COLUMNコラム

【トラウマインフォームドケアという関わり】③子どもの気になる行動の背景を理解するためのヒント

こんにちは、所属カウンセラーの古宇田です。

ここ数年、秋らしさが短くなったように感じるのは私だけでしょうか。秋らしからぬ暑さが続くため、紅葉の時期もズレたりと、季節らしさを楽しむ瞬間を今まで以上に意識しないと四季の良さを見過ごしてしまいそうです。

さて今年からこども家庭庁が設けた「秋のこどもまんなか月間」では、子どもや子育て家庭を社会全体で支援する動きをさらに盛り上げるための取り組みが行われています。「オレンジリボン・児童虐待防止推進キャンペーン」や、こどもまんなか社会を考えるシンポジウム、大会などが催されました。加えて「こどもまんなか応援サポーター」の活動の導入によって企業、個人、地方自治体などのネットワークの拡大を通して、子どもや子育て家庭を社会全体で支えようという輪が広がっています。詳しい取組の内容に関心がある方は「秋のこどもまんなか月間」をご覧ください。

前回のコラムでは、トラウマインフォームドケアがなぜ必要なアプローチとして世界や日本で取り入れられるようになってきたか、その歴史と発展についてご紹介しました。トラウマの理解が進む中、トラウマインフォームドケアの必要性が浮き彫りになり、子どものトラウマに対する理解を通した支援が新しいアプローチとして広まっています。

前回のコラムはこちらからご覧になれます。【トラウマインフォームドケアという関わり】②なぜ今の時代に必要とされているアプローチなのか

今回は、子どもの気になる行動の背景を理解するためのヒントについて考えていきたいと思います。子どもの問題行動の背景には、我々が知らなければ理解できないことが往々にして隠されていることがあります。問題行動を捉えなおす発想の転換ともいうべき視点を与えてくれるのがトラウマインフォームドケアです。今回のコラムでは、子どもの示す気になる行動の背景に焦点を当てて、子どもの問題行動を捉えなおす視点を考えていきたいと思います。

【子どもの問題行動とは・・・】

子どもの問題行動はさまざまな形で表れ、家庭、学校、その他の社会的・生活場面において様々な影響を及ぼすことがあります。ここでいくつかの一般的な問題行動の例を挙げます。

家庭での問題行動
1.反抗的な行動: 親の指示に従わない、逆らう、反抗的な態度を取る。
2.暴力: 兄弟姉妹や親に対する暴力的な行動。
3.嘘をつく: 結果を恐れて事実を隠したり、物語を作り上げたりする。
4.家出: 衝動的に家を出て行く行為。

学校での問題行動
1.授業妨害: 話し込む、注意を散らす、授業を中断させるなど。
2.いじめ: 他の子どもたちをいじめたり、いじめに加担したりする。
3.不出席: 学校をサボる、遅刻が多い。
4.学習の課題: 学習へのモチベーションが低い、宿題をやらない。

社会的・生活場面での問題行動
1.対人関係の問題: 他人との適切な関わり方ができない、孤立する。
2.法的な問題: 窃盗、器物破損など犯罪行為に関与する。
3.薬物の使用: アルコール、タバコ、違法薬物の使用。
4.セクシャルな行動: 年齢に不適切な性的行動を示す。

感情的・精神的な問題行動
1.感情の爆発: 怒りの制御ができずに突発的な怒りを示す。
2.不安や抑うつ: 極端な心配や悲しみを示す行動。
3.自傷行為: 自分自身に危害を加える行動。
4.社交不安: 社会的な場面で極度の不安を感じる。

これらの問題行動は、子どもが抱える感情的な問題、家庭や学校でのストレス、友人関係や社会的な圧力、そして健康問題など多くの要因によって引き起こされる可能性があります。問題行動は単に子どもの「手に負えない振る舞い」として片付けられるべきではなく、潜在的なストレスやトラウマのサインとして注目され、適切な介入が求められます。

【気になる行動の背景を理解するために】

子どもの問題行動の背後にある要因を理解し、それにトラウマインフォームドケアを結びつけるため、過去のトラウマ体験に基づいて子どもの行動を理解することで、今まで見えてこなかった子どもの問題行動の理由を知る第一歩となります。子どもの気になる行動の背景を理解するには、トラウマの視点とトラウマインフォームドケアの視点からいくつかの要素に注意を払うことが重要です。

①生い立ちと家庭環境:
子どもが成長してきた環境や家庭の状況を理解することは重要です。家庭内の関係、家庭内暴力、虐待、離婚、喪失などが問題行動の背景に影響を与える可能性があります。

