こんにちは、所属カウンセラーの古宇田です。
この記事を書いている頃、東京に久しぶりの雪が舞い降り、街の景色は一変しました。冷たい風が鼻先をかすめ、空気中には雪の粉が舞い踊っていました。職場の一つである児童養護施設では、子どもたちが喜び勇んで庭や公園で雪合戦を楽しんでいました。その無邪気な笑顔が、私のこころにほんのりと温かさをもたらしてくれました。雪の中で純粋に楽しむ子どもたちのように、私たちも心の中にある純粋な喜びを大切にしていきたいと思います。
さて前回は、家族とのコミュニケーションについてお伝えしました。新しい年を迎え、家族との絆をより一層深めるために、共有時間の大切さ、共通の趣味やアクティビティ、デジタルデトックス、そして積極的なコミュニケーションの促進に焦点を当てました。今回は以前からシリーズでご紹介してきた【トラウマインフォームドケアという関わり】を引き続きお伝えしていきたいと思います。
前回の「子どもの気になる行動の背景を理解するためのヒント」では、トラウマが「こころのケガ」であることを理解することが大切と強調しました。身体のケガならば外から見て即座に手当が必要なのに対し、「こころのケガ」は外からは見ることができません。それが身体のケガよりもケアが必要だったとしても。トラウマを理解することが「こころのケガ」をケアするために不可欠となってきます。そのため今回のコラムでは、「こころのケガ」になりうる出来事について、お伝えしていきます。
【子どものこころに衝撃を与える出来事、トラウマとは?】
非常にショッキングで強い恐怖を伴う出来事、自分では対処できないような圧倒される体験などをすること、これらのつらくて怖い体験をすることで、こころが傷つくことがあります。また日常生活で感じるストレスと比べて心身にかかる負荷が桁違いに大きいため、このような傷つきを一般的には「トラウマ」といいます。
自分自身が体験しただけでなく、目撃すること、身近な人が体験した場合も含みます。多くの子どもは大人に成長するまでに、このようなこころの傷つき体験をするといわれています。ただし、これらのトラウマを体験したからといって、すべての子どもにとって、こころのケガになるわけではありません。
「トラウマ」は、個人が感情的な苦痛や心の痛みを経験する出来事や状況を指します。これは主観的な経験であり、人それぞれ異なる要因によって引き起こされることがあります。同じような体験をしたにもかかわらず、それがこころのケガになる人もいれば、多少の不調を抱えながらも通常の生活に戻っていける人もいるというわけです。
【トラウマになりうる出来事】
子どもがトラウマを抱える原因はさまざまです。虐待、事故、災害、家庭内の問題などが挙げられます。また、親の離婚や重要な人の死なども子どもにとっては大きなストレス源となり得ます。一般的にトラウマになりやすい体験としていくつか具体的に例を挙げてみます。
① 虐待やネグレクト: 子どもが身体的な虐待や感情的な虐待を受けると、それがトラウマの原因となります。また、親やケアギバーからの無視や適切なケアを受けられない場合もトラウマを引き起こす可能性があります。
② 事故や怪我: 交通事故、災害、重大な怪我をした経験は、子どもに深刻な心的影響をもたらすことがあります。これらの出来事は予測不可能で恐ろしいものとして、子どもの心に強い印象を残すことがあります。
③ 災害や戦争の影響: 自然災害や戦争体験も、子どもにとって大きなトラウマの原因となります。家を失ったり、家族や友達を失ったりすることは、安全や安心感を奪われることにつながります。
④ 家庭内の問題: 親の離婚や家庭内の暴力、アルコールや薬物の依存症など、家庭内での問題も子どもにとって重大なストレス源となり得ます。これらの状況は子どもの安定感や信頼感に影響を与えることがあります。
⑤ 恐怖体験: 身の回りで怖い体験をすることもトラウマの原因です。例えば、恐い映画を見たり、恐ろしい夢を見ることが原因で、子どもが安心感を失うことがあります。
