COLUMNコラム

【メンタルヘルス】ワクチンと反ワクチン派の歴史1<反ワクチンはいかにして生まれたか>

こんにちは!所属精神科医のT.Sです(実名非公開)。

このコラムでは、

僕が精神科医として患者さんと接する中で手に入れ、磨き上げてきた様々な武器
つまりは「幸せになるコツ」

を紹介していきます。
読んでいただいた皆さんにとって少しでもタメになる記事をお届け出来るように、僕自身も勉強を深めながら楽しんで更新していきます!
どうぞよろしくお願いします!

 

さて、今回も引き続き、コロナワクチンとメンタルヘルスの関係について触れていきます。
ただし、これまでとはちょっとだけ毛色が違った内容になりそうですので、タイトルを変更してみました。

題して、「ワクチンと反ワクチン派の歴史」シリーズです!

やや心理コラムの路線から外れるようにも思えますが、世に「反ワクチン」が広がる下地を理解するうえで重要な知識になりますので、しっかり押さえておいてください!

ちなみに前回の記事はこちら↓

【メンタルヘルス】コロナワクチンで炙り出された、知られざる罠2<科学的思考の難しさ>

まずは前回の記事を軽く振り返っておきましょう。

「人間は科学的な思考が苦手である」という、とっても耳が痛い事実を突きつけたうえで、僕たち人間は以下のような性質を持っていることを述べました。

◯事実や統計に即してではなく、直感で恐怖する生き物である
◯自分の思い込みに反する情報に出会ったとき、自分ではなくその情報の方を疑いがちである

僕の周りにも、自分がこれらの性質を兼ね備えていることに気づかないまま、薄っぺらく間違った情報をSNSなどで垂れ流してしまっている人がたくさん…

改めて考えてみると、なんでここまでワクチンを目の敵にする人が多いんでしょうか?
本来なら全人類から、「未知の病気から僕たちを救ってくれる救世主」の如く扱われてもいいはずなのに…

さて、そこで今回もこの本の力を借りるとしましょう!
僕には1円も入りませんが、まだ買ってない人は今すぐ買って読んでみてください!

「子どもができて考えた、ワクチンと命のこと。」 ユーラ・ビス (著), 矢野 真千子 (翻訳)

この本をもとに、ワクチンの歴史を紹介していきながら、いかにしてワクチン、そして反ワクチン派が生まれたのか、その心理はどのようなものなのかを解説します。

予防接種はもともと民間療法だった

そもそもワクチンというものがどうやって生み出されたのか、皆さん御存知ですか?

ワクチンは現代医学の産物…と思われがちですが、実のところ、予防接種の始まりは民間療法だったのです。
十分な研究がされたわけでもなく、「よし…やってみますか!」のスピリットで生み出された(?)という、とんでもない代物だったということです。
(もちろん今は違いますよ!)

かつて、天然痘という病気がありました。
感染力、罹患率、致命率はいずれも凄まじく、”20世紀における天然痘の死者数は、同世紀に起こったすべての戦争で犠牲になった死者数よりも多かった” とされています。

18世紀のイギリスでは、ほとんどの人が人生のどこかしらで天然痘に感染しており、4〜5万人が死亡し、生き延びた者の多くは顔に瘢痕を残していました。

しかし乳搾りをしていた女性達は、一度は腕に水疱ができるものの、その後はずっと天然痘にかからず、顔には瘢痕もなく、天然痘患者を近くで看病してもうつらなかったのです。

そんな中、1774年、1人の農夫がとんでもない行動を起こします!

牛痘に感染している牛の水疱から膿をとり、なんと妻と子どもたちの腕に刺してみたのです!炎上商法のyoutuberでも躊躇するレベルですよコレ!
ワクチンの概念もないこの時代、この農夫は「本気で頭おかしいヤツ」と思われたに違いありません。

しかし不思議なことに、彼らはその後死ぬまで、天然痘になることはなかったのです。

そして、その更に20年後。
田舎医をしていたエドワード・ジェンナーは、乳搾りの女性の手に出来た水疱から膿をとり、8歳の少年の腕にすりこみました。

するとその後少年は、熱は出たけれど発病せず、天然痘に接触させても発病しなかったのです。
ジェンナーはその後、数十人に実験を続け、自分の幼い息子にも試して、どうやら有効だと結論づけました。

1796年、ジェンナーはこの方法を「種痘:ヴァリオラエ・ヴァクシナエ(variolae vaccinae)」として発表しました。ジェンナーが牛痘のことをこう呼んでいたことに由来しており、ヴァッカ(vacca)は牛を意味するラテン語です。これがワクチン(vaccine)の語源なのですね。

種痘の普及により、天然痘の発生数はどんどん減少し、ついに1980年5月、WHO が天然痘の世界根絶宣言を行いました。それ以降、これまでに世界中で天然痘患者は発生していません。まさに人類の大勝利!というわけです。

科学は空想から始まる

ここでよく考えてみると、人類が「ウイルス」というものの存在に気づくのは、これより1世紀も先の話なのです。
当時はまだ手術に麻酔も使われず、器具も消毒されていなかったという、まさに驚き桃の木の時代。

そんな時代に、「これまで見た感じ、効きそうだから」という、完全に理論ではなく観察に基づいて行動してしまったジェンナーや農夫、凄くないですか?
今の時代だったら大問題になって、絶対炎上してますよ!

