COLUMNコラム

【精神科医が解説】より良い夫婦・パートナー関係のために<No.2 まずは二人の関係性を知る>

こんにちは!所属精神科医のT.Sです。

このコラムでは、

私が精神科医として患者さんと接する中で手に入れ、磨き上げてきた様々な武器
つまりは「幸せになるコツ」

を紹介しています。

そして前回、「より良い夫婦・パートナー関係のために」という連載がスタートしました!

精神科医として日々診療を行う中で、夫婦・パートナー関係の悩みを抱えている患者さんは、本当に、本ッッッ当にたくさんいらっしゃいます!!

たとえ困りごとの主訴が夫婦関係ではなくても、お話を聞いていくうちに、実は夫婦関係の問題が背景にあったとか、本来であれば患者さんを支えてくれるはずの家庭がうまく機能しておらず、その結果病状がより悪化してしまっていた…といった方は、もはや精神科医にとっては日常茶飯事と言えるほどに沢山いらっしゃるのです。

今回も引き続き「対人関係療法」という強力な武器を使いながら、夫婦・パートナー関係の問題に切り込んでいきます!
ぜひご一緒に、メンタルトレーニングに励みましょう!

なお、今回も引き続き、水島先生のこちら↓の書籍で勉強させていただいた内容をもとに話を進めていきます。
前回もお話ししましたが、私にとってはもはや聖典のような本です。
少しでも興味の湧いた方は、ぜひ手に取ってみてください!

『対人関係療法で改善する 夫婦・パートナー関係 水島広子 著』

相手は「全く違う他人」である

まず最初に、前回のコラムで紹介した内容をまとめておきます。

〇より良い夫婦・パートナー関係を築くために、「対人関係療法」が非常に有用である
〇「重要な他者」である夫婦・パートナーとの関係は、人間のメンタルヘルスを健康に保つうえで非常に重要である
〇夫婦・パートナー関係というのは、実はかなり微妙なバランスの上に成り立っていて、ちょっとしたきっかけで破綻する可能性を秘めている

さて、「重要な他者」である夫や妻、パートナーとの関係が、その人のメンタルヘルスや幸福度に大きく影響するのは言うまでもないでしょう。

しかし一方、前回も少し触れましたが、実は夫婦・パートナー関係というのは絶対的なものではなく、お互いが何の配慮もしなければ、ふとしたきっかけで破綻してしまう可能性を秘めているのです。

そもそも、一般に夫婦やパートナー関係は、(例外もありますが)基本的にはお互いの好意により結ばれるはずです。

そんな二人の間でこのようなトラブルが頻発してしまうのは、いったい何故なのでしょうか?

実は、夫婦・パートナー関係についてある重大な見落としをしている、あるいはするようになってしまうことが原因なのです。

その見落としとは…

「お互いが全く別の人間である」という、ごく当たり前の事実です。

育ってきた環境が違うから好き嫌いはイナメナイ

なんだかあの有名な歌が頭に浮かんできますね。

ほとんどの夫婦やパートナー同士は、もともと全くの赤の他人です。

育った家庭、土地、周りの友人、顔や身長・体重などの外見、仕事、得意なことや苦手なこと、趣味、癖、休日の過ごし方、好きな人のタイプ…

二人の間には、あげればキリがないほどの違いがあるわけです。

そして、性別も違います。
(もちろん同性愛もありますが、前回のコラムでも述べたように、今回は主に「男女」の夫婦・パートナー関係について扱います)

性別が違えば、社会で期待される役割や振舞い方、子供がいる場合には父親、母親としての違いなども生じてきます。

こんなに無数の違いのある二人ですが、「交際」「婚約」「入籍」などを経て一度夫婦・パートナーとしての関係を結ぶと、一般的には人生の多くの部分を共有し、苦楽を共にすることになります。

しかし、たとえ夫婦・パートナーになったとしても、一人は仕事に行き、一人は家で家事をするなど、別々の場所でそれぞれ時間を過ごすことが大半です。
そこで相手がどのような過ごし方をし、何を感じ、どんな経験をしたのか、私たちは知る由もありません。

そうなのです。

夫婦やパートナーといえど、実は共有できている時間や経験はかなり少ないものなのです。

その中でも、「子育て」は一見すると共有できる体験のように思えます。

しかし子育てというのは、ご存じの通り生半可なものではありません。
お金にも時間にも余裕がある家庭はごく限られており、多くの家庭では家事や育児は分担するのが普通でしょう。

そうなると、たとえ同じ「子育て」に取り組んでいても、それぞれが別の動きをしているわけです。感じること、思うこと、苦労することも違ってきますが、そのすれ違いを共有しないまま過ぎてしまっていることも少なくありません。

そんな二人だからこそ、その溝を埋める努力が絶対に必要なのです。

身近な人にほど「甘え」を抱きがち

これまでに説明した通り、交際が始まろうと、戸籍上夫婦になろうと、二人の価値観が揃い同じになったわけではないので、その後も常にお互いの違いと向き合っていくことが重要になります。

でも何故か、本来なら最も大切にすべき「重要な他者」である夫や妻、パートナーに対して、丁寧な対応が出来ないという人が少なくありません。

皆さんの周りに、「友人にはすごく人当たりがいいのに、親やパートナーと話すときには、まったく違った雑な態度になる」という人はいませんか?

