COLUMNコラム

【メンタルヘルス】コロナワクチンで炙り出された、知られざる罠1<思考の癖を知る>

こんにちは!所属精神科医のT.Sです(実名非公開)。

このコラムでは、

僕が精神科医として患者さんと接する中で手に入れ、磨き上げてきた様々な武器
つまりは「幸せになるコツ」

を紹介していきます。
読んでいただいた皆さんにとって少しでもタメになる記事をお届け出来るように、僕自身も勉強を深めながら楽しんで更新していきます!
どうぞよろしくお願いします!

この記事を書いている現在、東京オリンピックが密かに、しかし確実な盛り上がりを見せています。
毎日日本人選手のメダル獲得ニュースが飛び込んできて、そのたびに血湧き肉躍る(?)思いです。

個人的には、内村航平選手が鉄棒で落下してしまったのが残念でなりません。
実は僕、幼少期に器械体操を習っていて、内村選手と同じ大会に出たこともあったのです!これ、プチ自慢。

きっと内村選手、僕というライバルへの対抗心を燃やして日々努力し、オリンピック出場するにまで至ったのでしょうね…うん…絶対違うな…

しかし、間違いなくチームの精神的支柱でもあった内村選手が予選敗退したにも関わらず、団体で銀を獲得した体操王国日本…本当に凄い!
やはり一流のスポーツマンは、一流のメンタルヘルスケアテクニックを兼ね備えている。自分の気持ちを切り替える「武器」をちゃんと持っているんですね。

僕たちも、強く勇ましいオリンピック選手たちの勇姿から、多くのものを学んでいきたいものです!

さて、オリンピックが盛り上がりを見せる中、新型コロナウイルスの感染者数はどんどん増え続けています。

しかしそれに並行して、全国的にワクチン接種も進んできています。変異株にはやや効力が落ちるとも言われていますが、それにしても重症化・感染拡大を防ぐためには必要不可欠な存在です。まさに人類にとって最大の「武器」に他なりません。

そんなコロナワクチンですが、皆さん御存知の通り、接種は任意接種です。
接種する権利もあれば、拒否する権利もあります。

事実、僕の知り合いの医療従事者のうち、ほとんどが接種しておりますが、一部には接種を見送った人もいました。
あるいは、「なんだか心配だけど、まぁ打った方がいいんだよね…?」と不安気な表情を浮かべながら接種をした人もおりました。

そして困ったことに、「ワクチン打たないなんて(or 打つなんて)、あんなに馬鹿なやつだとは思わなかったわ…」と、推進派・反対派の友達同士が険悪な仲になってしまう例も散見されます。
これも、ワクチンをめぐる弊害の一つといって良いでしょう。

そこで今回の記事では、このコロナワクチンにまつわる話をしようと思います。
ただし、ここはあくまで心理コラム。ワクチンの危険性とか、医学的な内容にはあまり触れません。

ワクチン推進派とワクチン反対派、そのどちらもが陥る可能性のある「思考の罠」にスポットを当ててみます。

ワクチンを疑問視する人々

コロナワクチンの有効性は様々な研究で立証されています。
全文英語ですが、こちらの論文などは読みやすくまとまっていますので、是非ご一読下さい。

J. -. Chang, P. A. Lawless and T. Yamamoto, “Corona discharge processes,” in IEEE Transactions on Plasma Science, vol. 19, no. 6, pp. 1152-1166, Dec. 1991, doi: 10.1109/27.125038.

“Nanoparticle size and surface properties determine the protein corona with possible implications for biological impacts” Martin Lundqvist, Johannes Stigler, Giuliano Elia, Iseult Lynch, Tommy Cedervall, and Kenneth A. Dawson

そんなワクチン接種が世界各国で奨励される中、一部の人たちは反対の声を上げています。

「ワクチンは危険!そんなにすぐ作れるはずがない!」
「国に騙されてはいけない!少し調べれば分かるのに、なぜみんな騙されるの!?」
「陰謀だ!打った人は全員、数年後に死ぬぞ!」

一部では、ワクチンを打つことで身体が磁性を帯びるとか、5Gの電波を拾ってしまうなんてデマも流れていますね。
僕はすでに2回接種しましたが、クレジットカードは壊れていないし、未だに高額な携帯料金を払い続けていますので、どうかご安心ください。

考えてみると、こと日本においては、有名なHPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の件がありますので、ワクチンに対する風当たりはより一層強いのかもしれません。

さて、HPVワクチンについては、その後の 名古屋スタディ などの大規模研究やWHOの発表で、

「接種後の症状とHPVワクチンに因果関係なし」
「安全性に懸念を示すデータはない」

と結論づいていますが、そのことについて知っている人はどのくらいいるのでしょうか。
僕の周囲では、たとえ看護師さんなどの医療従事者だとしても、未だに過去の報道で情報がストップしている人が多い印象です。

「ワクチンは危険だ!」と思ってしまう感覚は、たしかに理解できます。
そして、その感覚は単純に「無知」「非科学的」と片付けてしまってよいものではなく、特に僕たち医療従事者はその不安にしっかりと寄り添う必要があります。

ただし、人が「ワクチンは危険だ!」あるいは「ワクチンは安全だ!」と主張するとき、自分でも気づいていない力に動かされている可能性を考えなければいけません。

 

人間の脳は「白黒思考」「怠けがち」「変化が嫌い」

ここで皆さんにお尋ねしたいことがありますので、正直に答えていただきたいのですが…

 

先程の英語論文、ちゃんと読んでくださいましたか?

