で必要な理由として、子どもの虐待ケースのほとんどが、子どもを保護者のもとに留め置いたままで援助を展開しているということがあげられます。全国の児童相談所で扱っている虐待相談のうち、児童福祉施設入所や里親委託につながるのは10%程度です。厚生労働省によると令和3年度の児童虐待相談対応件数は20万件にのぼります。これは令和3年度中に児童相談所が相談を受け、援助方針会議の結果により指導や措置等を行った件数です。「子どもを不適切な養育環境に置いておくなんでひどいことだ」と思われるかもしれませんが、子どもはできる限り親に育てられることが望ましいという考え方そのものは、軽視できないものです。こうした家族がより社会的に望ましい形になっていく手立てを考えていかなければならない時代なのです。

家族保全の確立は、里親養育にも大きなメリットをもたらします。

一つ目のメリットとして、家庭復帰を待つ子どもと家族にとって必要なサービスだということがあげられます。家庭復帰を経験する里親は今後ますます増えることが予想されますが、実際、離れ離れだった家族が再び一つの家庭で生活を共にするのは、とても難しいものです。里親としても、本当に復帰がうまくいくか、心配なことがあるでしょう。そのとき、家族保全の考え方が里親を含む援助者間で共有され、虐待のリスクが社会的にしっかりと管理され、子どもと家族が一つになる手立てがきめ細かく打たれるならば、里親としても安心して子どもを実親に委ねていけるでしょう。

二つ目のメリットとしては、虐待傾向にある里親や、委託解除の危機にある里親家族を援助していくためにも、このサービスが有効であることが指摘できます。わが国の場合、里親家族は、子どもにとっての一時的な保護先ということよりも、その代替家族として、子どもを大人になるまで育て上げる場所となっていることが多く、適当とはいえない養育ないし里親子関係がみられるからといって簡単に委託解除をしてしまえば、子どもの心に大きな傷を残してしまいます。子どものためにも、委託解除を簡単に選択してはならず、里親家族の保全をすることで、パーマネンシー保障を図ることが大切です。

家族保全は決して親子分離を認めないことではなく、あくまでも親子分離が適当でないときに、虐待から子どもと家族の双方を守るものとして考えられるものです。

【里親としての基本的心構え】

里親制度を支える基本的心構えの骨組みには、いくつかのガイドラインが設けられています。

国連子どもの代替養育に関するガイドラインでは一般的原則と展望として「家族は、社会の基本的集団であり、子どもの発達、ウェルビーイングと保護のための本来の環境であるから、まず何よりも実の両親の養育に留めるか、戻ることができるよう力を尽くすべき」としています。安心で安全な健康的家庭を保障し、代替的養育者として実の親に代わって子どもを養育するのが里親であり、このガイドラインを守るチームの一員といえます。

続いて、厚生労働省の「里親委託ガイドライン」には、里親委託優先の理由として次の3点が挙げられています。

特定の大人との愛着関係の下で養育されることにより、自己の存在を受け入れられているという安心感の中で、自己肯定感を育むとともに、人との関係において不可欠な、基本的信頼感を獲得することができる。
里親家庭において、適切な家庭生活を体験する中で、家族それぞれのライフサイクルにおけるありようを学び、将来、家庭生活を築く上でのモデルとすることが期待できる。
③家庭の中で人との適切な関係の取り方を学んだり、身近な地域社会の中で、必要な社会性を養うとともに、豊かな生活体験を通じて生活技術を獲得することができる。

上記2点や、里子が地域の中でその地域の子どもになるために、地域の資源とつながることも大切です。また子どもの権利の尊重、子どもの最善の利益、子どもの意見の尊重、守秘義務の遵守、実家族との協働を通して子どもの養育に向き合うことも大切であり、必要なことだと考えられています。

【最後に】

ある視点から見ると人は歴史的存在でもあり、少し大袈裟ですが人類誕生から今にいたるまで全てがつながっての現在の我々があるのではと考えています。自分の生きてきた歴史につながりがないことは人として果たして耐えられることなのでしょうか。社会的養護を受ける子どもはぶつ切りの自分史を持つことがあり、成長へと向かう力が阻害されかねない状態にあります。ほとんどの家族での当たり前のことが、当たり前でない一握りの子どもたちにとって、永続的な家族が今この日本でどのように実現できるのか、今回の「里親制度の理念や基本的な考え方」に触れることで少しでも考える機会が広がることを願っています。

次回は【里親制度を考える】の最終回となります。里親への支援についてなどをお送りしたいと思っています。どうぞ楽しみにしていてください。

【里親制度を考える】のシリーズコラムはこちらからご覧になれます。
【里親制度を考える】①日本の里親制度とは?
【里親制度を考える】②里親養育の実際について
【里親制度を考える】③世界のフォスターケアと日本の里親制度
【里親制度を考える】⑤里親養育への支援

【参考資料:『里親養育を知るための基礎知識・第2版』編著:庄司順一・2009、『弁護士・実務家に聞く里親として知っておきたいこと』編者:特定非営利活動法人SOS子どもの村JAPAN・2019】

コロナ禍による社会生活の変革という過渡期での不安やストレスは、さまざまな形で表出されることがあります。ポジティブな考えを持つきっかけとして、そして安心・安全な人との関わりを通して生きる力を養うサポートもカウンセリングの一側面とも考えています。子育てや子どもの抱える不安やストレスに関してのご相談もお受けしております。

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Writing by古宇田エステバン英記

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