COLUMNコラム

【精神科医が解説】今日から始めるアンガーマネジメント 実践編

こんにちは!所属精神科医のT.Sです。

このコラムでは、

私が精神科医として患者さんと接する中で手に入れ、磨き上げてきた様々な武器
つまりは「幸せになるコツ」

を紹介しています。

さて、先月はこちら↓の記事を掲載いたしましたが、読んでいただけましたでしょうか?

【精神科医が解説】今日から始めるアンガーマネジメント 基本編

今回は前回の続編で、いよいよ実践編になります!

まずは、前回の内容を軽くおさらいしておきましょう。

前回のおさらい

基本編では、以下の内容をお伝えしました。

●「怒り」を自分と切り分けて考えるのではなく、まずは「自分は ”怒りたい” と思ってしまう、しょうもない存在なんだ」と受け入れ、認めよう。

●「怒り」には、あらゆるポジティブな気持ちを台無しにしてしまうほど、圧倒的なパワーがある。

「自分は~だ、◯◯は~べきだ」という固定観念はエゴを生み、「怒り」の原因となる。

●「怒り」の大元には必ずと言っていいほど、「自分は正しい」という確信が潜んでいる。でも、自分が正しい(と思う)からといって、怒ってもいい理由にはならない。

これらの点は、実践編に進むにあたって非常~~~に重要なポイントなので、確実に抑えておきましょう!

 

さて、「アンガーマネジメント」という言葉は、今や至る所で耳にしますね。
カウンセリングはもちろん、スポーツ選手のメンタルトレーニングや、職場によっては研修の一環に組み込まれていたりもします。

どうしてこれほどまでに重要視されているのでしょうか?

当然ですが、誰も怒りたくないからです。

先程もお伝えした通り、怒り」には、あらゆるポジティブな気持ちを台無しにしてしまうほど、圧倒的なパワーがあります。

自分の胸の鼓動が強く、早くなってきて、カッカカッカと頭に血が上り、なんだかムシャクシャして暴れたくなって、相手の顔が憎らしく見えてきて…

そんな嫌~な感情、だれも抱えたくないですよね。
だからこそ、多くの人がアンガーマネジメントを学ぼうと意欲的になるわけです。

しかし、このアンガーマネジメントを修得するうえでの「目標」に関しては、もう少し細かく考えておいたがほうが良いでしょう。

アンガーマネジメントの目標設定

「怒り」を克服した状態とは、どんな状態でしょうか?

極論すると、以下のどちらかに該当します。

1. そもそも「怒り」の感情が生まれないようにする
2.「怒り」が生じても、コントロールしてうまく処理できる

このどちらを目指すのか、まずは再確認しておきましょう。

ここまで読んでいただいた皆様ならもうお分かりかと思いますが、まず我々が目指すのは、「」になります。

「怒り」自体は、本能的に生じるものです。
これは三大欲求と同じようなもので、生物である以上避けられないもの、とまずは定義しておきます。

「怒り」の感情が生まれてしまう分にはしょうがないから、それをなんとかコントロールする術を身に着けよう、というのが、今回ご紹介するアンガーマネジメントの趣旨となります。

つまるところ、完全な理詰めであり、反復練習です。

様々な理由を並べて「だから怒るのってくだらないよ、やめておきな!」と自分に言い聞かせたり、「怒りを発散する」という行為そのものを引き起こさないように工夫する。

これが、ここで言うアンガーマネジメントになります。何をすればいいのか、少しずつクリアになってきましたね。

それではまず、いかに「怒り」が無意味で、くだらないのかを知るところから始めましょう。

「怒り」の有害さを知る

ここでは詳しく触れませんが、「怒り」のような感情の出現には、脳の大脳辺縁系という部位が関わっています。もちろん、生物が生命活動を続けるにあたり必要不可欠な部位なのですが、これは犬やうさぎ、魚ですら共通して持っているような、いわば原始的な部位にあたります。

一方で、人間の高度に発達した脳には前頭前皮質という部位があり、ここが感情コントロールの役割を担っています。

「怒り」の出現には、脳内の原始的な部位である大脳辺縁系が関わっている。
「怒り」のコントロールには、脳内の高度に発達した部位である前頭前皮質が関わっている。

なので、「怒り」をコントールできていない自分に気づいたら、「せっかく進化して獲得した脳機能をドブに捨て、太古の時代に先祖返りして怒り狂っている馬鹿そのものだ」と考えましょう。口は悪いですが、自分に言い聞かせるためにはこれくらいで良いのです。

実際、怒っているとき人間は、頭にドクドクと激しい血流を感じる割に、何も生産的なことを考えられません。

適切な判断はできず、知恵も湧かず、普段より脳が馬鹿になっています。
脳が馬鹿なので、平気で大切なものを壊します。大切な人を傷つけます。
仕事なんか全く出来ません。お金も正しく使えません。何をすれば良いのか全然わかりません。

怒るのは、果てしなく古臭く、全く生産性の無い行為で、馬鹿のすること。
怒っている自分は、限りなく愚かで、無知で、どうしようもない大馬鹿。

このように、怒ることがいかに不毛な行為か、常日頃から自覚しておくことが重要です。

実際に使える「怒り」撃退の手順

実際にどのように「怒り」に対応していけばよいか、順番に見ていきましょう。

1.まずは怒りを自覚する

まず、自身の中に「怒り」が生じたことを自覚してください。それがすべてのスタートです。
これまでにもお話した通り、怒りと自分は無縁なもの…と目をそらさず、「今自分は怒っているな」と認めましょう。

