COLUMNコラム

【里親制度を考える】⑤里親養育への支援

こんにちは、所属カウンセラーの古宇田です。

4年に一度のサッカーワールドカップ。カタールでの開催ということもあり、時差の関係上、寝不足になられた方も多いかと思います。東京オリンピックもそうだったのですが、スポーツを通して、老若男女問わず、感動や同じ気持ちを共有し合える瞬間を肌で感じた大会となりました。支えあって、ゴールへと思いを繋ぐ選手たちの姿に、私も見習うところが多くあり、日々への活力を頂きました。また4年後の活躍に期待したいと思います。

さて前回コラムでは「里親制度の理念や基本的な考え方」についてお伝えしました。現在、日本の里親制度を取り巻く環境として、児童福祉法改正による理念の明確化と子どもまんなか社会への転換期であること、パーマネンシー・プランニングという理念やファミリー・プリザベーション(家族保全)が里親養育へ与える影響を見てきました。

そして里親制度を支える基本的心構えとして、国連や日本におけるガイドラインから見えてきた家族のかたち、そしてこの社会の中でどのような繋がりを持つことが必要なのかをご紹介しました。

また社会的養護を受ける子どもにおけるぶつ切りの自分史という状態があること、ほとんどの家族での当たり前が、当たり前でない一握りの子どもたちにとって、永続的な家族が今この日本でどのように実現できるのか、「里親制度の理念や基本的な考え方」に触れることで見えてきた課題もありました。

前回のコラムはこちらからご覧になれます。
【里親制度を考える】④里親制度の理念や基本的な考え方

 

 

さて今回は【里親制度を考える】の最終回となります。今までのコラムでは、日本の里親制度、里親養育の実際、世界のフォスターケア、里親制度の理念などを見てきました。世界では当たり前となっている里親制度ですが、日本では里親養育の広がりが遅れているのは何故なのだろうかと感じていました。コラムを書くにつれて、日本の里親制度自体が遅れているのではなく、社会の認識として里親を受け入れる環境がまだまだであることに気付かされました。今回のシリーズである里親制度のコラムを通して、いろいろな情報を知っていただき、里親養育に関心を持つことから、まずはスタートしていくことで、今後の里親制度の発展を願いたいと思います。最終回は、里親養育への支援について考えていきたいと思います。

里親への支援は、2016年の児童福祉法改正において、都道府県が行うべき里親に関する業務(フォスタリング業務)として具体的に位置づけられました。いわゆる「フォスタリング機関(里親養育包括支援機関)及びその業務に関するガイドライン」が厚生労働省子ども家庭局から各都道府県などへ通達がなされました。その目的は、フォスタリング業務の在り方をできる限り具体的に提示することで質の高い里親養育を実現するためのものでした。

加えて2021年には「フォスタリング機関(里親養育包括支援機関)及びその業務に関するガイドライン」を踏まえた上で、里親支援等の業務を総合的に実施するために「里親養育包括支援(フォスタリング)事業実施要綱」が定められました。

“全ての子どもは、適切に養育され、その生活を保障されること、また、心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることなどその他の福祉を等しく保障される権利を有している”という目的のために、要保護児童が家庭における養育環境と同じように継続的に養育されるためには、養子縁組や里親またはファミリーホーム(小規模住居型児童養育事業)への委託を推進することが重要であるとされました。

こうした里親養育包括支援(フォスタリング)の実施は都道府県が実施主体とされていますが、事業内容の実施には、里親会、児童家庭支援センター、児童養護施設、乳児院、NPO法人等へ委託することでも実施できるとしました。

そして里親等への委託を推進するために、里親のリクルートやアセスメント、里親登録前後と委託後における里親に対する研修、子どもと里親のマッチング、子どもの里親委託中における里親養育への支援、里親委託措置解除後における支援に至るまでの一貫した里親支援などに関する相談や支援を総合的に実施することが明確化されました。こうして、さまざまな里親委託を推進するための取り組みが打ち出されました。このような取り組みの中で里親養育への支援について今回は考えていきたいと思います。

里親制度にも関連があります「子どもの人権」「児童虐待」などのコラムはこちらからご覧になれます。
【子どもの心との向き合い方】コラム

【里親養育への基本的な視点】

子どもを里親委託したあとも、フォスタリング機関は継続的に里親家庭との信頼関係の構築に努めることが大切とされています。特に委託直後におけるきめ細やかな支援を行うことで里親養育に対する見通しや安心感を里親家庭にもってもらうことが重要です。また、里親家庭への支援に際しては、児童相談所との情報共有と連携は必須であり、フォスタリング 機関は、必要に応じ児童相談所の担当者とともに家庭訪問を行うなどの対応が必要です。

