COLUMNコラム

【里親制度を考える】①日本の里親制度とは?

こんにちは、所属カウンセラーの古宇田です。

お久しぶりです。夏も残り僅かですが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。

早速ですが、最近VUCA(ブーカ)という言葉を耳にすることが増えました。実は聞いたことはあるけど、よく知らない言葉だったので、この機会に調べてみました。するとVUCAとはVolatility(変動性)Uncertainty(不確実性)Complexity(複雑性)Ambiguity(曖昧性)という4つのキーワードの頭文字を取った言葉で「変化が激しく、あらゆるものを取り巻く環境が複雑性を増し、想定外の事象が発生する将来予測が困難な状態」を指す言葉として最近使われていることが分かりました。

コロナによる社会の変化、ウクライナ情勢による国際社会の動向、そして日本だけにとどまらない世界規模での異常気象。地球がこの先どうなってしまうのかという不安を抱えているからこそ、このVUCAが変化の激しい先行き不透明な社会情勢や地球の未来について考えるための言葉として現れたのかもしれません。人権や世界平和、SDGs(持続可能な開発目標)が世界のスタンダードとなりつつある今この時代に子どものこころとの向き合い方を改めてさまざまな視点でお届けしたいと思っています。

さて現代日本社会で子どもが育つ環境は、自助(自己責任)と公助(行政の福祉制度)の二極が目立ち、共助が少ない環境です。里親に委託された子どもが生みの親と交流するケースは多くありません。親と一緒に暮らせない子どもが求めていることは、生みの親と一緒に暮らすことなのは誰もが分かっていることだとは思います。こうした子ども視点の理解をもとに社会的な取り組みが今後増えていくことのきっかけとして、またこれからの日本における暮らしやすい社会、楽しい子育て、そして子どもの健やかな育ちを支えるヒントがあるのではないかと思い、今回のテーマとして“【里親制度を考える】①日本の里親制度とは?”をお届けします。今月から数カ月に渡り【里親制度】をテーマに子どもの心と向き合う視点をについてお伝えしていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

今回のコラムとも関連があります「子どもの人権」「児童虐待」などのコラムはこちらからご覧になれます。

【児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)】ひとりの人間としての権利を考える

【児童虐待、トラウマそして複雑性PTSD:前編】こころの傷つき体験を乗り越える力とは・・・

【児童虐待、トラウマそして複雑性PTSD:後編】こころの傷つき体験を乗り越える力とは・・・

 


 

【里親制度の歴史と現状】

里親制度を紐解くと、戦前では当事者同士の取り決めを個人が取り交わし、子どもの養育を依頼する私的契約に始まったと言われています。一説には里親の歴史は11世紀までさかのぼると言われており、当時、天皇家や貴族では子どもを知り合いに預け、育ててもらうことが一般的であったようです。のちにこうした習慣が一般民衆にも広まったとされています。

そうした流れを汲みつつ、戦後の1947年に児童福祉法が制定されたことによって、公的な制度のもとで里親制度が始まる機会へと変化していきました。戦後、たくさんの孤児や保護を必要とする子どもに、施設ケアとともに里親によって育てられるケアが重要な役割を担うことが期待されました。日本が高度成長社会に突入するとともに、里親の登録数もピークになりましたが、それ以降減少傾向を続けてきました。その背景には、孤児や保護を必要とする子どもの数が減ったということと、人口の都市集中、家族構成・住居・ライフスタイルの変化、人々の考え方の変化や核家族化が影響されていると考えられます。

その後、里親制度の改正が何度か行われたものの、里親制度の充分な普及には至っていません。しかし令和の時代になり、子どもを保護することから子どもが権利の主体であるという社会的養護の方向転換を機に、家族と同じような暮らしができる環境の提供が必須の課題となっています。

里親制度の趣旨は「家庭での養育に欠ける児童等に、その人格の完全かつ調和のとれた発達のための温かい愛情と正しい理解をもった家庭を与えることにより、愛着関係の形成など児童の健全な育成を図るものであること」とされています。こうした趣旨のもと、里親の役割やその種類について見ていきましょう。

 

