所属カウンセラーの安澤です(※Y.Yから本名に変更しました)。
第3回は『子どもの心のストレスをたまごで例えてみる《情緒の可視化》』です。
第1回は、健康な心の状態と不健康な心の状態を三角形と逆三角形で説明しました。
第2回は、不健康な状態でのストレスのあらわれ方(4パターン)についてでした。
(第1回目はこちらから、第2回目はこちらからご覧いただけます。)
今回は、健康と不健康の状態を行き来する過程について「心のストレス」の視点から理解を深めていきます。
そもそも「心のストレス」ってどんなイメージをふくらませますか?
子どものストレス
「心のストレス」は、H.Selyeによるストレス理論に端を発します。
ストレスとなる対象(ストレッサーとも言います)は、日常生活で私たちに振りかかる小さなストレスフルな状態から衝撃的な出来事によるトラウマ症状まで幅広く存在します。
そして、ストレスの受けやすさやそれに耐えられる力(ストレス耐性)、ストレスへの対応力(はね返す力・回復力)という内側の要因と、様々な出来事という外側の要因が重なり合い、心が傷つく程度は変化していきます。
子どもの場合も、発達の偏りや病気、性格傾向や成長度合いといった内側の要因と、家庭環境、人間関係でのトラブルや喪失体験、さらには事件や事故、災害に巻き込まれる体験といった外側の要因によってその程度は異なります。
川畑友二(2015)※1は、心理的なストレスを「火傷」で例え、重度の火傷から低温傷までの程度で説明しています。
また考え方は異なりますが、大河原美以(2014)※2は、子どもに「安全な場所」であるたまごに、自由に色を塗る作業をさせ、現在の不快体験を理解し、その気持ちが守られている感覚を促す「ゆでたまごモデル」という描画を試みています。
私もこれまでにストレスが振りかかり心が傷ついていく過程について、たまごのイメージで例えてきました。簡単なイメージがあると「今はこの程度なんだな」とか「今は~しておこう」と見立てることが出来ます。
心のストレスをたまごの種類で例えてみよう
心をたまごに見立て、たまごの中身(黄身・白身・カラ)でストレスへの反応を示してみます。
「黄身」は「ストレスの受けやすさ」であり、「白身」が「ストレスに耐える力」、そして「カラ」は物理的なバリア(例:家や部屋等)とします。
たまごの温め具合を「環境や周囲のサポート」と捉えます。その上で、ストレスを受けた程度を『ゆでたまご』、『半熟たまご』、『温泉たまご』、『なまたまご』という4種類のたまごに例え、簡単に説明します(図-1、表-1参照)。
図-1 心のストレスをたまごで例えてみる
表-1 心のストレスと4種類のたまご
ゆでたまご
ゆでられている状態です。
ストレスを受け、カラが割れても中身(白身・黄身)がしっかりと温められています。
ストレスは受けにくく、耐える力やはね返す力があり、子ども自身でストレスに対応出来る方法を持っています。
たまごがゆで上がっているので、心が傷つきにくく、健康な状態を保てています。
▽具体例
・「私は今ゆでたまごの状態(健康な状態)だから、失敗しても大丈夫」と受け止める。
半熟たまご
半分程度ゆでられている状態です。
カラが割れると、白身はゆでられていますが、黄身は半熟の状態です。
ストレス対処法などは備えており一定程度のストレスには耐えられますが、ゆでたまごに比べ、ストレスを受けやすく、心が傷つきやすい状態です。
子ども自身が、何とか乗り越えようと努力するので、そのサポートを周囲が行い、心を温めていくことで、ストレスに耐え、心が傷つきにくい状態に育てていくことが出来ます。
▽具体例
・保護者が「うちの子は、昨日怒られて、ゆでたまごから半熟たまごの状態(ストレスを受けやすい状態)になったように見えるから、ちょっとそっとしておこう」と思うようにする。
温泉たまご
しっかりとゆでられていない状態です。
カラが割れると、白身が少しだけ形を成しています。
しかし、白身が崩れると、ほぼ液体の黄身がゆっくりとにじみ出ます。
早いうちにストレスに耐えられず、心が傷ついてしまい、何らかの問題が生じやすいです。
子ども自身で乗り越える力はほとんど身についていないため、環境や周囲のサポートにより、もっと子どもの心を温め、ストレスに耐えられるように育てていく必要があります。
▽具体例
・子どもが友人からの悪口を言われ、「俺、今、温玉(カラを破られると耐える力がほぼなく、対処法が浮かばない状態)な気分だよ。だから助けてくれよ」と助けを求める。
なまたまご
全てがなまの状態です。
たまごは未熟であり、カラが割れたら、白身は無く、黄身が液体状に流れ出ます。
ストレスへの対応力が全く身についていないため、全面的にストレスを受け、傷つき、すぐに何らかの問題が生じます。
子ども一人では、心が不健康な状態です。
まずは、何らかのサポートを見つけ、心を温めていくことから始めていきます。
▽具体例
・支援者が「あの子は今混乱していて、自分ではどうにも出来ない、なまたまごの状態(不健康な状態)。だから、周囲がサポートして温めていく必要があるわね」と考える材料にする。
なお、「温め」の役割を果たす環境や周辺サポートは、子どもの心をほどよく温めることが大切です。
心の負担にならないように、加熱し過ぎたり冷た過ぎたりせず、加減をしていくことが求められます。
そして、温められていないたまご(強いストレスを受けている心)を支えるためには、土台となる環境を整え、温めていくことが大切です。
そしてたまごの中身は、子どもの心の状態や環境によって変化するため、その程度も行きつ戻りつします。
まとめ
●心のストレスの程度を4種類のたまごで例えて視覚的に分かりやすくする。
●心のストレスの程度を理解したら、その程度に応じたサポート方法について考えてみる。
●心のストレスは、子どもの状態や環境によって様々であり、その程度も行きつ戻りつする。
以上のように、たまごの比喩を用い、子どもの傷つき具合を誰かに伝える時、保護者や支援者が子どもの状態を理解する時に、子どもの心のサインを見つける一助となれば幸いです。
私自身も、目に見えない「傷つき」について度々説明しますが、「たまご」という例えは、大人でも子どもでも誰でもイメージしやすく、「あ~なるほど~」と納得してもらえたり、「すごくわかりやすい」と言ってもらったりしています。
また、「たまご」という丸いものでの表現なので、何かどことなく、「傷つき」という辛いテーマなのに、ほっこりしながら話し合えるため、心理的にあまりどんよりしなくなる効果がありました。
ぜひ、日々の生活の中で使ってみてください。
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【参考文献】
※1 川畑 友二 (2015)子どもの精神療法 岩崎学術出版社
※2 大河内 美以(2014) 子どもの感情コントロールと心理臨床 日本評論社
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