COLUMNコラム

【メンタルヘルス】コロナワクチンで炙り出された、知られざる罠2<科学的思考の難しさ>

こんにちは!所属精神科医のT.Sです(実名非公開)。

このコラムでは、

僕が精神科医として患者さんと接する中で手に入れ、磨き上げてきた様々な武器
つまりは「幸せになるコツ」

を紹介していきます。
読んでいただいた皆さんにとって少しでもタメになる記事をお届け出来るように、僕自身も勉強を深めながら楽しんで更新していきます!
どうぞよろしくお願いします!

さて、前回はこんな記事を書きましたが、みなさん読んでいただけましたでしょうか。

【メンタルヘルス】コロナワクチンで炙り出された、知られざる罠1<思考の癖を知る>

この記事の中で、人間の脳が持つ以下の性質について触れました。

  白黒思考:「正解と不正解」「正義と悪」など、物事を2つに、ハッキリと分けたがる
  怠けがち:いらない情報はそもそも拾わないし、拾ってもすぐに捨てる
  変化が嫌い:安定した状態が大好きで、新しい環境に飛び込むことを避けようとする

ワクチン推進派も反対派も、ともに人間であることは揺るぎのない事実。
そして人間であるからには、上に述べた「脳の考え方の癖」から逃れることは容易ではありません。

その結果、ワクチンについて議論している人の多くが、非科学的な思考からひねり出した持論をぶつけ合っている、なんともカオスな事態となっています。
大きな発言力を持つ政治家や芸能人、インフルエンサーといった人たちも例外ではありません。
(むしろ、シッチャカメッチャカな理論を展開している人が少なくないような…ゴニョゴニョ)

もちろん、「内容全てが正確じゃないのなら喋るな!」と言っているわけではありません。

しかし、ことワクチンに関して言えば、何よりも尊い人命に直結する事案です。
そしてこの人命とは、何も見知らぬ他人のものだけではなく、自分の大切な人たち、ひいては自分の命も含まれています。

出来る限り正確な情報を使って、適切な思考を経て答えを出したいし、それを以て議論したいと思いませんか?

 

さて、今回の記事は前回の続編です。
前の記事では語りきれなかった「思考の罠」に触れながら、コロナワクチン論争をさらに深堀りしていきます。

ちなみに、この一連の記事を書くにあたり、こちらの書籍をかなり参考にし、一部は引用もさせていただいています。
(コロナが猛威を振るうより前に出版されています)

「子どもができて考えた、ワクチンと命のこと。」 ユーラ・ビス (著), 矢野 真千子 (翻訳)

子どもにワクチンを打つかどうかで自身も悩んだ経験がある一人の母親が、

「どうして人々はワクチンを怖がるのか?」
「ワクチンは恐怖に値する存在なのか?」

などにつき、科学的なデータに基づいて論じています。
ワクチンの歴史や裏事情、ハッとさせられる気づきや考え方がてんこ盛りの名著です。
是非参考にしてみてくださいね!

統計と恐怖心は一致しない

突然ですが、バッドニュースです。

そもそも僕たち人間は、科学的、理論的な思考が得意じゃない可能性が高いです。

歴史家のマイケル・ウィルリックという人が、このような言葉を残しています。

” 個人のリスクの感じ方というのは、
その人が見聞きする危険に対する直感的な判断であり、
専門家の言うエビデンスなど入る余地がない “

「専門家が研究に研究を重ねた結果、コロナワクチンを打つリスクより、打たないリスクの方が遥かに大きいということが分かりました!」

とあんなに叫ばれているのに、全く聞く耳を持たない人は少なくないですよね?まさにそれなんです。

実は僕たち人間というのは、本当に危険なものに対して、驚くほど警戒することができません。

今は大して危険に見えなくても、ゆくゆくは恐ろしい脅威となりうるモノ。

ワクチン反対派にとって、ワクチンはこれにあたるわけですが…

よく考えてみたら、僕たちの周りって、そういうもので溢れてるんです。

コロナワクチンの危険性を叫びながら、片手にはタバコ、片手にはお酒。
運動する習慣もなく、一日の大半を座って過ごしながら、コーラを飲みスナック菓子を食べる日々…

ワクチンよりも長い歴史をかけて研究され、すでに「危険だ」と証明されている行為でさえ、人間はやめることができていないんですよ…トホホ…

そして逆に、

統計的に見るとほとんど遭遇しそうにないアクシデントや、大々的に報じられるドラマチックな出来事について、僕たちは過剰に心配してしまいます。

 