あるいは、あなた自身にもそういう傾向がないでしょうか?

ここ数年でだいぶ改善されたと思っていますが、恥ずかしながら、私にもそのような傾向がありました。私の場合、妻ではなく自分の親に対してです。

例えば、母親が思いやりから何かをくれようとしても礼も言わずに断ったり、LINEの返事が素っ気なく端的だったり…

私たち人間は、どうしても身近な人を雑に扱いやすい傾向があります。

そしてその本質は、雑に扱っているというより、「甘えている」のです。
自分の親やパートナーなどに対して、日々の馴れ合いの中で、自分がどんな態度を取ろうと「分かってもらえているだろう、許されるだろう」と、甘い考えを抱いてしまっているのです。

そしてこの「甘え」こそ、夫婦・パートナー間でのトラブルの元となります。

自分と相手との境界線が曖昧になる

どのような場面でもいいのですが、例えば仕事やプライベートの集まり、ママ友との付き合いなどにおいて、「相手を責める」という行為は一般に避けるべきであり、失礼なものであるはずです。

たとえそこに正当な理由があったとしても、多くの方は「言っても大丈夫かな…?」とやや躊躇したり、言うとしてもオブラートに包むよう言い方を工夫するなどの気遣いをするでしょう。

一方、夫婦・パートナー間においてはどうでしょうか。

「相手を責める」という行為が、特に気遣いやためらいのクッションも無くストレートに、しかもそれが日常的に行われてしまっていないでしょうか。

そこにはやはり、先ほど述べた「甘え」があります。

しかし、それだけではありません。

告白して交際が始まった。

結婚して夫婦になった。

そんなとき、多くの人が「二人が一つになった」ような感覚を持つものです。

これはとても幸せなことではあるのですが、実は大きな危険性をも孕んでいます。

それは、「自分とは違う一人の人間として相手を尊重できなくなる危険性」です。

夫婦・パートナー関係になると、次第に自分と相手との境界線が曖昧になり、「これは私たち二人の問題だ」という意識が強くなります。

その姿勢自体が悪いことではないのですが、あまりにその意識が強くなりすぎると、本来は相手の問題であるはずのものも、自分の問題として感じられるようになってしまいます。

その結果、相手が人格を持つ一人の他人であることを忘れ、自分の悪いところを直すのと同じ感覚で、相手を責めてしまうのです。

「私たち二人のためなんだから、私が相手を責めるのも自然なことだ」という意識から相手を別人格として尊重できなくなると、伝え方を配慮しなくなったり、自分の価値観だけに従って相手の「悪いところ」を矯正しようとするようになります。

これが夫婦・パートナー間で起こる「責める」「責められた」の正体です。

まずは二人の関係性を知ることから始める

今回も前回の導入編の続きのような内容になってしまいましたが、今後の話をするうえでとても重要なポイントになりますので、改めて整理しておきます。

繰り返しになりますが、夫婦・パートナー同士の間には、本来あげればキリがないほどの違いがあります。

しかし、夫婦やパートナーとなって共に過ごすうち、次第に「お互いが全く別の人間である」という感覚を忘れがちです。

その結果、「相手の問題は自分の問題」になり、「言わなくても分かってもらえるはず」という甘えに繋がります。

そして相手を別人格の一人の人間として尊重できなくなると、相手の気持ちに配慮した発言や行動が出来なくなり、最終的には関係が破綻してしまうことになりかねません。

そのため、原点に立ち返って、まずお互いの関係性を知るところから。

より正確に言うなら、「お互いをしっかり知らないということを知る」ことから始めましょう。

夫婦・パートナーとは、一蓮托生でありながらも、元々お互いに全く別の人間で、実際に共有できている時間や体験は驚くほど少ないという、実はかなり特殊な関係性です。
だからこそ互いの溝を埋め歩み寄る姿勢が必要ですが、同時に、境界線が曖昧になり相手を尊重できなくなることも避けなければなりません。

このポイントを十分に理解したうえで、ぜひ今後の実践編に進んでいただければと思います。

次回以降の連載も、ぜひ楽しみにしていてくださいね!

それでは、本日はこのあたりで。
また次回のコラムでお会いしましょう!

今回の連載シリーズはこちら↓

【精神科医が解説】より良い夫婦・パートナー関係のために<No.1 導入編>
【精神科医が解説】より良い夫婦・パートナー関係のために<No.2 まず二人の関係性を知る> ←今回の記事
【精神科医が解説】より良い夫婦・パートナー関係のために<No.3 男女における『気遣い』の違い>
【精神科医が解説】より良い夫婦・パートナー関係のために<No.4 全ての不満の正体は “ずれ” >

【精神科医が解説】より良い夫婦・パートナー関係のために<No.5 ”関係改善” という目的を忘れない>
【精神科医が解説】より良い夫婦・パートナー関係のために<No.6 パートナーの家族との関係性>
【精神科医が解説】より良い夫婦・パートナー関係のために<No.7 >夫婦・パートナー関係が子どもに与える影響

 

※パートナーや結婚相手を探してマッチングアプリの沼にハマっている方は、ぜひ私のこちらのコラムもご一読ください。

※過去のコラムはこちら↓からご覧いただけます。

【メンタルヘルス】精神科医T.Sコラム
Writing by T.S


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