こんにちは、所属カウンセラーの古宇田です。
今回のコラムでは、皆様とご一緒に重要なテーマについて考えていきたいと思います。トラウマインフォームドケアについてです。トラウマとは、私たちの心に深い傷を残すことがあります。そして、その傷は時に癒えにくく、私たちの日常生活に影響を与えることもあります。
しかし、幸いなことに、トラウマに対する正しいサポートとアプローチがあることを知っていますか?それがトラウマインフォームドケアです。このアプローチは、個人やコミュニティがトラウマに直面したときに、より理解し、適切な支援を提供できるようにするための方法論です。
私たちは、トラウマインフォームドケアを通じて、より優しい世界を築くための一歩を踏み出すことができます。そして、そのためにはまず、トラウマやその影響について理解を深めることが不可欠です。今までお伝えしてきた【トラウマインフォームドケアという関わり】をご覧いただけると幸いです。
さて前回のコラムでは、子どものトラウマ反応についてご紹介しました。トラウマを体験したのち、子どもの心身に生じる様々な反応について触れました。年齢による反応の違い、行動の変化などトラウマの影響による反応の示し方は複雑であり、トラウマ体験を言葉で説明することが難しい場合には、身体の反応が多くみられること。思春期という難しい時期にある子どもは、トラウマによるつらさや苦しさを反抗的な態度、ゲームなどへの没頭という形で反応を示す場合があることをお伝えしました。
また発達の課題とトラウマの線引きの判断の難しさなどにも触れました。詳しくは前回のコラムをご参考ください。
【トラウマインフォームドケアという関わり】⑤子どものトラウマ反応について
今回は【トラウマインフォームドケアという関わり】シリーズより、トラウマインフォームドケアの原則についてお伝えしたいと思います。
近年、トラウマ体験が人々の心身に及ぼす影響が注目されています。世界各国で普及するトラウマインフォームドケアは、トラウマを受けた人々に対する支援の有効な手段として位置付けられています。またトラウマインフォームドケアは、トラウマ体験の影響を理解し、配慮した支援を行うための考え方でもあります。
なぜ大切なことであるのかというと、トラウマ体験は決して少なくないということ。多くの人が、人生のどこかで大なり小なりのトラウマ体験をしています。トラウマは様々な影響を与えるということ。トラウマは、心身に様々な影響を与え、日常生活や人間関係に支障をきたす可能性があります。従来の支援では対応が難しい場合があるため、従来の支援方法では、トラウマを抱える人のニーズに十分に応えられない場合があります。
日本でもトラウマインフォームドケアが注目を集め始めており、精神医療や福祉の分野で導入が進んでいますが、欧米諸国に比べて普及が遅れています。日本とアメリカの間にはトラウマインフォームドケアの原則について共通点と相違点があります。こうした共通した視点や相違点を考えることで、トラウマインフォームドケアについての理解を深めていきたいと思います。
【日本とアメリカにおけるトラウマインフォームドケアの共通点と相違点】
日本やアメリカで考えられているトラウマインフォームドケアの原則をいくつか紹介します。
・個人の安全性: トラウマインフォームドケアの第一の原則は、個人やコミュニティの安全性を確保することです。これは、身体的、感情的、心理的な安全性を含みます。安全な環境を提供することで、被害者はリカバリープロセスを開始しやすくなります。
・信頼関係の構築: 個人や機関が信頼できる存在であることが重要です。透明性と信頼性が確保されることで、被害者はサポートを受けることに対して不安を感じにくくなります。
・自己決定権の尊重: 被害者が自分自身や自分の状況に関して選択肢を持ち、コントロールを行使できるように支援することが重要です。これにより、被害者は自己決定の機会を得て、回復のプロセスに積極的に参加することができます。
・協力関係の構築: 専門家や機関は、被害者やそのコミュニティと協力し、パートナーシップを築くことが求められます。この協力関係により、適切な支援を提供し、持続可能な回復を促進することが可能となります。
・能力の強化: 被害者やコミュニティの持つ力や能力を強化し、リスク要因に対する耐性を高めることが重要です。また、回復力を高めるために、ポジティブな経験や資源の活用を促すことも大切です。
・文化的適応: 個々の文化的背景や信念を尊重し、適切な支援を提供することが必要です。文化的な感受性を持ちながら、被害者やそのコミュニティにとって適切なアプローチを採用することが重要です。
トラウマインフォームドケアの原則の共通点としては、トラウマが普遍的な経験であり、人々に影響を与え、安全で信頼できる環境が不可欠であることが挙げられます。また、トラウマを抱える人々が自己の力を取り戻せるよう支援し、文化的背景や価値観を尊重したケアを提供することも共通の理念です。
一方、日本とアメリカではトラウマの定義やアプローチ、支援者の役割などに違いが見られます。日本ではトラウマの定義が比較的限定的であり、個別療法が主流ですが、アメリカではトラウマの定義が広義であり、集団療法やコミュニティアプローチも重視されています。
日本のトラウマインフォームドケアの原則は、トラウマへの理解を深め、安全で信頼できる環境を提供し、トラウマを抱える人々の自己決定権を尊重し、文化的な配慮を行うことを重視しています。一方、アメリカのトラウマインフォームドケアの原則は、トラウマの普遍性を認識し、安全で信頼できる環境を提供し、文化的な背景や価値観を尊重したケアを提供するとともに、継続的な学習と倫理的な配慮を強調しています。
これらの原則は、トラウマインフォームドケアが個人やコミュニティのトラウマに対処するための包括的なアプローチを提供することを目指しています。個人やコミュニティの安全性を確保し、信頼関係を構築し、自己決定権を尊重し、協力関係を築き、能力を強化し、文化的な感受性を持つことが重要です。
【最後に】
トラウマを抱える人の心情や考えを理解し、共感的に関わりながら、トラウマに関する情報を提供する心理教育と対処スキルの練習をすることがトラウマインフォームドケアでの重要な要素とも言われています。生きにくさを抱える人の中には、もしかすると、その人ですら気付いていないトラウマという経験や体験があるのかもしれません。トラウマインフォームドケアはトラウマを受けた人々の苦痛を軽減し、回復を支援するために重要なアプローチであり、日本におけるトラウマインフォームドケアの普及が進むことで、より多くの人々が適切な支援を受けられるようになることが期待されます。
【参考資料:『トラウマインフォームドケア“問題行動”を捉えなおす援助の視点』著:野坂祐子・2019、『実践トラウマインフォームドケア』著:亀岡智美・2022、厚生労働省: トラウマインフォームド・ケアをもっと知るために】
【トラウマインフォームドケアという関わり】シリーズはこちらからご覧になれます。
【トラウマインフォームドケアという関わり】①環境要因によって形づくられる子どもの発達の質とは・・・
【トラウマインフォームドケアという関わり】②なぜ今の時代に必要とされているアプローチなのか
【トラウマインフォームドケアという関わり】③子どもの気になる行動の背景を理解するためのヒント
【トラウマインフォームドケアという関わり】④こころのケガになりうる出来事
【トラウマインフォームドケアという関わり】⑤子どものトラウマ反応について
社会生活の変革という過渡期での不安やストレスは、さまざまな形で表出されることがあります。また、被災地の皆さまにとっては日々変化を遂げる環境の中で、ご心配を抱えた状況の方がいらっしゃることと思います。心身の安全最優先でお過ごしいただければと願います。ポジティブな考えを持つきっかけとして、そして安心・安全な人との関わりを通して生きる力を養うサポートもカウンセリングの一側面とも考えています。子育てや子どもの抱える不安やストレスに関してのご相談もお受けしております。
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