②トラウマ体験:
子どもが過去にトラウマ体験をした可能性があるかを探ります。身体的、感情的、または性的虐待、事故、自然災害、戦争など、さまざまなトラウマ体験が問題行動の原因になることがあります。

③発達段階:
子どもの年齢や発達段階に応じた行動の理解が必要です。年齢によって適切な反応や行動が異なりますので、その違いを理解することが大切です。

④感情と心理的状態:
子どもの感情や心理的な状態を理解することで、問題行動の背景にある感情的な要因を把握する手助けとなります。不安、抑うつ、怒り、恐怖などが問題行動につながることがあります。

⑤コーピングスキル:
子どもがストレスや困難な状況にどのように対処しているかを知ることが重要です。適切なコーピングスキルがない場合、問題行動が表れることがあります。

⑥サポート体制:
子どもが適切なサポートを受けているかどうかを調べます。家庭、学校、地域のサポート体系が問題行動の改善にどのように関与しているかを理解することが必要です。

トラウマインフォームドケアでは、これらの要因を考慮しながら、子どもの問題行動の背景に何があるのかを意識して知ろうとする姿勢が大切です。さらに言えば、子どもが経験したトラウマを認識し、それに応じたケアを提供することが目指されます。

問題行動を示す子どもに関わる大人がトラウマに関する知識を持ち、その知識を活用して子どもが安全で、肯定され、支援される環境を作ることも求められます。専門的なカウンセリングや心理療法が必要な場合、適切な専門家の指導を受けることも時には必要です。

子どもがトラウマ体験をすると、その記憶が脳に刻まれ、さまざまなトラウマ反応が生じます。例えば、DVを経験した子どもは、似たような状況に遭遇するとトラウマ記憶を思い起こし、突然の行動変化を示すことがあります。これはトラウマによって過覚醒状態に陥り、異常な行動を引き起こす可能性があることを意味します。人の心理的なメカニズムを考えると、トラウマを抱える子どもにとって異常な行動をとること自体はごく自然な反応であるということを理解することも大切なポイントです。

問題行動が発生した場合、一般的には周囲の大人はしばしば子どもの反省を求めますが、トラウマによる行動変化は単純な反省だけでは解決できないことがあります。また、発達障害とトラウマの影響は類似しており、両者を区別するのは難しいとされています。トラウマの影響を理解するためには、子どもの生育歴を注意深く追跡し、特定の行動がいつからみられるようになったのかを確認する必要があります。これによって、生得的な特性とトラウマの影響を区別する手立てを得ることができることでしょう。

【最後に】

トラウマ体験は脳に刻まれ、思い起こさせるきっかけ(リマインダー)によってフラッシュバックを引き起こします。これにより、子どもは過去のトラウマ場面を再体験してしまい、防御的な行動や反応を示すことがあります。しかし、周囲の人からはこの行動が攻撃的に見え、問題行動として捉えられがちです。

大切なことは、トラウマが「こころのケガ」だということを知ることです。身体のケガであれば、外から見ればすぐに手当が必要なことが分かります。しかし「こころのケガ」は外からは見ることができません。それが身体のケガ以上にケアが必要だとしても。そのためトラウマを知ることは、「こころのケガ」を手当てするために必要なことなのです。

トラウマが背景にある問題行動は単なる反省だけでは解決できないことがあります。子どもに関わる支援者や大人は、子どもに「どうしてそんなことをしたのか」と尋ねるだけではなく、子どものこころのケガに対する理解を持つことが必要です。また、トラウマと発達障害の特性は類似しているため、両者の判別が難しく、生育歴や行動の変化を注意深く観察することも必要です。

次回は「こころのケガ」になりうる出来事やトラウマについてさらに詳しく考えていきたいと思います。

【参考資料:『トラウマインフォームドケア“問題行動”を捉えなおす援助の視点』著:野坂祐子・2019、『実践トラウマインフォームドケア』著:亀岡智美・2022】

【トラウマインフォームドケアという関わり】シリーズはこちらからご覧になれます。
【トラウマインフォームドケアという関わり】①環境要因によって形づくられる子どもの発達の質とは・・・
【トラウマインフォームドケアという関わり】②なぜ今の時代に必要とされているアプローチなのか

さまざまな社会生活の変革という過渡期での不安やストレスは、さまざまな形で表出されることがあります。ポジティブな考えを持つきっかけとして、そして安心・安全な人との関わりを通して生きる力を養うサポートもカウンセリングの一側面とも考えています。子育てや子どもの抱える不安やストレスに関してのご相談もお受けしております。

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Writing by古宇田エステバン英記

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