こんにちは!所属精神科医のT.Sです。
このコラムでは、
私が精神科医として患者さんと接する中で手に入れ、磨き上げてきた様々な武器
つまりは「幸せになるコツ」
を紹介しています。
夏休み!
学生たちが待ちに待った一大イベントの、今まさに真っ最中であります。
多くの学生が浮足立ち、キラキラと輝く至福の時間…そして、(仮初めだけど)勉強から解放される喜び…
嗚呼…私もできるなら戻りたいものです…
しかしその一方、子どもが家にいる時間が長くなることで、親の負担が増えるというのもまた事実。
診察でお話する親御さんの中にも、「二学期が待ち遠しいです…」「試練の時です…」と今にも枯れ果てそうな人がたくさんいらっしゃいますが、この記事を読んでいる皆さんはいかがでしょうか?
さて、自由な時間が長ければ長いほど、親としては「子どもの時間は適切に使われているのだろうか?」と、ちょっとした心配が頭をよぎるかもしれません。
そんな方に向けて、夏休み突入前の7月、私はこちらのコラムを書きました。
しかし、お父さん、お母さん、ちょっと待ってください。
普段より子どもたちと触れ合う時間が長い今だからこそ、我々大人が考えるべき重要な問題が、もう一つ残っています。
それは、子どもたちが抱く「こんなの将来なんの役に立つの?」という問いの答えを見つけることです。
実際、色々な場面でこの疑問は生まれうるものですが、今回は分かりやすいように「勉強」を対象としてみます。
子どもには “勉強する理由がない”
夏休みの宿題を親が手伝うのはよくある話ですが、この画像↑のように和やかな雰囲気で勉強を進められる家庭が、一体どれくらいあるでしょうか?
おそらくそれはほんの一握りで、多くの家庭では親子ともに修羅のような顔に成り果て、テキトーにでもさっさと終わらせて遊びに行きたい子どもと、ちゃんと勉強が終わるまでは意地でも逃さないと決めた親が、激しいバトルを繰り広げているのではないでしょうか。
多くの子どもは、勉強が嫌いです。これはもう、揺るぎない事実です。
逆に大人になるにつれ、「あのときちゃんと勉強しておけばよかった」と後悔したり、何故か面白くなってきて勉強し始めたりする人が出てくるもの。これは、年をとると「勉強によって得られるもの」がなんとなく分かってくるからですが、これはそれなりに人生経験を積んでようやく見えてくるのであって、当然、子どものうちは分かるはずがありません。
ただでさえ勉強はつまらないのに、どうしてやらなければいけないのか、勉強したところで何が得られるのかも分からないようじゃ、勉強する気にもならないですよね。
つまり、“子どもには勉強する理由が無い” のです。その理由を持ってくるのは、いつも大人たちです。
その結果、そこには勉強から逃避したいという意味合いも隠れていますが、「こんなの将来なんの役に立つの?」という質問に至るわけです。
小さな子どもでなくとも、大人だって同じことが言えます。
「片方のバケツから、もう片方のバケツに水を移す。移し終わったら、またもう片方のバケツに水を移す。この作業を一人で1年間繰り返してください」と言われたら、どうでしょうか。
それによってお金がもらえるとか、誰かの役に立つというならまだしも、なんの報酬も目的も意味もないとしたら…?
人は何事にも意味や理由を見出したい生き物ですから、自分の中で「無駄」「無意味」が積み重なっていくと、簡単に精神を病んでしまいます。バケツほどの苦行ではなくとも、たとえば全く必要性を感じない業務を上司から命令され続けられたら、気が滅入ってきますよね。
「なんの意味もない(と自分が思っている)ことをさせられる」という苦しみは、なかなか抗えるものではないのです。
大人は“勉強する理由”を与えたいが…
さて、では子どもから「こんなの将来なんの役に立つの?というキラーパスが飛んできたとき、どう答えれば良いのでしょうか。
「そりゃお前、大人になるために必要なんだよ!」とか「いい大学に入っていい仕事をしたほうが人生が…」とか、それらしい答えはすぐに浮かんでくるのですが、どれもしっくり来ませんね。なんとなく言いたいことはあるんだけど、でもそれを言葉ではうまく言い表せない…そんなもどかしさを感じませんか?
