こんにちは!所属精神科医のT.Sです。
このコラムでは、
私が精神科医として患者さんと接する中で手に入れ、磨き上げてきた様々な武器
つまりは「幸せになるコツ」
を紹介しています。
コラム執筆のスケジュールの関係で、前回の記事ではお伝えできておりませんでしたが…
実は先々月の7月、第一子の女の子を授かることができました!!
プロフィールにも書いてあるのですが、私は20歳の時に父親を自死で亡くしています。
それにより思い悩むことも本当にたくさんありましたが、一方で学んだことも同じくらいたくさんありました。
この経験をきっかけに、私の中で「命を繋いでいく」ことの重要性が増し、自身もそうしたいという気持ちが強まったのです。
その後、幸せな家庭を築き我が子を授かることを、自分の中で一つの大切なターニングポイントとして捉えてきました。
そしてついにこの度、私の願いが叶いました…!本当に嬉しいです!
もちろん、赤ちゃんのお世話は本当に大変です…笑
ですが、日中私が仕事の間はもちろんのこと、私の仕事のことを考えて、深夜帯の世話も主に妻がしてくれており、そのお陰で本当に助かっています。
さらに職場環境にも恵まれ、十分なサポート体制の中、育休を二か月も取得することができました。
(本当は好きなだけ取っていいですよと言われたのですが、生活のことも考え2か月にしました…)
よってこの記事が公開される頃には、育休初月に突入しているはずです。
妻が毎日実感しているであろう、朝から晩まで我が子と過ごす幸せ、そして同時に存在する苦労。
可能な限りにはなりますが、その両方を思う存分体感するつもりです。
このあたりも、またコラムに書いてみようかと思っておりますので、楽しみにしていてくださいね!
前回までのおさらい
さて、現在『より良い夫婦・パートナー関係のために』という連載を掲載しております。
『対人関係療法で改善する 夫婦・パートナー関係 水島広子 著』という名著を参考にしながら、対人関係療法を駆使して夫婦・パートナー関係の問題に切り込んでいきます!
ここで一度、対人関係療法について簡単にまとめつつ、前回までのコラムで紹介した内容を振り返ってみます。
対人関係療法とは…
夫婦・パートナーなどの『重要な他者』との関係を最重要課題として取り組む、心理療法のひとつ。
夫婦・パートナー関係は、近しい存在がゆえに「自分とは違う一人の人間」として相手を尊重できなくなったり、男女の性差に伴う違いも相まって、実は揉め事に発展しやすい性質がある。
人は「攻撃された」と感じると、防衛反応として自分を正当化したり、逆に反撃してしまうもの。
しかし対人関係療法では、対人ストレスを「自分もしくは相手の落ち度、人格の問題」ではなく「役割期待のずれ」として見ていく。
それがたとえモラルの問題であったとしても、つまりは「どの程度まで求めるか」という個人差であり、感覚の違い、「ずれ」であると認識する。
生じている問題を、相手への不満ではなく「お互いの間のずれ」として捉えることで、「お互いが参加して作り上げるもの」という感覚が強まり、目指すべき一つの人間関係の輪郭が見えやすくなってくる。
そして、良好な夫婦・パートナー関係を築くにあたって、この「ずれ」にいかに取り組めるかが最重要ポイントになる。
そしてそのためにも、「あくまで目的は、夫婦・パートナー関係を改善することなのだ」ということを常に頭の片隅に置きつつ、話し合いの習慣を作っておくのが良い。
また、夫婦・パートナー関係を考えるにあたって、お互いの家族とどう関わるかも重要だが、「それぞれが自分の家族に責任を持つ」こと、そして場合によっては、自分の対人関係の中で、パートナーの家族を「重要な他者」ではなく、「友人・親戚」あるいは「職業上の役割における人間関係」くらいにまで距離を離して捉えなおすのも有効である。
前回は、パートナーだけではなくその家族にまでスポットを当ててお話ししました。
そして今回がこの連載の最終章になりますが、そのテーマはズバリ「夫婦・パートナー関係が子どもに与える影響」です。
…はい、もちろん自分の子どもが生まれるであろうタイミングを狙って連載して参りました笑
自分自身、このタイミングで学び、深く落とし込むことが必要になるだろうと確信していましたからね!