一方で、委託決定の権限をもつ児童相談所に相談しづらいといった里親の声もあり、児童相談所との橋渡しや日常の細かな相談については、フォスタリング機関が相談機能を担うため、里親が相談しやすい環境を作ることが勧められています。背景には、チームで養育しているという意識を強め、里親の安心感を高めることが必要だからです。

また、実親による引き取りに関する判断や、子どもの発達面及び情緒面の評価等については、児童相談所の関与が必要で、児童相談所への報告やケース協議は密に行うとともに、関係機関との連携が強調されています。

子どもへの支援としては、児童相談所の児童福祉司や児童心理司が実施する面接や、フォスタリング機関のソーシャルワーカーや心理職が実施する面接があります。そのため、子どもに対しては、それぞれの目的を明らかにし、どの人が自分の何を支援してくれるのか、どの問題を相談するときは誰が適切なのかがわかるように説明する必要があります。また実親との交流に関して、委託前に子どもに対し丁寧に説明し、可能な限り子どもの意見を尊重することが求められています。

子どもが思春期になると、さまざまな課題が顕在化してくるため、フォスタリング機関のソーシャルワーカーは、子どもの気持ちや考えの聞き役となるとともに、子どもと里親の関係改善のきっかけを作りや調整役となることが期待されます。里親養育の支援といっても、子どもを含めた里親家庭を見守り、支える機能が求められているのです。

次に具体的にどのような支援があるのかを見ていきましょう。

【里親養育への支援】

里親養育を支える根本システムとしてガイドラインには、
①里親制度の認知向上に向けた取り組みを含めた里親のリクルートや里親になることへの不安や負担感を軽減する説明を行うこと。

②登録前後や委託後における里親に対する研修で里親のスキルアップを目指すとともに、研修へ参加する里親同士の互助関係の醸成を図ること。

③子どもと里親家庭のマッチングに関して、フォスタリング機関と児童相談所が情報を持ち寄り、細部にわたって共有しながらマッチングを図ること。
といったフォスタリング業務の実施方法が定められています。

さらに里親養育への支援の具体的な内容として、
①定期的な家庭訪問や電話によるフォローを実施し、状況を把握すること。
②里親養育の状況に応じて、関係機関による支援をコーディネートすること。
③実親との協働の大切さを見失うことのないよう、子どもと実親の関係性に関する支援を行い、子どもと里親の不安を緩和すること。
④里親家庭での養育が不安定になった場合や虐待など不適切な養育があった場合に、要因に応じて適切に対応すること。
⑤里親委託が不調となった場合には、子どもと里親の双方に対する十分なフォローを行うこと。
⑥里親委託解除時は、里親の喪失感を軽減できるように配慮すること。

こうした支援が里親養育を支える柱として必要と考えられています。対応の難しい子どもを抱えている場合、里親が被害感や行き詰まりを感じていることがあります。誠実に時間をかけて気持ちを聞き取り、大切にされたという実感をもつことができるように関わることが必要としています。

各項目にはこのように里親と委託されている子どもの気持ちや意向・意見をよく聞くこととして記載され、里親支援をすることは、どういうことなのかを改めて見つめさせてくれる内容です。

【里親訪問等支援事業】

里親支援などを総合的に実施するために定められた「里親養育包括支援(フォスタリング)事業実施要綱」において“里親や養親などが養育に悩んだ際には、一人で抱え込むのではなく、子育ての悩みを相談しながら、社会的につながりをもち、孤立しないことが重要である”という目的があります。こうした趣旨のもと、里親などに対して、里親等相互の相談援助や生活援助、交流の促進など、子どもの養育に関する支援を実施することによりその負担を軽減して、適切な養育を確保していくことが求められています。

この里親訪問等支援事業には以下の4つの事業内容があります。
①里親への訪問支援
→里親に定期的に訪問することで、委託された子どもの養育状況の把握に努め、委託された子どもの養育に関する適切な指導や助言をすることで里親家庭をサポートする支援。また里親の相談に応じることも含まれています。里親の負担を軽減するため、里親や里親経験を持つ人を援助者として選定して、研修後に登録し、里親からの相談・援助の求めに応じて派遣し、家事や養育補助などの生活援助や養育相談など相互援助活動を行うことができるとしています。ピアカウンセリングのような取り組みのようですね。こうした形は今後いろいろな場で必要とされていくのではないかと考えています。