それは、多くの大人も、本当の答えを知らないからです。
例えば、「英語の勉強は将来なんの役に立つの?」という質問に対して、
「受験や就職で有利だから」
「世界中の人と交流できるから」
と答えることはできます。
でも、
「いい大学や会社に入っても、それってなんの役に立つの?お金をたくさん稼いだからといって、それで幸せなの?」
「世界中の人と交流できたからといって、だから何なの?」
とさらに返されたら、返答に困ってしまいますよね。
実際こんなことを聞いてこられたら、「なっ、何て生意気な…ッッ!」と思ってしまいそうですね笑
しかし、改めて振り返ってみるとこの質問、なんだか人生の本質を問われているかのような…そんな気がしてきませんか?
「勉強はしたいと思うものです」
かつて放送されていたドラマ「女王の教室」をご存知でしょうか。
(↑の写真とは何もかもが違うので注意してください笑)
とても面白いし考えさせられるドラマなので、まだの人は是非見ていただきたいのですが、
「どうして勉強するんですか?私達」と生徒から問われた教師が、「いい加減目覚めなさい…勉強はしなきゃいけないものじゃありません。したいと思うものです」と答える、非常に有名なシーンがあります。
子どもたちがこれから出会う未知、そしてそこで感じた「楽しい」「もっと知りたい」という気持ち。
勉強とは、自分の探究心を満たすため、させられるのではなく、自分でしたいと思うものなのだ。
探究心のない人間は人間じゃない。猿以下だ!
このドラマには数々の名場面や名言が散りばめられていますが、まさにこの2分ほどのシーンに、このドラマが世間に投げかけたいメッセージが凝縮されているのではないかと感じました。
このシーンでガツンと揺さぶられた人、決して私だけではないはずです。
さて、この答えですが、よくよく考えると、実は生徒からの質問に全然真っ向から答えていないのにお気づきでしょうか。
生徒が直接尋ねているのは勉強する理由、つまり「勉強って将来なんの役に立つの?」です。
それに対して教師は、「勉強はしたいと思うものなんだから、そもそもアナタの考えがおかしいんだよ」と答えているに過ぎないのです。
でも、実はそれが重要なんです。
「これはなんの役に立つ?」と自分が考えることが大切
「こんなの将来なんの役に立つの?」は、「幸せってなぁに?」と同じくらいの難題なのです。
この疑問を完全に解消してくれる完璧な答えは、存在しません。答えが存在しないなら、答えを出すのに躍起になる必要もないのです。
たとえば、「なぜ人を殺してはいけないのか?」に対する究極の答えを見つけるのは、実はとても困難です。
しかし、「人を殺してはいけない、とすることでどんなメリットがある?」と考えると、これは非常に実用的です。
今重要なことは、一体何でしょうか。
「勉強が将来なんの役に立つのか」という疑問の答えを教えることでしょうか。
でも、その答えが分かったとして、子どもが勉強をやめてしまったら本末転倒ですよね。
本当に重要なことは、「勉強をどのように将来に役立てるか」を、子ども自身が考えられるようになることです。
勉強の目的は人それぞれ、そしてそれは子ども自身が決めるべきもの。我々大人が彼らに手渡すべきは答えではなく、自身で答えを見つけるというマインドなのです。
教科書や宿題はそれぞれが自身の興味、夢、目標を見つけ、未来のビジョンを描くための道具に過ぎません。そしてその使い方は、その人次第です。
例えば数学の知識をただ受験にだけ使う人もいれば、専門知識を更に掘り進めてエンジニアになる人もいるし、論理的思考を鍛えるための筋トレのように使う人もいます。
文学は人間の感情や社会について深く考える力を育てるし、科学は自然界の法則に対する理解を深めてくれる。その応用方法は無限に広がっています。
だからこそ、「勉強がなんの役に立つのか?」という難題の答え探しに頭を悩ますよりも、
「何にどうやって役立てるのはあなた次第。この知識や経験が将来何に使えるのか、一緒に考えよう」
と楽しい想像を膨らませてみることを勧めましょう。
親としての役割は、彼らが自分自身の答えを見つけることができるよう、適切なサポートとエールを送り続けることです。
そして彼らが自分自身の答えを見つけることができれば、それが最も有意義な学びとなるでしょう。
これまでも繰り返し伝えていますが、「経験はすべて武器になる」というのが、私の信条です。
子どもたちが手に入れたその武器をどのように活かしていくことができるのか、この夏休みを機に、一緒に考えてみてはいかがでしょうか。
それでは、本日はこのあたりで。
また次回のコラムでお会いしましょう!
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