そんなわけで、今日も私とメンタルトレーニングに励んでいきましょう!
子どもにとっての家庭の重要性
私が働いている病院には児童精神の専門家がおり、私自身も日々児童の診療に携わっています。
不登校、非行、家庭内での暴言暴力、学習障害や発達障害、リストカットや過量服薬、ゲームやスマホ依存…などなど。
患児やご家族のお悩みは挙げれば枚挙にいとまがありませんが、どのケースにも共通して言えることがあります。
それは、子どもにとって家庭環境は非常に重要な意味を持つ、ということです。
これは流石に、断言せざるを得ません。
仮に子どもが生来の知的な遅れ、発達の遅れなどが伴っていたとしても、そのご家族が子どもの特性を肯定的に受容し、適切なサポートを与えることで、社会適応が良くなったり、暴言暴力などの問題行為が軽減することは、事実としてあります。
もちろん、そこには程度や環境の差がありますので、家族対応で全ての問題が解決するとは言えません。
現に私も、ご家族や医療者の限界を感じ、施設入所して家族と別々に過ごすしかないだろうと判断することもあります。
とはいえ、だからと言って子どもとの関わりをおざなりにしてもいいのかというと、それは違います。
この地球に生まれた多くの子どもが最初に触れる「世界」が、「家庭」なのです。
子どもたちはこの家庭において、歩いたり喋ったりといった身体的機能だけでなく、困ったときの頼り方、幸せだったり「大切にされている」という感覚、何かや誰かを大切だと思うことなど、今後の長い人生で必要不可欠な「武器」を獲得していくのです。
これらの武器を与えられることなく過酷な世界に放り出された子どもたちは、非常に無防備な状態で生きていかなければならず、結果としてうつ病などの精神疾患にかかりやすかったり、自分の意思を表現する手段として暴力を用いるようになる場合があります。
子どもが生まれることによる役割変化
『対人関係療法で改善する 夫婦・パートナー関係 水島広子 著』にも書かれており、今回自分に子どもが生まれて実感したことがあります。
それは、私と妻、つまり父親と母親の間では、子どもが生まれたという「変化」の受け止め方にも違いがあるということです。
子どもが生まれるまでの私は、
「例え給料が減ったとしても、生活はなんとかできる。それなら、子どもと過ごす時間を目いっぱい長く取るために、育休は取れるだけ長く取ってしまおう」
と考えていました。
しかし、いざ自分に子どもが生まれてみると、「妻と子どもを養うためにも、しっかりと稼がないといけない」という思い、責任感が強くなってきたのです。
そのため、最長で取得しても良いと職場に言われたにもかかわらず、自主的に2か月に短縮したというわけです。
一方の妻はというと、妊娠中以上に「自分がこの子を守り育てていくんだ」という思い、覚悟が強くなったようです。
それゆえ、例えばこれまで以上に食事や衛生面で気を遣うようになったり、これまではつけていなかった日記をつけるようになったりという変化が見られました。
ちなみにこれは妻ではなく知り合いの看護師さんの体験談ですが、「子どもが生まれてから夫のことを ”不潔” だと感じるようになった」という人もいるようです…悲しい…笑
しかしこれも、「子どもを汚いものから守らないといけない」という思いの強さの表れと言えますよね。
このように、同じ「子どもが生まれた」という経験であっても、それぞれの「役割変化」には大きな違いが生じうるのです。
この違いは考えてみれば当然のことで、一見簡単に受け入れられるもののように見えます。
しかし、初めての子育てに翻弄され、自分は親として正しいことをしているのか、という不安を抱えながら毎日を送る新米パパ、ママという当事者の視点に立つと、この変化を冷静に受け止めることが難しい局面があります。
その結果、妻は夫に対して「仕事にばかり没頭して家庭を顧みてくれない」、一方の夫は妻に対して「子どものために頑張っている自分を評価せず、自分を家庭から疎外している」というように、それぞれがネガティブな印象を持ってしまうことに繋がりがちです。
出産というのは、非常に分かりやすく「役割変化」が訪れる一大イベント。
夫婦・パートナーが、これまで通りの関係をそのまま継続する方が、むしろ無理があります。
また、いかなる場面においても「役割変化」の時には、大きな不安が付き物です。
