COLUMNコラム

【児童虐待、トラウマそして複雑性PTSD:後編】こころの傷つき体験を乗り越える力とは・・・

こんにちは、所属カウンセラーの古宇田です。

2021年も残り僅かとなりました。と前回の冒頭でも書きましたが、本当に2021年も数日となりました。国内ではコロナ新規感染者数もめっきり減ったものの、新たな変異株の出現に今後も心配な状況です。今の時代はコロナという不安の種がありますが、いつの世も何かしら不安の種はありました。不安の中にいたとしても人との関わりを通してエネルギーをもらい、逆に与えつつ、さまざまな不安を乗り越えてきたことだと思います。

今回のコラムのテーマでもあるトラウマを乗り越える力にも「人」がとても大切なキーワードになってきます。

さて前回のコラムではトラウマ複雑性PTSDに触れましたが、今回はもう少し詳しく子どもにみられるこころの傷つき体験がどのようなものであるかをご紹介します。大きなストレスによるトラウマに限らず、日常のなかでの小さな傷つき体験が子どもの心の動きにどういったことを引き起こさせてしまうのかを考えていきたいと思います。

前編のコラムはこちらからご覧になれます。読まれていない方はぜひご覧ください。
【児童虐待、トラウマそして複雑性PTSD:前編】こころの傷つき体験を乗り越える力とは・・・

【PTSDとはどのような状態なのか、そして複雑性PTSDとは・・・】

まずはPTSDつまりトラウマを抱えることで一体どういった状態になってしまうのかをざっとですが、お伝えします。

症状の出現の仕方は人それぞれで違っていますが大まかにPTSDの症状として①フラッシュバック②過覚醒③回避があります。症状といっても、普段誰もが日常で不快であったときに起こりえる自然な人間としての反応でもあります。簡単な例ですと、つらい体験をふと思い出してしまったり、イライラ感や集中困難など、嫌なことがあればそれを避けることで嫌なことを忘れようとしたりといったことです。

ただ、強烈なストレスフルな体験をしたり、またストレスに晒され続けることで頻繁にこうした反応が続いてしまうと、身体やメンタルに不都合が起きてしまい、健康さを保つことが立ち行かなくなってしまいます。

具体的な状態としては・・・

①フラッシュバック:トラウマに関する不快で苦痛な記憶が突然蘇ってくる、悪夢として反復される、思い出したときに気持ちが動揺したり、動悸や発汗(身体生理的反応)を伴う状態となります。
②過覚醒:睡眠状態の崩れ、イライラ感、集中困難、過剰な警戒心、ちょっとした物音などの刺激にもひどくビクッとするような過剰反応があります。
③回避:トラウマに関して考えたり話したりすることを極力避けようとしたり、思い出させる事物や状況を回避してしまう。興味や関心が乏しくなり、周囲との疎外感や孤立感を感じ、自然な感情がマヒしたように感じられる状態がみられます。

そして複雑性PTSDには上記の3つの症状に④極端な感情の不安定さ⑤否定的な自己をもつこと⑥対人関係の問題が加わってきます。

主な状態として・・・

④極端な感情の不安定さ・・・気持ちが傷つきやすい、逆に感情が暴力的に爆発してしまう。
⑤否定的な自己をもつこと・・・ネガティブな自己像を抱えがちになってしまう。
⑥対人関係の問題・・・他者に対して親密感をもつことへの難しさ、人と関わりを持つことへの回避や関心の乏しさなどです。

大きなストレスによるトラウマに限らず、日常での小さな傷つき体験の積み重ねによっても、子どもの心のサインがどのように日常のなかで見られるようになってくるのかを次に見ていきたいと思います。

【子どもにみられるトラウマの症状】

年齢別にみられやすい子どものトラウマ症状として、0~5歳、6~12歳、13~18歳の3つの年代に分けてお伝えします。特徴的にそして頻繁にみられるということがポイントになります。(引用元:精神療法第45巻3号「児童の複雑性PTSDへの対応」細金・齋藤、2019)

0~5歳:
・イライラしやすい、怒りっぽい。
・びっくりしやすく、落ち着くのが難しい。
・極度なかんしゃくを起こす。
・大人のそばを離れるのを怖がる。
・同年代の子どもに比べて多動であったり、逆に活動さが乏しい。
・遊びや会話の中でトラウマ体験を繰り返し再現する。
・身体的発達や言語の発達に遅れが見られる。