⑥ 虐待的な対人関係: 学校やコミュニティでのいじめや虐待的な対人関係も子どもにとってトラウマとなります。仲間外れにされたり、暴力的な言動を経験することで、子どもは安全でないと感じる可能性があります。
⑦ 喪失: 親や兄弟、友達、ペットなど、大切な存在の死や失踪は、子どもに喪失感や寂しさをもたらし、トラウマを引き起こすことがあります。
⑧ 病気や手術: 重い病気や手術を経験することは、子どもにとって身体的な苦痛だけでなく、精神的な苦痛をもたらす可能性があります。
これらは一般的な例であり、子どもがトラウマを抱える原因は個別の状況により異なります。またこれらの要因は単独でなく、複数が同時に影響を及ぼすこともあります。
子どものトラウマになりうる出来事はさまざまですが、その中でも特に注意が必要なものがあります。例えば、身体的な虐待や精神的な虐待、性的な虐待は、子どもに深い傷を残す可能性があります。また、自然災害や事故、戦争などの非常事態も、子どもの心に深い影響を与える可能性があります。これらの出来事は、子どもの安心感や安全感を失わせ、心の安定を脅かし、その結果、子どもは恐怖、不安、抑うつなどの感情を抱え、トラウマによる悪影響が生じることがあります。
子どものトラウマになりうる出来事が引き起こす心の傷は深刻です。しかし、適切なサポートや心理的なケアが提供されれば、子どもたちは健やかに成長し、トラウマから立ち直ることが可能です。家庭や社会全体で子どもたちを支え、理解し、安心感を提供することがとても大切なことなのです。
【最後に】
能登半島地震で石川県内の全小中学校の子どもが登校可能になり、被災地では日常生活を取り戻す動きが出てきました。余震の不安や不便な生活が依然続く中、被災した子どもたちのメンタルケアを図る取り組みも広がり始めています。過去の震災では心的外傷後ストレス障害(PTSD)が疑われる症例が少なくなく、被災体験が子どもの精神面に与える影響は長期に及ぶこともあり、息の長いケアが求められます。
人生には、予期せぬ出来事が待ち受けています。時には、心に深い傷を残す出来事に直面することもあります。しかし、それらの経験から学び、成長することができるのも事実です。こころのケガは避けられないかもしれませんが、それを乗り越える力は私たちに備わっています。大切なのは、困難に立ち向かう勇気と、傷を癒すための時間と努力を惜しまないことです。トラウマインフォームドケアは、傷ついた心を癒すための重要なヒントを与えてくれます。優しさと理解をもって、トラウマを抱える人々を支えることができます。引き続き【トラウマインフォームドケアという関わり】についてコラムを書いていきたいと思っています。
【参考資料:『トラウマインフォームドケア“問題行動”を捉えなおす援助の視点』著:野坂祐子・2019、『実践トラウマインフォームドケア』著:亀岡智美・2022、『こころとからだがえがおになる本』公益社団法人被害者支援都民センター】
【トラウマインフォームドケアという関わり】シリーズはこちらからご覧になれます。
【トラウマインフォームドケアという関わり】①環境要因によって形づくられる子どもの発達の質とは・・・
【トラウマインフォームドケアという関わり】②なぜ今の時代に必要とされているアプローチなのか
【トラウマインフォームドケアという関わり】③子どもの気になる行動の背景を理解するためのヒント
社会生活の変革という過渡期での不安やストレスは、さまざまな形で表出されることがあります。また、被災地の皆さまにとっては日々変化を遂げる環境の中で、ご心配を抱えた状況の方がいらっしゃることと思います。心身の安全最優先でお過ごしいただければと願います。ポジティブな考えを持つきっかけとして、そして安心・安全な人との関わりを通して生きる力を養うサポートもカウンセリングの一側面とも考えています。子育てや子どもの抱える不安やストレスに関してのご相談もお受けしております。
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