【里親の役割と種類】

現在の日本における里親の役割とはどんなものなのか、またどのような形の里親があるのかを見ていきましょう。

現在東京都には、親の虐待や病気等の理由により親元で暮らすことのできない子どもが約4000人います。こうした子どもはさまざまな事情があって家族と一緒に暮らすことができないため「要保護児童」と呼ばれます。要保護児童は、里親への委託や児童養護施設・乳児院等の児童福祉施設で社会的な枠組みの中で養育を行っています。こうした仕組みを「社会的養護」といいます。社会的養護の体系は国や文化によって大きく異なっていますが、日本においては、児童福祉施設で養育されるいわゆる「施設養護」と、里親など子どもを家庭的な環境の中で養育する「家庭的養護」が大きな2本柱となっています。施設養護は基本的には集団生活、複数の職員による交代制勤務による生活が前提です。一方、家庭的養護は夫婦など継続的な関係を保つ個別的養護を前提としています。現在は施設養護に多くの子どもが委託されていますが、国の方針としては家庭的養護をさらに増やしていきたいという取り組みがされています。

日本の里親制度における里親の役割は、様々な事情があって家族と一緒に暮らすことができない子どもを、自分の家庭に迎え入れて、温かい愛情と正しい理解を持って養育することなのです。こうした制度のもとで都道府県や政令市等が、児童相談所を通して、保護者のいない子どもや保護者に監護させることが不適当な子どもの養育を里親に委託します。この際に里親に委託することが良いのか、あるいは社会福祉施設に委託することが良いのかを色々と判断をします。福祉の分野で支援が必要な人に対する法上の施策や、行政行為を「措置」といいますが、児童相談所の判断のもと子どもが行くことがふさわしい場へ措置することを経て、里親へと委託されるという流れとなります。

養育里親
一定期間子どもを預かり育てる里親です。赤ちゃんから中高生まで子どもの年齢は様々です。実親の状況により途中で元の家庭に戻ることもあります。短期間のみ子どもを預かる家庭もあります。現在では養育里親になるための要件の一つに、養育里親研修を受講することが義務化されています。

養子縁組里親
養子縁組によって養親となることを希望する家庭です。養子縁組を前提とした里親ということになります。特別養子縁組が成立するまでの間、里親として子どもを育てます。

専門養育家庭
専門的ケアを必要とする子どもを一定期間預かり育てる里親です。一定の要件を満たし、専門里親研修を受ける必要があります。児童虐待等の行為により心身に有害な影響を受けた子ども、非行等の問題がある子どもや障がいがある子どもを養育します。

親族里親
両親の死亡、行方不明、長期入院などにより実親のもとで子どもを養育できない場合に、祖父母等の親族が里親となりその子どもを育てる家庭です。子どもの三親等内の親族が里親となります。

里親といっても色々な形があり、子どもの状態によって受け入れる側のスタイルが違います。ある意味で子どもが必要とする家庭のスタイルを用意しているという点では良いと思います。一方で、こうした形でしか子どもを受け入れられないという視点では、今後里親のより充実した受け入れスタイルを広げていくことも必要だと考えています。

 

【里親養育における特有の課題】

里親養育において子どもを養育する際に、一般的にどのような難しさを抱える可能性があるのか、さまざまな視点をお伝えします。全てが当てはまるということではありませんが、子どもの行動の背景を知るヒントにもなりますので、ご参考いただければと思います。

退行行動や試し行動
赤ちゃん返りのような言動をみせる「退行」という言葉があります。その退行行動として、今まで出来ていた生活習慣ができなくなること、夜尿が増えたり、食事の好き嫌いが極端になることがみられます。これらは新しい生活環境に適応するための子どもの独特な行動パターンとして出てくるようです。「試し行動」としては、癇癪が止まらない、嘘や万引きをするなどの行動をみせることもあります。こうした試し行動の背景には子どもが無意識のうちに、どこまでやったら大人が受け入れてくれるかどうかを試しているのです。

愛着の形成
里親家庭にやってくる子どもはすべからず何らかの形で愛着対象との別れを経験し、喪失感を抱いています。そうした状況や子どもの反応を正しく理解することで、子どもと新たな愛着対象者との間に良い関係を築く、そしてその関係が愛着の形成を手伝ってくれます。

被虐待や発達障がい
里親へ委託される以前の生育歴における被虐待体験の影響や発達障がいを持つ子どもの育てづらさが、里親との安定的なかかわりをもつことを難しくしてしまうこともあります。子どもの良い面に目を向けること、診断された障がい名に囚われるのではなく、子どもの行動特徴などを理解していくことが大切とされています。

真実告知
真実告知は、里親に委託された年齢が幼い子どもに、生みの親ではなく、里親であることを告げることです。子どもが成長していく過程で、子どもの年齢で理解できる内容で何度も伝えていくことが必要となります。ただ里親であることを伝えるのみでなく、生みの親であらずとも、大切な私の子どもとして迎え入れていることを伝えることも大切です。