相手の変化や態度に目くじらを立てるのではなく、それぞれが「役割変化」を今まさに経験しているのだということを念頭に置いたうえで、お互いの違いを受け入れながら助け合っていくことが重要になります。
夫婦・パートナー関係が子どもに与える影響
生まれたばかりの子どもにとって、家庭、ひいては両親は「世界」そのものです。
よって多くの場合、感情を表現する術、人との付き合い方、価値観などをまず受け取るのは、両親からになります。
「子どもがすぐに感情を爆発させて騒ぐので困っている」という両親が、診察室でその子どもを大声で怒鳴りつける場面を、私は診察で少なからず見てきました。
両親から突き放し脅すような言葉ばかりを投げかけられた結果、「自分は愛されているのか」という不安を常に感じるようになり、相手を試すような行動がやめられず友人関係を上手く築けなくなったり、問題行動を繰り返すようになってしまった子どももたくさんいます。
「子は親を映す鏡」という言葉がありますが、ただの鏡ならまだしも、子どもは親から受け継いだネガティブな考え方や価値観を、生涯にわたって引き継いでしまう可能性もあるのです。
親が子どもにそのように接してしまう背景には、多くの場合親の「余裕のなさ」があります。
金銭的に困窮していたり、家族と疎遠で育児のサポートを受けられなかったり、場合によっては親自身が病気を抱えていることもあるでしょう。
ここでお伝えしたいのは、「余裕が無かったからしょうがないよね」ということでも、「なんとか上手くやらなかった親が悪い」ということでもありません。
重要なのは、「親自身の問題を子どものせいにしない」ということです。
お金が無かった、家族からサポートを受けられなかった、自分が病気で子どもの世話ができなかった、というのは、言ってしまえばあくまで親自身の問題です。
ここに子どもを持ち出して、
「あなたの教育のためにお金がかかった」
「あなたを一人で育てなきゃいけないから大変だわ」
「自分の体調のことでさえ大変なのに、お前の面倒まで見ないといけないから辛いよ」
などと伝えてしまうと、子どもは強い罪悪感を植え付けられたり、親に迷惑をかけないようにしなければいけない、という強迫観念を抱えることにも繋がってしまいます。
ですので、親の問題を子どもが「自分のせいだ」と感じてしまうような言い回しや態度は、極力避けましょう。
ちなみに、親自身が苦労しているところを絶対に見せてはいけない、というわけではありません。
むしろその逆で、親があーでもないこーでもないと苦労しながら日々何かに取り組んだり、夫婦・パートナー関係の改善に努める姿勢を見せることで、「人間はみんな完璧ではないけど、努力して頑張っているんだ」ということを子どもに伝えることができます。
するとそれが将来、子どもが他人や自分自身に対して、完璧を求めずに寛容になることに繋がっていくものです。
子どももまた、自分とは違う一人の人間である
最後に、対人関係療法の基本としてこれまでにも説明してきましたが、近しい存在がゆえに「自分とは違う一人の人間」として相手を尊重できなくなるという問題は、子どもに対しても生じやすいということを注意喚起しておきましょう。
特に、「自分たちのもとに生まれた子ども」は、ともすれば「自分たちの物である」という考え方に陥りやすい構造を抱えています。
「何も分からない我が子を、正しい方向に導かなければいけない」という考えが不適切に発展し、気づけば子どもの考えを尊重できなくなってしまうのです。
子どもを別人格として見ず、自分の管理下の物であるという認識に陥ってしまうと、自分の期待通りに動かない子どもを理解できなかったり、受け入れられずにイラついてしまいます。
子ども自身にも当然人格というものがあり、いくら親の影響を強く受けるとはいえ、100%親のコピーになるわけではないことを、改めてしっかり認識しておきましょう。
大人が子どもに影響を与えるのはもちろんのこと、その逆、つまり子どもが大人に与える影響も少なからずあるものです。
子どもに対して適切に愛を持って関わることが、結果として大人のメンタルヘルスを維持することにも繋がるのです。
これまでの連載を通じて学んできた夫婦・パートナー関係における対人関係療法の手法は、子どもに対しても生かせることがたくさんあるはず。
是非繰り返し読み返していただき、夫婦・パートナー関係、子どもとの関係を考える参考にしてみてくださいね!