 

読んでくださった方なら、すぐに気づいたはずですが…

あの論文、実はコロナウイルスとは全く関係ありませんでしたよね?

「英語論文です」と聞いた時点でページを開くことすらしなかった人もいれば、ページを開いたは良いが英語だらけですぐに閉じてしまった…という人も多いのではないでしょうか。

言うまでもなく、この世界に溢れる情報の多くは「英語」です。
世界で日々更新される情報をリアルタイムで追うには、どうしても英語で情報を取りに行く必要があります。

しかしこれも周知の事実ですが、日本人は決して英語が得意な民族とは言えません。

「少し調べれば分かるのに」という人たちは、本当に英語でナマの情報を取りに行ったのでしょうか?
これ、僕が普段から甚だ疑問に思っているところなのです。

自分にとって都合よく、読みやすい日本語で書かれた文章、日本語で解説される動画を見て、「必要な情報を得た気になっている」だけではないでしょうか?

ただしこれ、ワクチン反対派のみではなく、推進派に対しても言えることなのですけどね…。

 

さて、今回のワクチン問題のみならず、あらゆることを考える上で覚えておかなければいけないのは、基本的に人間の脳は以下のように設計されているということです。

白黒思考:「正解と不正解」「正義と悪」など、物事を2つに、ハッキリと分けたがる
怠けがち:いらない情報はそもそも拾わないし、拾ってもすぐに捨てる
変化が嫌い:安定した状態が大好きで、新しい環境に飛び込むことは避けようとする

これをワクチンで当てはめると、次のようになります。

白黒思考:「ワクチンは安全」 or 「ワクチンは危険」のどちらかしか正しくないと考えがち(実はどちらも間違いではない)
怠けがち:聞きやすい音声や見やすい動画、読みやすい文章など、自分にとって楽で都合のいい情報源からしか情報を得ようとしない
変化が嫌い:「ワクチンは 安全(or 危険)だ!」と結論づけてからは、新たな情報を得ようとしない

 

Negative capability を身につける

Negative capability(ネガティブ・ケイパビリティ)という、詩人ジョン・キーツの言葉があります。

これは、「不確かなものや答えの出ないものを受容する能力」を指しますが、個人的に、我々がこの世界を生き抜く上で必要不可欠な力だと僕は考えています。
すべてを白と黒に分けるのではなく、「グレーな部分や、白とも黒ともグレーとも呼べない部分が無数に存在する」ことを認めるのが重要なのです。

ワクチン界ではまだまだ「赤ちゃん」であるコロナワクチン。
様々な研究で有効性が示され、中・長期的な安全性も示唆されていますが、決して100%安全とは誰にも言えません。こればっかりは時間が経たないと分からないのだから、当然の話です。

そういう意味では、現段階で「コロナワクチンは100%安全です!」とは誰にも断定できず、それが理由で接種をためらっている人も少なくないでしょう。

ただしここで気づいてほしいのは、コロナワクチンが100%安全だと言える日など永遠に来ないということです。

10年先が安全でも、20年先は?30年先は?
子どもに影響がなくても、孫には?そのさらに孫には…?

コロナワクチンの安全性こそ、「不確かで、答えの出ないもの」の一つと言えます。

では、その不確実性を恐れて接種しないのが、正しい選択なのでしょうか。
それとも、最早何も考えること無く、周りに流されて接種してしまうのが正解なのでしょうか。

どちらも違います。

僕たちがやるべきことは、正しい知識を元に、リスクとベネフィットを天秤にかけることです。

「ワクチンを打った場合の将来的な危険性」と「今ワクチンを打たない危険性」を、正しく天秤にかけることができていますか?

未知の恐怖を勝手に膨張させて、それを建前に危険性と向き合うことを避けていませんか?
脳の怠惰な性格に負けて、情報をテキト〜に選んでしまったり、シャットダウンしていませんか?

一見自分の中では確信めいた考えを持っていたとしても、実はシンプルに「脳の性格」に流された結論である可能性が、誰しもに存在するのです。

このことを頭の片隅に置いておくだけで、今後の自分の選択や、異なる意見を持った他人との関わり方に、なにか変化が生まれるかもしれません。
皆さん、是非覚えておいてくださいね!

(※ちなみにですが、鎮痛薬として広く用いられているロキソニンでさえ、誕生したのは1986年。実はまだ35年しか経っていません。
僕がまだ高校生かそこらだった15年前、つまりロキソニン誕生からまだ20年の段階でさえ(そしておそらくもっと前から)、周りの人たちは何の躊躇いもなくロキソニンを常用していました。)

 

さて、コロナワクチンをめぐってあぶり出される「思考の罠」について書いてみましたが、まだまだお伝えしたいことがございます!

が、今回の記事はかなり長くなってしまったので、次回以降の続編に続きます。

これらの記事が、読んだ人にとってのベストな選択肢を選ぶ助けになることを祈っております。

それでは、また次回のコラムで!

 

※このシリーズは、以下のリンクからご覧になれます。

【メンタルヘルス】コロナワクチンで炙り出された、知られざる罠1<思考の癖を知る>
【メンタルヘルス】コロナワクチンで炙り出された、知られざる罠2<科学的思考の難しさ>
【メンタルヘルス】ワクチンと反ワクチン派の歴史1<反ワクチンはいかにして生まれたか>
【メンタルヘルス】ワクチンと反ワクチン派の歴史2<ワクチン、反ワクチンで儲かる人がいる?>
【メンタルヘルス】コロナワクチンで炙り出された、知られざる罠3<ヒトは繋がりの中で生きている>


 

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Writing by T.S

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