COLUMNコラム

【精神科医が解説】より良い夫婦・パートナー関係のために<No.4 全ての不満の正体は “ずれ” >

こんにちは!所属精神科医のT.Sです。

このコラムでは、

私が精神科医として患者さんと接する中で手に入れ、磨き上げてきた様々な武器
つまりは「幸せになるコツ」

を紹介しています。

現在、『より良い夫婦・パートナー関係のために』という連載を掲載しております。

前回のコラムから1ヶ月が経ちましたが、その間の私の外来にも、夫婦・パートナー関係で悩む数多くの患者さんがいらっしゃいました。

「旦那は、私がやってほしいとはやってくれないくせに、やらないでほしいことばかりやるんです。それで毎日喧嘩をしてて…イライラが止まりません!」

「妻からキツく注意されすぎて、家でどう過ごせば良いのか分からなくなってしまい、気づけば長時間トイレに籠るようになりました…そこが唯一気が落ち着く場所で…」

声を大にして何度も良いますが、夫婦・パートナー関係の悩みを抱えている患者さんは、本当に、本ッッッッッ当にたくさんいらっしゃいます!!
悩みが夫婦、パートナー関係そのものである場合もあれば、実は今の困りごとの背景に隠れている場合もあります。

そこで、今回も引き続き『対人関係療法』という強力な武器を使いながら、夫婦・パートナー関係の問題に切り込んでいきます!
ぜひご一緒に、メンタルトレーニングに励みましょう!

なお、今回も引き続き、水島先生のこちら↓の書籍で勉強させていただいた内容をもとに話を進めていきます。
繰り返しお伝えしておりますが、私にとってはもはや神器のような本です。
少しでも興味の湧いた方は、ぜひ手に取ってみてください!

『対人関係療法で改善する 夫婦・パートナー関係 水島広子 著』

…そして。

「相手が!そもそも!!いないんだよ!!!」ということでお困りの方には、過去に私が掲載したマッチングアプリに関するコラムが参考になるかもしれません!

私はマッチングアプリの回し者でもなんでもないのですが、現代の出会いの手段として、使い方を間違えなければ有用なものだと考えています。
その使い方について、気をつけなければいけない点などを詳しく解説しておりますので、ぜひご一読いただけると幸いです。

それでは、本題に移っていきます。

前回までのおさらい

まず最初に、前回までのコラムで紹介した内容について、大切なポイントのみまとめておきます。


〇対人関係療法における『重要な他者』である夫婦・パートナーとの関係は、人間のメンタルヘルスを健康に保つうえで非常に重要である
〇この関係は、実はかなり微妙なバランスの上に成り立っていて、ちょっとしたきっかけで破綻する可能性を秘めている
〇しかし、近しい存在がゆえに『元々全く別の人間である』という感覚が乏しくなり、自分とは違う一人の人間として相手を尊重できなくなる危険性がある
◯男女という性差に伴う「”気遣い”の形の違い
」は、ともすれば喧嘩の火種になりうる


前回のコラムでは、主に男女の違いについて述べました。
すなわち、「すぐに解決したがる男性」と、「寄り添いを求める女性」ですね。

男性は、相手が抱えている問題を解決することこそ『気遣い』だと考える。

女性は、どれだけ自分の気持ちに寄り添ってくれるかこそが『気遣い』だと感じる。

もちろん例外はありますが、一般にこのような傾向があります。
私の体感上でも、これが男女逆で起こるケースはかなり少ないですね。

女性が求める「話を聞くだけ」の意外な効能

「なんでそうやってすぐ解決策ばっかり提示してくるの!?」
「少しはこっちの気持ち考えたことあるの!?」

そういった不満を女性からぶつけられ途方に暮れた男性、かなり多いのではないでしょうか?

ここで僭越ながら私が、世の多くの男性の声を代弁いたしましょう。

 

「え…困ってるから解決策を提案したわけだが…俺なんか悪いことしました…?」

「寄り添って気持ち聞くだけじゃ問題解決しませんけど…それって何か意味あンの?」

 

…それ以上いけないッッ!

分かります…分かりますとも…
私も男性の端くれ(?)として、パートナーとトラブルになったときに何度そう思ったことか…

しかし、私が長年抱えていたこの疑問に、水島広子先生の著書『対人関係療法で改善する 夫婦・パートナー関係』が、一つの輝かしいアンサーを示してくださったのです…!

