COLUMNコラム

【メンタルヘルス】ワクチンと反ワクチン派の歴史2<ワクチン、反ワクチンで儲かる人がいる?>

こんにちは!所属精神科医のT.Sです(実名非公開)。

このコラムでは、

僕が精神科医として患者さんと接する中で手に入れ、磨き上げてきた様々な武器
つまりは「幸せになるコツ」

を紹介していきます。
読んでいただいた皆さんにとって少しでもタメになる記事をお届け出来るように、僕自身も勉強を深めながら楽しんで更新していきます!
どうぞよろしくお願いします!

さて今回は、前回に引き続き「ワクチンと反ワクチン派の歴史」シリーズをお届けします。

ちなみに前回の記事はこちら↓

【メンタルヘルス】ワクチンと反ワクチン派の歴史1<反ワクチンはいかにして生まれたか>

前回の記事では、ワクチンが民間療法から始まったこと、ワクチンの語源などといった知識に加え、

◯まだ衛生観念がしっかり確立されていない時代のワクチン接種は、一定の危険を伴うものであった
◯しかしワクチン接種を強制される地域もあり、反対運動が各地で起きていた

ことを説明しました。また、

◯反ワクチンのムーブメントに便乗し、利益を得ようとする者たちが現れ始めた

という部分の触りのみお伝えしました。

今回も例のごとく以下の名著を参考にしながら、反ワクチン運動がどのような思想のもとで広がったのか、そしてそれに便乗した「悪いヤツら」についてお話していきます。

「子どもができて考えた、ワクチンと命のこと。」 ユーラ・ビス (著), 矢野 真千子 (翻訳)

 

女性の医療史と社会不信

先日Twitterで、「ワクチンを打つと自閉症になる!」という文言を見かけました。

それを見た僕の感想は、「まだそんなこと言ってる化石みたいな人いたんだ…」でしかないのですが、実はこの説がまことしやかに囁かれるようになるきっかけとなった事件があります。

そしてその事件には、長きに渡って続いた「女性蔑視」の風潮が深く関わっているので、まずはそこから順に説明しますね。

かつて、医療に相当するものは基本的に女性の領域でした。戦で傷ついた戦士の治療、といったものですね。

しかし、女治療師による伝統的な施術法は、医者や教会からかなりの圧力をかけられていました。

怪しげな治療を行うものは「魔女」として迫害され、産婆(助産師の旧称)でさえ「良い魔女」と分類されており、15世紀から18世紀にかけて、ヨーロッパのあちこちで魔女狩りが行われていました。

女性が病人を癒す能力を怪しまれ、処刑される一方で、じゃあ当時の医者たちはどうだったのかというと…
かなりトンチンカンなことをやっていたようでございます。

実験や訓練もせず、人体には無知同然であり、その治療法というのも、迷信に毛が生えたようなもの。
たとえば、歯痛の治療と称して患者のアゴに「祈りの文章」を書いたりしていたそうです笑
今なら、「歯医者行ったら顎に文字書かれた」なんてツイート、一瞬でバズりそうですよね。

さて、そんな中で女性たちにとって「出産」は、医者から取り上げられずに最後まで残された領域の1つでした。
産科医たちは自らの市場価値を高めようと、産婆を「無知で不潔で危険だ」と罵り、出産の場を自宅から病院に移そうと躍起になりました。

ところが、いざ病院での出産が増えてくると…なんと、妊産婦の死亡率が急上昇したのです。

その原因は、診察のたびに手洗いをしない医者を通じて、産褥熱(分娩後に起こる敗血症)が広まったからでした。
前の記事でもお話しましたが、その頃はまだ麻酔を使わずに手術をしていたり、ウイルスの存在も確認されていないような時代ですからね。

しかし当時の医者たちは、あろうことか「産褥熱の原因は妊婦の心の弱さや愚かさのせいだ」と訴えました。

誰がどう見ても苦しすぎる言い訳なのですが、まだ科学も医療も発展途上、且つ女性蔑視の風潮が強い時代でしたから、強烈な熱量で世間に迎えられることとなります。

その後、同性愛は「子を甘やかして育てる不安感の強い母親が原因」とされ、自閉症は「冷淡で愛情深い接し方をしない母親が原因」だという「冷蔵庫マザー仮説」が流行しました。
世の中の女性たちは、エビデンス皆無の酷い言いがかりに苦しめられ、肩身の狭い思いをしてきたに違いありません。

そんな中、彗星のごとく現れたのが、アンドリュー・ウェイクフィールドという内科医が発表した、とある論文でした。

ワクチンを打つと自閉症になる?