6~12歳:
・不注意が過ぎる。
・大人しく、引きこもりがち。
・度々泣いたり落ち込んだりする。
・恐ろしい気持ちや考えについて頻繁に話す。
・物事の切り替えが難しい。
・衝動的なケンカをしてしまう。
・学校での様子が変化する。
・一人でいたがる。
・食べ過ぎや、食べなさすぎ。
・家庭や学校で問題を起こしやすい。
・頭痛や腹痛を訴える。
・指しゃぶりやおねしょ、暗闇を恐れるなど、年齢に見合わない行動を見せる。

13~18歳:
・トラウマとなった出来事について話し続けたり、逆に話したがらない。
・ルールを守らず、口答えをする。
・疲れやすい。
・同年代に比べて睡眠時間が長かったり、逆に短い。
・悪夢を見る。
・危険行動や反抗的な態度をとる。
・友達と一緒にいたがらない。
・薬物やアルコールの乱用。
・家出や反社会的な行動。

複雑性PTSDを背景として、心の動きが行動に出ると上記のような症状として表れるということです。しかし中にはトラウマを抱えなくても、日常の子どもに一般的に見られる様子もあります。子どもはそれぞれの症状の表現方法が違うので、子どもの様子を捉える大人の目を鍛えることも大切になってきます。そのために参考となるトラウマへの対応や予防について次に見ていきましょう。

【トラウマへの対応と予防に必要なこと】

トラウマを抱えている子どもは大人から「困った子」と見られることがあります。ただ実は子ども自身が「困っている子」だと考える視点が大切です。何かしらの子どもの問題行動の背景にはトラウマが潜んでいるかもしれません。

そのため大切なことは、

①いつもと違う子どもの言動に気を配ること。

②大人側の対応の仕方を変えてみること。

③肯定的なコミュニケーションを心がけること。

④子どもは自分から相談できない場合があるため、子どもの話を聞いてあげることが必要になります。
(引用元:「子どもの心のケア」兵庫県こころのケアセンター、2015)

また大人側の基本的な姿勢として、子どもの自己決定権を尊重し、一貫した態度で関わり、共感的でありつつも侵入的になりすぎない距離感を保つことが大切になってきます。子どもはこうした大人の姿勢に安心と安全感を覚えます。子どもが安心で安全と感じる関係のなかで、トラウマやネガティブな感情を表現することで、それらが癒される可能性は十分にあり得ます。さらにレジリエンスという考えが、トラウマを和らげることも分かってきています。

【レジリエンスという力について】

心理学的なレジリエンスという言葉の定義は多岐に渡りますが、アメリカ心理学会のホームページでは「(人が)逆境、トラウマ、悲劇、脅威、極度のストレス(家族関係の問題、健康問題、職場や経済的な問題)に直面する中で、適応していくプロセス」と定義しています。逆境にあってもめげることなく頑張れる力とも言えるのではないでしょうか。

そしてそのレジリエンスを促進するのに不可欠なことがユーモアであったり現実的な楽観主義を培うことと言われています。逆境に対する考え方を変えるように手助けすることによってレジリエンスも高まります。

今後このレジリエンスということについても詳しくお伝えしていきたいと思っています。

【最後に】

近年トラウマインフォームドケアという考え方がトラウマを抱える子どもと向き合うためには大切で必要なこととして考えられています。子どもに関わる大人がトラウマのことをよく知って、そして子どもと共にトラウマによる反応がどういったものであるのかを一緒に考えることです。トラウマの影響による子どもの状態を理解しようとすることが大切です。

「トラウマは消えるのですか?」と聞かれることがあります。私の経験では残念ながら、トラウマが記憶から消えるということはないと考えています。しかしトラウマの意味を捉えなおし、その体験や記憶にともなう痛みを再評価していくことで、トラウマの衝撃を和らげて、トラウマをしなやかに乗り越える力を人は持ち得ているとも考えています。そのためには家族や身近な人との交流がとても大切になり、つまるところ子どもが親の顔を見ると安心する関係性がトラウマを癒していくのではないでしょうか。

今回は【児童虐待、トラウマそして複雑性PTSD:後編】こころの傷つき体験を乗り越える力とは・・・をお送りしました。少しでも興味関心をもって頂き、子どもを見る視点を増やして頂ければ幸いです。

長期に渡るコロナ禍での不安やストレスは目に見えない形で出ていることもあります。ポジティブな考えを持つきっかけとして、また安心・安全な人との関わりを通して生きる力を養うサポートもカウンセリングの一側面とも考えています。子育てや子どもの抱える不安やストレスに関してのご相談もお受けしておりますので、どうぞご利用ください。
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Writing by古宇田エステバン英記

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