COLUMNコラム

【プロフェッショナルから学ぶメンタルトレーニング ➀】相手に関わり興味を持つ|柔道家・杉本美香さん 前編

今年度から、メンタルトレーニングの新たな取り組みとして、メンタルトレーナーの森下が、
様々な業界のプロフェッショナルの方々に、メンタルとの向き合い方や在り方等について取材してまいります。

読者の皆様が、プロフェッショナルの方たちの考え方や行動を知ることで、成長への気づきや、成功のヒント。
そして、道を究めた方たちも“同じ人間なんだ”と、身近に感じて頂き、親近感や「自分もできるかもしれない」といったチャレンジ精神の芽生えなどに繋がることができましたら、大変嬉しく思います。

第1回目の“プロフェッショナル”は、ロンドンオリンピック78kg超級で銀メダルを獲得し、
女子重量級で一時代を築いてこられた柔道家の杉本美香さんにお伺いしました。

杉本美香(柔道家)
現役時代は度重なる大けがに悩まされたが、その試練に打ち克ち、2010年東京の世界選手権では78kg超級と無差別で金メダルを獲得。日本人女子選手初となる二階級制覇を成し遂げた。
そして2012年、ロンドンオリンピック出場を果たすと、78kg超級で銀メダルを獲得した。
引退後は現役時代に所属していたコマツ女子柔道部のコーチ・監督を歴任。
現在はテレビ・イベント出演や、柔道教室などを全国各地で行ない、普及活動に取り組んでいる。

杉本さんの記事は前編と後編2回に分けて掲載をいたします。
前編となる今回は、杉本さんとメンタルトレーニングの関係性や、競技を通じて意識してきたことや学んできたことについてお伺いしていきます。


指導者にこそ知ってほしい心のトレーニング

◾️現役時代にメンタルトレーニングは取り組んでいましたか?

(杉本)まだ私の時代では「メンタルトレーニングってなんだろう」っていうところの、広がる一歩手前くらいの時代だったと思うんですよね。
みんな探り探りで、「メンタルトレーニングやる?」みたいな、それ(メンタルトレーニング)がどう活きるのか例がない状態の時代だったと感じてます。
知り合いからメンタルトレーニングを受けてみない?という話があって、一度受けさせてもらったことがあったんですけど、その時に私の場合は「ちょっと必要ないかな」と思っちゃったんです。
やり方がもう私が知っているやり方だったなっていう、多分無意識にメンタルトレーニングみたいなことを自分自身でやっていたのかなと思います。
「これがこうなったら自分のメンタルが崩れていくから、じゃあどうしたらいいのか」というのを自分で考えないといけない時代だったので、先輩たちに「どうしたらいいですかね」ということを聞きながらやっていたので、その時は私には必要じゃないなと思って一回受けさせてもらって「やっぱりまた機会がありましたら」という感じだったんです。
今は時代も進んできて色々と変わってきてはいるとは思うんですけど、昔からメンタルトレーニングはあるかと思うので、その当時は選手もメンタルトレーナーも双方が探り探りだったんじゃないですかね。

(森下)ここ数年ですよね。メンタルトレーニングが世間に認知されて来たように感じます。

(杉本)ここ数年でメンタルトレーニングを取り入れようってチームから聞くようになりましたね。チームから言い始めて選手に。。。という広がり方ですね。

(森下)私たちの日々皆さんへお伝えしているメンタルトレーニングの活動の中でも、心に関することは少し敬遠されがちだったり、実際何をするのかイメージがないっていうこともあって、取り入れるところまでのハードルが高いのかなと感じているんです。
引退をされてから、監督、母と立場や環境、状況の変化があったと思いますが、そうした変化に応じてメンタルトレーニングの必要性や印象、関わり方は変わりましたか?

(杉本)引退してからは、千枝さん(小高)にメンタルトレーニングをしてもらっていて、その時は漠然とアスリートにも、指導者もした方がいいなと思っていたんですけど、実際に監督をやってみて、監督だった時にこそメンタルトレーニングをやっておけばよかったと思いました。アスリートは自分が頑張ればいい、誰かがサポートしてくれる、誰かが声をかけてくれる、自分が求めていなくても周りからいろんな声が掛かると思うんです。ですが、指導者は誰も声をかけてくれない、それが当たり前で、周りからも「あなたはそういう立場だから」となってしまうじゃないですか。
自分が必要だなと思うのは、ベテランの指導者というよりは若い指導者が上の立場のポジションに入るタイミングですね。そのタイミングでメンタルトレーニングをしてあげないと、崩れていってしまうなというのはすごく思いましたね。考える余裕がなく1日が過ぎていく中で、人のことも考えないといけないってなった時に、「指導者の時にメンタルトレーニングがめちゃくちゃ必要だな」と感じました。指導者自身の気持ちの整理をして選手に関わる、チーム(フロント)と関わる、そうすることでちょっと心の隙間ができる、だから指導者の時にこそメンタルトレーニングをしておいたらよかったなと思いましたね。