以下にそれを紹介していきます。

 

まず水島先生曰く、ネガティブな感情というのは、頭の中に置いておくと非現実的に膨張します。そうすると、前向きな気づきや思考の妨げになってしまうわけです。
これは皆さんも、なんとなく納得できると思います。

また、誰かや何かに対して心から腹を立てているような時、人はどれほど自己正当化していようと、自分の感じ方が100%正しいと思っているわけではありません。「こんなことで怒る自分って小さいなァ…人として未熟だなぁ…」とか、そんなことを思ったりする気持ちも多少あるわけです。

そうやって若干後ろめたい気持ちがある場合に、ただ自分一人で抱え込んでしまうと、どうなるでしょうか。
後ろめたい気持ちを見ないで済むように、余計に自己正当化を強めなければならなくなります。
その結果、ますます自分の感情に囚われていくわけですね。

「…今改めて考えてみても、やっぱり今回はあっちが悪いわ…あっちがあんなこと言ってこなかったら、自分だってこんなに怒ってなかったはず…ウム、どう考えてもこっちに非はないな…はい閉廷!!

皆さんの頭の中にも、こんな脳内一人会議の議事録が山程見つかるはずです。
(見つからなかったら自分を誇ってください)

ではここで、「ただ話を聞く」を実践してみると、どうなるでしょうか。

人は、安全な環境で「ただ話を聞いてもらえる」ことにより、ネガティブ感情が現実的な大きさに収まってきます。

さらに、「そうだったんだ…大変だったね」などと感じ方を肯定してもらうことで、「私はこう感じて良いんだ」と安心し、自己正当化にエネルギーを使わなくて済むようになります。

その結果、自分の感情への囚われが緩み、気持ちが整理され、客観的な見方が可能になったり、思考も前に進んでいくのです。

つまり、話をただ聞いてあげることにより、『重要な他者』であるパートナーの頭の中のネガティブ感情を縮め、気持ちを整理する手助けができるということです。

そしてこの手助けは、パートナーから自分に対しての信頼や安心感に繋がり、結果として夫婦・パートナー関係をより良いものにしてくれるので、自分にとっても非常にメリットが大きいわけです。

これは実践しない手はないですね!

※ちなみに、海外では精神科医のことを「shrink」と呼ぶことがあります。
もともと「shrink」には「縮める」という意味合いがあり、「妄想でいっぱいになった頭を縮める人」という意味合いで精神科医のことをこう呼ぶようになったようですね。

「攻撃」の要素をすべて削ぎ落とす

では逆に、思い悩んでいるときに 安心感 を感じられない返答をされると、人はどうなってしまうのでしょうか。

例えばあなたがひどく悩み、頭の中がグチャグチャにこんがらがっているとき、頭ごなしに

「そんなこと悩むだけ時間の無駄だって」
「愚痴ばっかり言ってないで、解決策考えてやったほうがいいんじゃない?」

などと言われたら、どうでしょうか?

頭の中のケンが、「俺の、俺の、俺の話を聞け」と暴れ出しませんか?

私たちはどういうわけか、「自分が強く言うことで相手を変えられる」という変な思い込みを持っている人が少なくありません。

その背景には、「自分の言うことを聞いたほうが、結果として相手を早く救ってあげられる」という、やや身勝手な正義感があったりするわけです。
そしてその根底にあるのは、「自分が正しい」という過信です。

しかし往々にして、「自分が正しい」という姿勢で迫られると、人は安全安心感を感じられず、場合によっては自分を否定する「攻撃」だと捉えてしまうものです。

そして人は攻撃されると当然、自分を守ろうとします。

言い返したり、怒鳴ったり、逆に沈黙したり、自分を正当化したり、部屋に閉じこもったり…

ありとあらゆる手段で、自分を守ろうとするのです。

そんな状態で、今起こっている問題や2人の未来について、前向きに話し合っていけるでしょうか。
できるわけがありませんね。

言うまでもなく夫婦・パートナー関係は、相手あってのもの。

自分が安心し、満足できる関係を作り上げるためには、相手の協力が必要不可欠です。

そして相手に協力してもらうためには、相手から見たときの攻撃的な要素を排除していくことが、非常に重要なポイントになるのです。

そして、この「相手が攻撃されたと感じない」ことを重要視している心理療法こそ、「対人関係療法」なのです。

 “人格” ではなく “パターン” の問題と捉える

 