②里親による相互交流
→里親や里親となることを希望する人が集い、養育についての話し合いを行い、相互の交流を定期的に行うことを通して、情報交換や養育技術の向上を図ること。必要に応じて、児相相談所の里親担当職員や子ども担当職員、施設の里親支援専門相談員と連携を取ることも必要としています。

③親子の再統合に向けた面会交流支援
→親子の再統合に向けて、保護者からの相談に応じるとともに、子どもと保護者の面会交流の調整を行う。併せて、子どもを養育する里親ヘの支援を行う。調整に当たっては、子どもと保護者、里親との関係性に留意することも求められています。

④夜間・土日の相談支援体制の整備
→平日の昼間に相談することが困難な共働きの里親家庭に対して、的確に相談支援を行うため、里親支援機関における平日夜間、土曜、日曜及び祝日の相談支援体制を整備する。また相談支援に当たる人材には十分に経験を積んだものを充てるなどの専門性の確保についても求められます。相談窓口については、共働きの里親家庭だけでなく、多くの里親が利用できるように周知することも必要とされています。

このようにさまざまな具体的な取り組みが決められたことで、何が必要なのかどうしていくことが求められているのかが見えてきたのではないでしょうか。上記の里親訪問等支援事業は現段階で必要とされているものばかりです。今後さらに里親養育への支援に求められることを、こうした今ある制度の中での支援を通して、見えてくるのではと考えています。

【最後に】

2024年までに児童福祉法等の一部を改正する法律が施行されることになっています。改正の趣旨として、“児童虐待の相談対応件数の増加など、子育てに困難を抱える世帯がこれまで以上に顕在化してきている状況等を踏まえ、子育て世帯に対する包括的な支援のための体制強化等を行う”ことが目的となっています。

その中に、家庭養育の推進により児童の養育環境を向上させるために、里親支援センターの設置が盛り込まれ、また児童福祉施設として位置づけられることになります。里親の普及啓発、里親の相談に応じた必要な援助、入所児童と里親相互の交流の場の提供、里親の選定・調整、委託児童等の養育の計画作成といった里親支援事業や、里親や委託児童等に対する相談支援等を行うこと、里親支援の費用を里親委託の費用と同様に義務的経費とすることなど、これからも里親制度を充実させていくための取り組みが強化されようとしています。

今までもお伝えしてきたように児童福祉法の改正は何度か行われてきました。変化の速い時代には必要なことなのかもしれません。さまざまな声が届いている証拠でもあるかもしれません。そして、子どもが生きる日本の社会がこれからまさに変わろうとしています。

今回で最終回となります【里親制度を考える】シリーズでは、里親にフォーカスを当てて里親を取り巻く現在の日本の状況そしてこれからの展望などに触れてきました。今後も子どもと向き合うために、さまざまな視点から読者のみなさまと一緒に考えることを続けていきたいと思っていますので、ぜひお付き合いください。

 

【里親制度を考える】のシリーズコラムはこちらからご覧になれます。
【里親制度を考える】①日本の里親制度とは?
【里親制度を考える】②里親養育の実際について
【里親制度を考える】③世界のフォスターケアと日本の里親制度
【里親制度を考える】④里親制度の理念や基本的な考え方

【参考資料:「フォスタリング機関(里親養育包括支援機関)及びその業務に関するガイドライン」厚生労働省子ども家庭局・2018、「里親養育包括支援(フォスタリング)事業の実施について」厚生労働省子ども家庭局・2021、「児童福祉法等の一部を改正する法律(令和4年法律第6 6号)の概要」厚生労働省・2022】

【年末のご挨拶】
さまざまなことがあった1年でした。コロナや戦争、地球の環境問題など、あまりにも大きな出来事を目の当たりにすることで、より実感として世界がつながっているのだなと感じる年でもありました。世の中では大変な出来事もありましたが、それ以上に良いことも沢山あったはずです。そうしたことに思いを馳せながら年末を過ごしたいものです。

読者のみなさまへ新年もコラムをお届けできるよう頑張っていきたいと思っていますので、今後ともよろしくお願いいたします。
良い年末を身近な大切な方と、ゆっくりとお過ごしください。

コロナ禍による社会生活の変革という過渡期での不安やストレスは、さまざまな形で表出されることがあります。ポジティブな考えを持つきっかけとして、そして安心・安全な人との関わりを通して生きる力を養うサポートもカウンセリングの一側面とも考えています。子育てや子どもの抱える不安やストレスに関してのご相談もお受けしております。

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Writing by古宇田エステバン英記

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