※以前、杉本さんは現役を引退されて実業団チームのコーチをされていた時に弊社代表の小高のメンタルトレーニングを受けていました。その後監督を引退されると共にメンタルトレーニングからは卒業しましたが、小高とは公私共にお付き合いのある関係です。

(森下)メンタルトレーニングが少しずつ広がってきたのも、選手の時からメンタルトレーニングをやっていた子が指導者に変わっていくタイミングになってきたからではと感じています。実際に我々がサポートしていた選手が指導者になっていって、そこからメンタルトレーニングを依頼されてサポートをしにいくことは結構あるんです。
トップダウンからメンタルトレーニングの必要性を伝えていくのではなく、ボトムアップで伝えていくことは重要だなと感じます。

(杉本)指導者にこそメンタルトレーニングをぜひ受けてほしいなと思います。
自分は監督時代にメンタル面で苦労をしたので、時間もない余裕もない日々追われる中で、人に話を聞いてもらうっていうだけでも多分安定したんだろうなと思います。
指導者になりたての人や、上と下との板挟みの立場にいるという人たちにもっともっと広がってほしいなと思います。


私たちが日ごろメンタルトレーニングを提供している立場として、少しずつではありますが着実にメンタルトレーニングは認知され、導入されてきていると感じています。しかし柔道に限らず様々な競技で、選手がメンタルトレーニングを取り入れたいと思っていても、指導者は必要と感じておらず、自身の経験則や個人任せの対応になっているチームもあります。選手だけではなく指導者や保護者もメンタルトレーニングの情報を集めていくことは必要なことだと感じています。


他人に興味を持つこと

◾️スポーツを通じて学んだこと、スポーツやっていてよかったことはなんですか?

(杉本)他人に興味を持つことですかね。柔道は対人競技なので、相手の心理を読まないといけないので、柔道をしていて他人に興味を持たないと、相手の癖を知ることだったりと深い部分まではわからないんです。
自分を知った上で相手とどう接するかということも変わってくるので、自分を知らないといけないと思っています。

(森下)それは現役時代から心がけていたことなのでしょうか?

(杉本)現役中に学びましたね。怪我して学ぶことがいっぱいありました。怪我をしたら自分だけが一番辛い、この世で一番私が不幸なんだって思ってしまうじゃないですか。
その時にちょっと視野を広げてみて、辛いのは自分だけじゃなく、家族も辛いですし、サポートしてくれている人も私が怪我をすることによって、年間スケジュールが変わってしまうよなとか。。。
次の試合に出場できるようにリハビリを合わせようかとしてくれるトレーナーさんもいますし、そういう人たちのこともちょっと余裕を持って考えるようにしたんです。
こういう人たちも私が怪我することで苦しんでいる、だとしたら私はどうすればいいのかを考えられるようになったんです。
私は“他人に興味を持つ”、“他人のために頑張れる”人なんです。自分一人だけの夢だったらオリンピックに行けてないと思います。

(森下)だからこそ、オリンピックにたどり着けて結果も出せたということなんですね。僕も選手にそういうところを伝えはするんですけど、なかなか腑に落とせる選手は少ないんです。

(杉本)そうですね。目の前のことに精一杯の選手が多い傾向がありますからね。

(森下)状況にもよるかとは思いますが、自分のことだけになってしまったり、目標を達成することにいっぱいいっぱいになってしまいがちですね。

(杉本)誰と出会うか、それで変わると思います。自分だけにフォーカスしてしまい「自分だけが頑張れば」「自分だけが結果を残せば」「出場する大会に全て優勝すれば」と思っているときっとどこかで壁にぶつかってしまいます。

(森下)「他人に興味を持つ」「自分のことを知る」ことは、引退してから役に立ったこと、スポーツから学んでよかったなと感じましたか?