でも、彼らのおかげで医学は大きく前進したんですよね。

”そもそも科学は、「ありえそうにないことが可能なのではないか」と思いつくところから始まる” のです。
そして現実には、「ありえそうにないことを信じる」なんてことは、誰でも朝飯前にやっています。

前の記事でも紹介した通り、僕たち人間は、サメが世界中の海で人間を何千人も食い殺しているだとか、「現実とは程遠いことを、さも現実かのように信じやすい」生き物ですからね。

でもこれって、何もマイナスなことばかりではなくて、不可能(と思われていること)を現実に変えるという、とてつもないパワーにもなり得るわけです。それをジェンナーや農夫が、そして被験者となった人たちが、身をもって教えてくれています。

「想像力」と「助け合い」こそが、人類最大の武器なのです。

”本物”を求める人痘接種派

さて、実はジェンナーが種痘を考案する前から、似て非なる方法で予防接種は行われていました。
それは、牛痘ではなく軽症の天然痘を発症した人から膿をもらい、意図的に感染させる「人痘接種」という方法です。

かつてアメリカの独立戦争で大陸軍を率いたジョージ・ワシントンも、兵士にこの人痘接種を義務付けたといいます。

しかし人痘接種は、それで防ぐはずの感染症で1〜2%の死者を出しており、ワクチン接種よりはるかに危険でした。
にも関わらず、ジェンナーにより種痘が広められたあとの19世紀も人痘接種は消えず、ワクチン接種の代替として人気を博したことがあったのです。

この理由について、ある学者は「人痘接種を望む人は、”本物”と思える方を好んだからだ」と説明しています。
これについては次回以降の記事で解説するつもりですので、 ”本物志向” というキーワードだけ覚えておいてください。

ワクチン反対派の台頭

話は戻りますが、人痘接種だけでなく、その後推し進められたワクチン接種でさえ、それなりの危険を伴うものでした。

というのも、当時は今ほどの衛生観念もなかったため、腕から腕へと危険なワクチン接種が行われていたこともあり、梅毒などの病気をもらったりする可能性があったためです。

しかし、かつて疾病が流行している時期には、「明白かつ目前の危機」と言う言葉が大義名分として使われ、地域によっては強制的にワクチン接種が行われていました。
実際1853年のイギリスでは、すべての乳児へのワクチン接種を義務付ける強制種痘法が成立しており、当然と言えば当然ですが、至るところで抵抗に合いました。そのため、抵抗した者には罰金が科されたり、資産を差し押さえられたり、投獄されることもあったようです。

種痘拒否者たちは、自分たちのことを「良心的拒否者」と呼び、「怠惰で無関心だから子どもに種痘をさせないのではなく、子を思うゆえに拒否するのだ!」と主張しました。
「良心的拒否者」と言う言葉は、現在でこそ本人の意思に基づく兵役拒否者を意味しますが、元はと言えば種痘拒否者のことを指していたのです。

immunity という言葉は、もともと法律の文脈で「免責」を意味していました。免責とは、国家に対する兵役や義務の免除のことです。

それが19世紀後期、国家がワクチン接種の義務化を始めた頃、immunityは病気の文脈で「免疫」を意味するようになりました。
免疫義務を拒否することは、ある種の免責だったということです。

このようにワクチン接種、そして反ワクチン運動は、単なる医学的行為という枠組みを超えて、「権力への抵抗」「国家と個人の戦い」という意味合いも帯びるようになっていきます。そしてそのムーブメントに便乗し、利益を得ようとする者たちも現れ始めます。

これにより反ワクチン運動は、もはやワクチンの安全性というより、その背景にある陰謀、権力への不信感にスポットが当たるようになっていくのです。

 

…と、長くなってしまったので、今日はこのあたりで終わっておきましょう!

現在日本では、法律でワクチン接種が義務付けられているわけではありません。罰金や資産の差し押さえ、投獄をされた人はいないはずです。
それでも、これまでに世界の一部の地域では強制接種が行われ、それに対する抵抗が起こっていたというのは事実。

よく分からないけどワクチン反対」という人は、世界の歴史が作り上げてきたその空気感を、肌で感じているのかもしれませんね。

さて、次回以降もワクチンシリーズが続きます。
ここのところワクチンの話ばかりで恐縮ですが、3回目の追加接種も検討されている今こそ、話しておかなければいけないタイミングかと思いますので、このままお付き合いくださいね!

それでは、また次回のコラムで!

 

※このシリーズは、以下のリンクからご覧になれます。

【メンタルヘルス】コロナワクチンで炙り出された、知られざる罠1<思考の癖を知る>
【メンタルヘルス】コロナワクチンで炙り出された、知られざる罠2<科学的思考の難しさ>
【メンタルヘルス】ワクチンと反ワクチン派の歴史1<反ワクチンはいかにして生まれたか>
【メンタルヘルス】ワクチンと反ワクチン派の歴史2<ワクチン、反ワクチンで儲かる人がいる?>
【メンタルヘルス】コロナワクチンで炙り出された、知られざる罠3<ヒトは繋がりの中で生きている>


 

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Writing by T.S

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