これまで計7回にわたり、対人関係療法を用いた夫婦・パートナー関係について連載してきましたが、いかがだったでしょうか?
私自身、妻の妊娠が発覚した昨年末から、子どもが生まれることで今後の夫婦関係も少しずつ変わっていくのだろうという予感がしていました。
そんな中、以前に読了していた『対人関係療法で改善する 夫婦・パートナー関係 水島広子 著』の存在を思い出し、今こそ学び直して実践するときだ、と思い立ったのです。
そして今回コラムで連載させていただいた結果、一度目に読み終えた時よりも遥かに深く、内容を自分のモノにすることが出来ました。
読んでいただいた皆様より、私の方が何倍もメリットを享受してしまったかもしれません…笑
とはいえ、私自身の経験や思ったことも交えながら、必要十分な内容はお伝え出来たかなと思っています。
時間があるときにでも、これまでの連載記事も適宜見返してみてくださいね!
皆様の人生に少しでもお役立ていただけたら幸いです。
それでは次回のコラムも、ぜひ楽しみにしていてくださいね!
(『精神科医が挫折!育児はつらいよ』シリーズに突入しているかもしれませんが…!)
…そして、最後に。
「素敵な家庭を築いて子どもも欲しいけど、相手がいないのでもはや無性生殖できる方法を考えています」というほどお困りの方には、過去に私が掲載したマッチングアプリに関するコラムが参考になるかもしれません!
私はマッチングアプリの回し者でもなんでもないのですが、現代の出会いの手段として、使い方を間違えなければ有用なものだと考えています。
その使い方について、気をつけなければいけない点などを詳しく解説しておりますので、ぜひご一読いただけると幸いです。
それでは、本日はこのあたりで。
また次回のコラムでお会いしましょう!
今回の連載シリーズはこちら↓
【精神科医が解説】より良い夫婦・パートナー関係のために<No.1 導入編>
【精神科医が解説】より良い夫婦・パートナー関係のために<No.2 まず二人の関係性を知る>
【精神科医が解説】より良い夫婦・パートナー関係のために<No.3 男女における『気遣い』の違い>
【精神科医が解説】より良い夫婦・パートナー関係のために<No.4 全ての不満の正体は “ずれ” >
【精神科医が解説】より良い夫婦・パートナー関係のために<No.5 ”関係改善” という目的を忘れない>
【精神科医が解説】より良い夫婦・パートナー関係のために<No.6 パートナーの家族との関係性>
【精神科医が解説】より良い夫婦・パートナー関係のために<No.7 >夫婦・パートナー関係が子どもに与える影響 ←今回の記事
※パートナーや結婚相手を探してマッチングアプリの沼にハマっている方は、ぜひ私のこちらのコラムもご一読ください。
※過去のコラムはこちら↓からご覧いただけます。
【メンタルヘルス】精神科医T.Sコラム
Writing by T.S
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