(杉本)“他人に興味を持つ”ということは、競技以外でも一生ついてくるものだと思います。
他人に興味を持つということを、アスリートだけではなく、いろいろな人、これからの子達に伝えてはいきたいなと思っていますが、難しいとも感じています。
指導者をしていて、「他人を知りなさい」と言っても「え?自分がやりたいことを強化すればいいんじゃないの」っていう選手達が多い傾向があります。そこが(指導者としての)私自身の課題でもあると思っています。

※ここで杉本さんご自身が「他人へ興味を持つ」ことの大切さをお伝えしてくださいました。

(杉本)私自身、他人への興味をもっと広げたいと思いますし、他人に興味を持つ人生でよかったなと今でも思います。
人のことを心配できたり、人の気持ちを考えられたり、人が傷付く言葉ではなくこの人が喜ぶ言葉掛けをして双方がhappyになることが自分のパワーになるってことはわかっているんです。
スポーツだけじゃなく、これからの時代、AIとかオンラインが発展していくと、相手の表情だったりわかりづらくなくなるじゃないですか。
コロナ禍からマスクをするようになったりと、子ども達もそれでコミュニケーションが取れるのかというところがすごく気になるんですよね。
だからどうすればいいかというのはまだわからないですけど、もっともっと私自身が誰かに関わって、関わった時に「杉本さんと話しして楽になった」とか、「杉本さんってなんでそういう考えなんですか?」っていうクエスチョンがきた時点で興味を持ってくれたということじゃないですか。
「(他人に興味を持つ)そういう気持ちどう?」というのを深く考えていけるような付き合い方をこれからもしていきたいと思っているからこそ、友達も多かったりするんだと思います。
何かあれば友達のところにすっ飛んでいけるような人になりたいんです。

※ここで小高より「(杉本と)知り合ってから“人が好きなんです”といつも言っているのが印象的だった」と話がでました。

(森下)「人が好き」なのは、幼少期の頃からですか。

(杉本)多分親を見てましたね。親がそうなんですよね。
自営業で、今のこの時代でも直接的に人とコミュニケーションを積極的にとりにいったりしています。「このご時世だから気をつけてよ」と言っても、「私たちはそれが当たり前だから」と言ってブレないんですよね。
自分はそんなに贅沢とかしてないのに、なんか人のためばっかり尽くすんです。いろんな人が家に来たりとか相談しに来たりとか。
でも他人と関わるので傷つけられることも多いんですよ、やっぱり。でもそれも試練だと言って。もう70歳前ですよ、どれだけ試練するんですか。(笑)
親はそれでも人を大事にするということは変えないので、私もそういう人間でありたいなって。

※ここまでは杉本さんの「他人に興味を持つこと」についてお話をうかがってきましたが、杉本さんとのお付き合いの長い小高もこのように話していました。

(小高)「どんな人であっても、ある程度のラインまでは実力や運の強さ等で辿り着けることはあるものの、そこから先は利他貢献や、人情。人を尊敬する敬う気持ちや、感謝、そういった“人としての質”の面で他者と繋がり協力し合うことが大切になる。そして、次のステージにあがり、成功を手にすることできる。もちろん、その段階にいくまで嫌な経験も多々あり、マイナスの影響を受ける可能性があることを見極めるのも大変で、同じような失敗をすると「またやっちゃった」みたいなことを繰り返すんだけど、やっぱり、結局人は一人じゃ生きていけないからね。」


我々(森下)がメンタルトレーニングでサポートをしていくにあたって「ヒューマンファースト」という言葉を大切にしています。
正確には「ウィニングサード、アスリートセカンド、ヒューマンファースト」と言っており、「勝利を目指す前に、素晴らしい選手を目指す。素晴らしい選手を目指す前に、素晴らしい人間を目指す」という意味合いです。
日常の中で、感謝の気持ちやリスペクト、思いやりや協調性を持てない人は、当然ながら試合などの大事な場面でも持てることはできません。
スポーツだけでなく、仕事など社会生活における全てのことは一人だけではできないことばかりです。成長し続け、成果を出し続けるためには、能力や技術だけではなく人間性が重要と感じています。


前編まとめ

メンタルトレーニングはアスリートのように、大舞台で極度のプレッシャーや不安を抱える人が取り組む「特別」なトレーニングだと思っている人もたくさんいます。
ですが、アスリートだけでなく指導者や親御さん、育成年代の子どもたちにこそ必要で重要なものだと感じています。
メンタルトレーニングは技術や体力のトレーニングとは違い24時間、いつでもどこでもトレーニングをすることができます。
ということは、日常生活での過ごし方、人としての在り方がスポーツや仕事での実力発揮に大きく関係してくるということです。
今回、杉本さんがお話くださった「人に対して興味を持つこと」はスポーツに限らず、すべてのことに対して大切なことだと感じます。
相手に対して興味を持ち、相手の立場に立って考えることは、感謝の気持ちを持つことやリスペクト、思いやりやリーダーシップ、チームワークを発揮することにもつながりますし、競技(特に対人競技)では心理的な駆け引きにも大いに役立ちます。

後編の記事では、
「杉本さんの子育てで大切にされていること」「杉本さんがご両親から学んだこと」「オリンピックを通して感じたこと」「セカンドキャリアについて」など盛りだくさんでお届けします。
後編の記事は7月に掲載予定です。
どうぞ、お楽しみに!


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