名字
里子は里親と戸籍上のつながりはないため、生みの親の名字がその子どもの正式な名字となります。特に小学生にあがる学齢期以降、学校に戸籍名で通うのか、あるいは里親の名字を通称名として使用するのかを、子ども自身と里親で一緒に考える必要があります。

生みの親
里親たちには実親との交流に対して、肯定・否定の両方の気持ちを抱えているというアンケート調査があります。また実親に対して里子を適切に養育できなかった人といったイメージ等を抱きやすいこともあります。子ども視点で考えると、実親は大切な人であるのは間違いなく、実親と里親が互いに尊重することで子どもにとっても大人にとってもよい影響があるのは明らかです。

思春期
通常の思春期の問題とあわせて里子特有の課題に直面するため、子どもが抱える気持ちの不安定さが落ち着くまでには時間もかかり、さらに里親にとっても子どもの状況を正しく理解することを支えていくことは容易いことではありません。実親と離れて里親家庭で生活している現実と向き合いながら、自分の生い立ちをどのように理解し、それを受け止めて自分の生き方を決めていくことへのサポートが必要です。生い立ちの受容と自己確認が大きな課題となります。

措置委託解除
里親養育解除には、「措置変更」「満期措置委託解除」があります。前者は子どもの委託期間中に実親の家庭に復帰したり、里親との関係に不調があるなどの理由から児童福祉施設への措置に変更される場合などがあります。後者は、子どもが18歳になると里親委託が終了することを意味します(場合によって多少の延長は可能です)。両者のどちらであっても、子どもにとっては自分を育ててくれた人との別れとなるため、不安な心境からどのような気持ちになるかは想像にかたくありません。里親家庭とどのような関係を保って交流をするのかを、子どもと共に話し合うことが大切です。

以上いくつかの里親養育における特有の課題についてお伝えしました。一般的な子育てと比べると難しいところもあるかとは思いますが、現在は里親を支援する機関も充実していますが、まだまだ課題もあります。里親にだけ複雑なニーズを抱える子どもにこたえてもらうのではなく、社会の仕組みとして里親とその里子を支えていくシステムが充実していくことが期待されています。私が働く児童養護施設も社会的養護の一つであり、お伝えした子どもの養育上の困難さを抱えています。子どもの視点に立って、子どもが健全に成長していけるよう一人一人の子どもに寄り添ってサポートをしていきたいものです。

【最後に】

里親については、世間的な印象として、養子を欲しい人がなるものだとか、少し裕福な人が子どもを預かっているというざっくりとしたイメージを持つ人が多いかもしれません。実のところそうした印象やイメージとは少しばかり違うのが実際的な里親制度なのです。日本では、里親制度と養子制度が混同されてきたことも影響しているかもしれません。要保護児童全体を対象とする里親制度と、「子どもがほしい」として低年齢の子どもを引き取ることを希望することが多い養子制度は目的が違います。今日の日本での里親が養育する子どもは18歳までの、実親がいる、しばしば被虐待体験や障がいをもっている子どもです。養子縁組を希望する人は、そのほとんどが3歳未満の、親との交流のない、健全な子どもを育てることを希望すると言われています。そのため里親制度と養子制度が混同されると、幼い、親との交流のない、健常な子どもが里親の対象と思われてしまう恐れがあるのです。現にそうしたことが、里親不調を起こす要因の一つともなっていると考えられています。

今後のコラムで里親制度についてお伝えすることで、日本の里親について理解をしていただき、社会に里親がいて当たり前となるようなきっかけの一つになるよう願っています。また子どもの置かれている状況を理解する機会としてもらいたいと考えています。

次回のコラムでは、「里親養育の実際」ついてお伝えしたいと思います。次回9月のコラムも楽しみにしていてください。

【里親制度を考える】コラムのシリーズはこちらからご覧になれます。

【里親制度を考える】②里親養育の実際について
【里親制度を考える】③世界のフォスターケアと日本の里親制度
【里親制度を考える】④里親養育の理念や基本となる考え方
【里親制度を考える】⑤里親養育への支援

【参考資料:『里親養育を知るための基礎知識・第2版』編:庄司順一・2009、『里親になりませんか子どもを救う制度と周辺知識』著:吉田菜穂子・2022、『里親であることの葛藤と対処』著:安藤藍・2017】

長期に渡るコロナ禍での不安やストレスは、さまざまな形で表出されていることがあります。ポジティブな考えを持つきっかけとして、そして安心・安全な人との関わりを通して生きる力を養うサポートもカウンセリングの一側面とも考えています。9月になりますと学校も始まり、不登校の問題が取り沙汰されることが多くなります。子育てや子どもの抱える不安やストレスに関してのご相談もお受けしております。

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Writing by古宇田エステバン英記

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