1998年、イギリスの胃腸科専門医アンドリュー・ウェイクフィールドが、

「MMRワクチン(麻しん風しんムンプス混合ワクチン)は、自閉症の症状を含む行動症状に関連がありそうだ」

と推測する論文を発表しました。

「お前たちのせいで子どもが自閉症になるんだ!」と罵られてきた女性たちにとって、まさしく希望の光に見えたに違いありません。
この論文は世間の母親たちの心をガッシリと掴み、麻疹のワクチン接種率は急激に落ちてしまいました。

ただしこの論文、実は「ワクチンと症状との関連性はまだまだ検証できていないので、追加の研究が必要ですよ」とちゃんと書いてあったようです。
しかしその部分は読み飛ばされ、世間は「ワクチンのせいで自閉症になる」と信じ込んでしまったんですね。

その後、20年にわたって研究が行われましたが、結局のところMMRワクチンと自閉症の関連は見いだされませんでした。

それどころか、ワクチン製造会社を訴える裁判を担当する弁護士が、ウェイクフィールドに金を支払っていたなどの不祥事が発覚。
これにより、ウェイクフィールドは医師免許を剥奪されています。

このように、「ワクチンが自閉症の原因説」の出どころであるウェイクフィールドの研究は、不正であったという結論がすでに出ています。
にもかかわらず、2021年になった現在でも、未だにこの論文を引き合いに出して「ワクチンが自閉症を引き起こす」と主張する人がいます。僕もつい先日Twitterで見かけたばかりですしね。

これについて、「子どもができて考えた、ワクチンと命のこと。」の著者ユーラ・ビスは、以下のように書いています。

“単にこの件についてよく知らないか、科学的な検証まで考えが及ばなかったというのなら、まだ仕方がないかもしれない。
しかし、ただ「自分が信じたいと思える考え方」を探していて、都合よく見つけたからこれ幸い、と使っているというのであれば、非難されるべきだろう。”

反ワクチンで儲けようとする人もいる

「ワクチンは金儲けのために作られた」と主張する人たちは、「反ワクチンで金儲けする人もいる」という事実にも目を向けるべきです。
実際、このウェイクフィールドという前例がいるわけですし、現に今でも、怪しげな医者がでたらめばかりを書き散らした「反ワクチン本」などが、Amazonでベストセラー入りしたりなどしています。非常に悲しいですが、現実です。

ここで改めて、以前の記事「【メンタルヘルス】コロナワクチンで炙り出された、知られざる罠2<科学的思考の難しさ>」でも紹介した言葉を再掲しておきます。

” …私たちは、自分の思い込みに反する情報に出会ったとき、その情報の方を疑いがちです。自分の思い込みが間違っているかもしれない…とは、なかなか考えることができません。
私たちは、科学界から何かしらの検証結果を受け取っても、それを自分の中に元々あった不安を正当化するための材料 として使う傾向があります。 “

「ワクチンと自閉症問題」では、もちろん女性が差別されてきたという歴史の影響も大いにあったのでしょう。
しかし結果として、自分の中にあった不満・不信を正当化してくれるウェイクフィールドの論文に、人々が飛びついてしまったのは紛れもない事実。

そして一番被害を被ったのは、ワクチンを打っていれば防げたであろう病気の脅威にさらされてしまった、多くの子どもたちです

こと医療に関しては、その専門性の高さから、本当に正しい情報にたどり着くのは困難と言えます。
しかしその選択は、自分や周りの大切な人たちの健康という、何物にも替えられない大切な宝に直結します。

根拠のない迷信や陰謀論に振り回されないよう細心の注意を払っていきましょう。
そしてこの記事が少しでもその助けになってくれると、とても嬉しいです!

それでは、また次回のコラムで!

 

※このシリーズは、以下のリンクからご覧になれます。

【メンタルヘルス】コロナワクチンで炙り出された、知られざる罠1<思考の癖を知る>
【メンタルヘルス】コロナワクチンで炙り出された、知られざる罠2<科学的思考の難しさ>
【メンタルヘルス】ワクチンと反ワクチン派の歴史1<反ワクチンはいかにして生まれたか>
【メンタルヘルス】ワクチンと反ワクチン派の歴史2<ワクチン、反ワクチンで儲かる人がいる?>
【メンタルヘルス】コロナワクチンで炙り出された、知られざる罠3<ヒトは繋がりの中で生きている>


 

●オンラインカウンセリング(カウンセリング、メンタルトレーニング)もどうぞ、ご利用ください。
詳細はこちらをご覧ください。

※小高の対面カウンセリング(カウンセリング、メンタルトレーニング・コーチング)、メールカウンセリングはご紹介制となっております。
オンラインカウンセリングにつきましては、通常のお申し込みで対応させて頂いております。

Writing by T.S

オンライン
カウンセリング
カウンセリング予約