人々にとって重要なのは、事実よりも恐怖心

我々人間は、「世界は自分の想像以上にドラマチックだ」という思い込みに陥りやすいとされています。

サメが世界中の海で多くの人間を食い殺しているイメージは容易にできても、
がこれまでに何十万人もの命を奪ってきたという事実はなかなか想像できません。

でも僕たちは、サメを怖がることはあっても、蚊を怖がることはありませんよね。

他にも、ニュースなどを見ていると、世界の至るところで殺人事件が起こっている気がしてしまいます。
でも実は、現在多くの国では他殺よりも自殺の死者数・件数が上回っており、その増加率も異様に高いことを知っていますか?
そしてその「自殺 >>>> 他殺」の代表的な国といえば…そう、僕たちが住む日本ですよね。

「事故死」と「病死」ではどうでしょうか。
冷静に考えてみれば、病死の死者数の方が多いことに気づけるかと思います。

でも、悲惨で、一度に多くの命が奪われる事故を想像したら…誤った結論を出してしまってもおかしくないでしょう。

 

このように、人間の脳は「よりドラマチックに」考える癖があります。
思い込みを排除し、統計を事実として受け入れるのは、そもそも苦手なのです。

リスクを数字で示されても、実は人の心にはあまり響きません。
むしろ、数値化出来ない恐怖心を感じた時、人は強くリスクを意識するのです。

 

法学者のキャス・サンスティーンの言葉に、以下のようなものがあります。

” 人々にとって重要なのは、事実に即しているかどうかではなく、自分が怖いと感じるかどうかである “

これ、まさに今のワクチン議論にも当てはまると思いませんか?

「アナフィラキシーショックになる確率は○○でかなり低い!」
「妊婦と胎児の将来を考えると、妊婦でもワクチンを接種したほうが良いという研究結果が出た!」

いくら医療者や政府が声高に宣言したところで、一度植え付けられた恐怖心はなかなか覆すことが出来ません。
たとえそれが、間違った情報や思考を経て形成された考えであっても…

そしてこのままだと、ごく小さなリスクばかりに注目が集まる一方、差し迫った大きな脅威に目がいかなくなる可能性が高くなってしまいます

多くの人間は「科学者」ではない

人間の中にも、科学的・理論的な思考が得意な人たちがいます。「科学者」と呼ばれる存在です。

彼らは、積み上げられた膨大なデータを、主観を取っ払った中立的な視点から見定め、普遍的な解答を導き出す訓練を徹底的に積んできた、科学的思考のプロ集団です。(もちろん、科学者だって迷子になることはありますが)

さて、僕たち一般人と科学者の違いって、いったい何だと思いますか?

本著「子どもができて考えた、ワクチンと命のこと。」の中でも述べられ、僕個人も決定的だと感じた両者の違いがあります。

それは、「未知」と出会ったときにどう振る舞うか、という点です。

”  科学者でない私たちは、自分の思い込みに反する情報に出会ったとき、その情報の方を疑いがちです。
自分の思い込みが間違っているかもしれない…とは、なかなか考えることができません。

私たちは、科学界から何かしらの検証結果を受け取っても、それを
自分の中に元々あった不安を正当化するための材料 として使う傾向があります。  “

 

僕たちはまず、「自分は科学者ではない」という、誰がどう見ても否定しようがない事実を、自分の中にしっかり落とし込む必要があります。
これを怠ると、整備されていないレールの上を暴走し、地獄の果てまで走り続ける結果になりかねません。

しかしそれと同時に、「自分だけでなく、周囲の多くの人もまた、科学者ではない」という事実にも気づかなければなりません。
見栄えが良くて、有名人が前を走っていたとしても、それはレールの安全性を担保してくれる材料にはならないのです。

僕たちそれぞれが、「人間はそもそも科学的な思考が苦手なんだ」と理解するところから始めましょう。

その上で、完璧とはいわずとも、自分や周りの人達をちゃんと守れるだけの科学的な思考力を、少しずつ身に着けていきたいものですね!

 

…ワクチンに関すること、まだまだ話し足らないので、おそらく次回も続きます…!笑

それでは、また次回のコラムで!

 

※このシリーズは、以下のリンクからご覧になれます。

【メンタルヘルス】コロナワクチンで炙り出された、知られざる罠1<思考の癖を知る>
【メンタルヘルス】コロナワクチンで炙り出された、知られざる罠2<科学的思考の難しさ>
【メンタルヘルス】ワクチンと反ワクチン派の歴史1<反ワクチンはいかにして生まれたか>
【メンタルヘルス】ワクチンと反ワクチン派の歴史2<ワクチン、反ワクチンで儲かる人がいる?>
【メンタルヘルス】コロナワクチンで炙り出された、知られざる罠3<ヒトは繋がりの中で生きている>


 

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Writing by T.S

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