対人関係療法では、相手の人格や自分の認知を直接取り上げて、あーだこーだと不満を言ったり修正させるようなことはしません。

スポットライトを当てるのは、あくまで「自分と相手の間に何が起こっているのか、そこにどんな “ずれ” があるのか」に尽きます。

「問題の本質はお互いの人格ではなく、二人の間にあるパターンそのものだ」という前提から始めていくのです。

対人関係療法においては、「相手に不満がある」ということを「相手に期待していること(役割期待)が満たされていない」というふうに捉えます。

一見同じことを繰り返しているように聞こえますが、実は大きく違うのです。

前者では「相手に問題がある」ニュアンス、つまり対象は「相手」になります。

それに対し後者では、「期待が満たされていないという状態そのもの(パターン)が問題である」というニュアンスです。つまり、対象は「相手」ではなく、「お互いの間で起こっていること」なのです。

これ、あなたの人格や認知に問題がありますよーって指摘されるより、かなり優しいと思いませんか?

このように、あらゆる対人ストレスを「役割期待のずれ」として見ていくのが、対人関係療法のポイントです。

全ての不満の正体は「役割期待のずれ」

ただ不満という形で語られると、相手に対する人格的な決めつけや否定のように聞こえがちです。

また、「原因は相手にある」と考えてしまうと、それはもはや相手だけの課題となってしまい、自分にできることはほとんど無くなってしまいます。

しかし、その不満を「ずれ」として語る場合、「お互いが参加して作り上げるもの」という感覚が強まり、目指すべき一つの人間関係の輪郭が見えやすくなってくるものです。

(例)「夫が節約に協力してくれない」
→「節約に協力してほしいと期待しているのに、現実は協力してもらえていない」

そして「役割期待のずれ」が問題なのだと考えることができたら、あとは少しずつやるべきことが見えてきます。
例えば、

・自分は相手に何を期待しているのか
・その期待は相手にきちんと伝わっているのか
・どのように満たされていないのか
・その期待は相手の現実に合った妥当なものなのか

このように自分の役割期待を整理することで、取り組むべきことが明確になってくるのです。

さらに、問題は相手ではなく「ずれ」そのものであると考えることにより、相手への攻撃性も薄れますので、相手もより一層、ずれの修正に協力してくれるようになります。

良好な夫婦・パートナー関係を築くにあたって、この「ずれ」にいかに取り組めるかが最重要ポイントなのです。

いかがだったでしょうか。

ここにきてようやく…という感も否めませんが、いよいよ対人関係療法の真髄に少しだけ触れることが出来ました。

これは完全な私事ですが、先日私が妻と喧嘩になりそうになったとき、この対人関係療法がリアルタイムで役に立った瞬間がありました。

そして結果として、その日は普段の喧嘩コースを辿ること無く、最後まで冷静なまま現在の不安、今後の方針について話し合うことが出来たのです!良かった…本当に良かった…

そんな精神科医もオススメする対人関係療法ですが、その実践法についてはまだほんの少ししかお伝えできていません。ONE PIECEで例えるなら、今からやっとグランドラインに入るくらいの段階です。

次回以降、より実践的な考え方を紹介していくつもりですので、一緒に学んでいきましょう!

次回以降の連載も、ぜひ楽しみにしていてくださいね!

それでは、本日はこのあたりで。
また次回のコラムでお会いしましょう!

今回の連載シリーズはこちら↓

【精神科医が解説】より良い夫婦・パートナー関係のために<No.1 導入編>
【精神科医が解説】より良い夫婦・パートナー関係のために<No.2 まず二人の関係性を知る>
【精神科医が解説】より良い夫婦・パートナー関係のために<No.3 男女における『気遣い』の違い>
【精神科医が解説】より良い夫婦・パートナー関係のために<No.4 全ての不満の正体は “ずれ” >
 ←今回の記事
【精神科医が解説】より良い夫婦・パートナー関係のために<No.5 ”関係改善” という目的を忘れない>
【精神科医が解説】より良い夫婦・パートナー関係のために<No.6 パートナーの家族との関係性>
【精神科医が解説】より良い夫婦・パートナー関係のために<No.7 >夫婦・パートナー関係が子どもに与える影響

 

 

※パートナーや結婚相手を探してマッチングアプリの沼にハマっている方は、ぜひ私のこちらのコラムもご一読ください。

※過去のコラムはこちら↓からご覧いただけます。

【メンタルヘルス】精神科医T.Sコラム
Writing by T.S


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