「怒り」が生じた時点で、なんとも言い難いモヤモヤだったり、心拍数の上昇だったり、何かしらの異変が生じているはず。
正直に自分の感情を受け入れれば、これはそれほど難しいことではありません。

ここで、怒っている自分自身や「怒り」という感情に対して、心のなかで声をかけたり、実況中継してみるのもオススメです。

「あっ、怒りさん、こんにちは。また来たんですか?」
「うわ、すごい怒ってるじゃん俺!どうしたの?大丈夫!?」
「やばいやばい!今!私の中で!怒りが凄いことになってます!どんどん大きくなってますよーー!」

これらの問いかけや実況中継は、自分の「怒り」を認め、外(相手)に向いている視線を内面(自分)に向けるのを助けてくれます。

また、問いかけや実況中継という行為には、状況把握や言葉選びなど、一定の思考力が必要になるため、「怒り」そのものに割く脳のリソースを減らす、という効果も期待できます。
人間、色々なことを同時に考えながら怒り続けるのって、実はかなり難しいんです。

2.逃げる

怒りを自覚したら、一目散に「怒り」と距離を取ってください。

具体的に説明します。

まず、実際に自分を怒らせる原因になる物や人がいる場合、物理的に遠ざかってください。家の外に出る、他の部屋に行くなど。
これに関してはもはや思考を挟まず、パターンを決めておき、何も考えなくても行動に移せるようにしておきましょう。

ここで相手が人間の場合、いきなり何処かに消えてしまうと余計に相手を逆撫でする可能性があります。

普段から「喧嘩になりそうなときは、一旦距離を取ってクールダウンするようにしてるんだ」と説明しておくか、「ちょっとごめん、一旦冷静になってくるね」などの声掛けをしてから場を離れるのが、より親切でしょう。

そして、物理的距離を取ったら(同時でも可)、時間的距離を置くことも重要です。
怒るのを延期するイメージを持ってください。

先程、大脳辺縁系と前頭前皮質の話をしましたが、実際に感情を前頭前皮質が処理するまでに、少しタイムラグがあります。
この時間を稼ぐのが狙いです。

そのためにはいくつかの手段がありますが、

・数を数える
・深呼吸を◯回する

といった、ある程度時間がかかることが保証されている行為を挟んだり、

「怒るのは、果てしなく古臭く、全く生産性の無い行為で、馬鹿のすること!怒っている自分は、限りなく愚かで、無知で、どうしようもない大馬鹿!」

といった先程のセリフを繰り返し脳内再生するのも非常に有効です。
怒っている自分がいかに愚かな存在か、罵倒しまくっちゃってください!

また、鏡を見ることで「怒っている自分がいかに不細工か」に気づいてみるのも良いでしょう。

「ちょっと鼻毛出てるじゃん…」「うわ、毛穴きたなっ!」まで考えられたらパーフェクトです。
そういったくだらないことを考えることで、「怒り」に割かれた脳のリソースを圧迫し、減らしていきましょう。

3.笑う

最後にはもう、笑っちゃってください。

「どんなに怒っても笑おう」と決め、「怒り」が湧いてきたらすぐに笑い飛ばしてしまってください。

もちろん、怒っている最中に幸せを噛み締めて笑うなんて、不可能に決まっています。

感情とか幸せは一旦置いておき、ただ、行為として笑ってください。

無理矢理にでも笑っていると、そのうち怒りは小さくなっていき、何か面白いことを自分で見つけられるようになっていきます。

普段私は診察で、「今日もいい日だった!」から書き始める「幸せ日記」を推奨しています。
敢えてこの書き出しで始めることにより、その後自然と、今日あった良いことに視線を向けるようになるのが狙いなのですが、怒ったときに敢えて笑う、というのもこれと同じことです。

専門家に相談、もアリ

今回のコラムでは、アンガーマネジメントを実践するにあたって「実際に何をすれば良いのか」を、より分かりやすく、具体的に説明してきました。

今回紹介した内容を完璧に実践できれば、あなたは「怒り」を自在にコントロールしておさめられるようになり、今までとは全く違った人生を送ることができるようになるはずです。

しかし、先程もお伝えした通り、これらは完全な理詰めであり、反復練習です。

一朝一夕で身につくものではないので、日々の努力が必要不可欠になります。
すべてを一度で実践するのは難しいと思うので、一つずつ取り入れてみてください。

また、

「どれだけ努力して実践しても、全く気分の波をコントロールできない」
「何もないのに、突然怒りや悲しみという感情に襲われてしまう」

という方は、一度精神科医やカウンセラーなど、専門家による診察を受けてみるのも手です。

気の持ちようだと思っていたら、実は気分障害などの精神疾患だった、というケースも少なくありません。

とはいえ、たとえ精神疾患があろうと無かろうと、今回紹介したアンガーマネジメントを身につけておいて損は無し。

まずは何度も勉強し、頭に叩き込み、自分に常日頃から言い聞かせてください。
そして、出来ることから取り入れて実践してみてください。
その繰り返しが、次第にあなたを ”怒りから開放された人生” に導いてくれます。

根気強く、気長にメンタルトレーニングを続けましょうね!

それでは、本日はこのあたりで。
また次回のコラムでお会いしましょう!

※今回のシリーズはこちら↓からご覧いただけます。
【精神科医が解説】今日から始めるアンガーマネジメント 基本編
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Writing by T.S

 

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