COLUMNコラム

【トラウマインフォームドケアという関わり】⑦実践するための4つのR(前編)

こんにちは、所属カウンセラーの古宇田です。

「生きづらさ」という言葉を耳にすることがあります。この言葉の背景にはその時代におけるさまざまな要因によるものが「生きづらさ」の原因になっていると考えることができます。ただし、根本にあるものとして幼少期の逆境体験、いわゆるトラウマがその大きな要因になっているのではないかと、さまざまなトラウマに関する研究で明らかにされつつあります。トラウマに関してかなりのことが分かってきており、その影響の大きさを知ること、そしてトラウマからの回復は現代社会における大きな課題の一つなのではないでしょうか。

これまでの連載で「トラウマインフォームドケア(TIC)」について、様々な視点からお伝えしてきました。前編・後編でお伝えする今回のコラムもシリーズの最終回となります。TICを実践するための「4つのR」について詳しく解説いたします。TICは単なる理論ではなく、日々のケアやサポートに具体的に活かすことができるものです。この4つのRを理解し、実践することで、トラウマを抱える人への支援がより効果的になることを目指します。これまでのシリーズで学んだ知識を総括し、実際に役立つ方法を一緒に学んでいきましょう。それでは、最後までお付き合いいただければ幸いです。

さて前回のコラムでは、日本でも広がりつつあるトラウマインフォームドケアの原則についてお伝えしました。精神医療や福祉の分野で導入が進んでいますが、欧米諸国に比べて普及が遅れている現状の中、日本とアメリカのトラウマインフォームドケアの原則の共通点と相違点を考えることで、トラウマインフォームドケアについての理解を深めました。詳しくは前回のコラムをご参考ください。
【トラウマインフォームドケアという関わり】⑥トラウマインフォームドケアの原則

今回は【トラウマインフォームドケアという関わり】⑦実践するための4つのR(前編)についてお伝えしたいと思います。

【TICを実践するにあたっての4つの前提条件】

トラウマインフォームドケア(TIC)を実践するための「4つのR」とは、なんらかのトラウマ体験を持つ人に対して配慮を持ったケアを提供するための基本的な枠組みです。この4つのRは【理解する(Realize)】【認識する(Recognize)】【対応する(Respond)】【再トラウマ体験を防ぐ(Resist re-traumatization)】となっています。詳しくそれぞれの内容を見ていきましょう。

1:理解する(Realize):「トラウマの広範な影響とその回復過程を理解していること」

トラウマがどのように人々の生活に影響を与えるかを理解することです。トラウマは身体的、心理的、感情的、行動的に広範な影響を与える可能性があります。トラウマの影響について広範な知識を持ち、その結果として生じる反応を理解することが重要です。
次のような視点がトラウマを理解する際の参考になります。

・トラウマの種類: 身体的虐待、心理的虐待、性的虐待、災害、事故、戦争など、さまざまなトラウマが存在する。
・トラウマの影響: トラウマが人々の行動、感情、身体反応に及ぼす影響を知る。例えば、過敏性、フラッシュバック、回避行動、感情の麻痺など。
・脳と身体の関係: トラウマが脳の発達や神経系に与える影響を理解する。特に、ストレス反応システムやホルモンバランスへの影響。

トラウマの影響は多岐にわたります。トラウマを経験した人は、さまざまな環境でさまざまなトリガーに反応する可能性があり、その影響は日常生活の中で予期せぬ場面で表れることがあります。トラウマの影響は次のような形で現れることがあります。

・心理的影響: 不安、抑うつ、PTSD(心的外傷後ストレス障害)など。
・行動的影響: 避ける行動、過敏な反応、攻撃的な行動など。
・身体的影響: 不眠、食欲不振、慢性的な痛みなど。

2:認識する(Recognize):「トラウマを抱える本人・家族・支援者のトラウマサインや症状に気付くこと」

トラウマの兆候や症状を見極めることです。人がトラウマを経験しているかもしれないという前提で、彼らの行動や感情、反応に注意を払い、トラウマの影響を示す兆候を見逃さないようにします。
次の視点を考えることが大切です。

・行動の観察: 突然の怒り、不安、集中力の欠如、過敏反応など、トラウマの影響を示す行動を見逃さない。
・言語と非言語的な手がかり: 言葉遣いやボディランゲージからトラウマの影響を読み取る。
・過去の経験の聞き取り: 過去にトラウマ的な出来事を経験したことがあるかどうかを確認するための適切な質問を行う。

3:対応する(Respond):「トラウマについての十分な知識に基づいて対応し適切な方針や手段を実践すること」

トラウマインフォームドケアの原則に基づいて適切に対応することです。これには、安全性、信頼性、選択の自由、協力関係、力の均衡を重視したアプローチを採用することが含まれます。対応する際には、個々のニーズに合わせたサポートを提供し、トラウマの再発を防ぐよう努めます。
対応する際に大切とされるポイントを以下に挙げています。

・安全性: 身体的および心理的な安全を確保する。
・信頼: 信頼関係を築くために透明性のあるコミュニケーションを行う。
・選択の自由: 利用者に選択肢を提供し、意思決定に参加させる。
・協力: 利用者と協力し、パートナーシップを形成する。
・力の均衡: 権力の不均衡を避け、対等な関係を築く。

4:再トラウマ体験を防ぐ(Resist re-traumatization):「トラウマの再被害を予防すること」

提供されるケアやサービスが、無意識のうちにトラウマを再燃させないようにすることです。これは、トラウマを持つ人が再び苦痛を経験することを避けるために、ケアやサービスの提供方法を慎重に計画・実施することを意味します。
再トラウマ化を防ぐための取り組みとして、次のようなものがあります。

・トリガーの認識と管理: トラウマを思い出させる可能性のあるトリガーを特定し、避ける。
・尊重と共感: 利用者の感情や経験を尊重し、共感的に対応する。
・適切な境界設定: 利用者との関係において適切な境界を維持し、信頼を損なわないようにする。
・スタッフのトレーニング: スタッフ全員がトラウマインフォームドケアの原則を理解し、実践できるように継続的なトレーニングを受ける。

実践する際のポイントをまとめますと、安全で安心できる環境を提供し、トラウマを思い出させる可能性のある刺激を最小限に抑えること。開かれた、非対立的なコミュニケーションを心がけ、個人のペースに合わせて話すこと。スタッフや関係者がトラウマに対する理解を深めるための継続的な教育とトレーニングをすること。利用者と協力的な関係を築き、彼らの意見や選択を尊重することなどです。

【TICを実践する際に大切とされていること】


4つのRをもとに実践する際に大切とされていることの一つに、トラウマを抱える人と関わるまたは支援する組織の全ての職員がトラウマインフォームドケアの原則を理解し、実践することが推奨されています。理由は以下の通りです。

①一貫した対応:
トラウマを持つ人が組織内でどこにいても、一貫した支援と理解を得ることができるようにするためです。専門職だけでなく、受付や警備、清掃など、すべてのスタッフがトラウマに対する適切な対応を理解していることで、利用者は組織全体に対する安心感を持つことができます。

②トリガーの回避:
トラウマを持つ人にとって、どんな小さな出来事でもトリガーになり得ます。例えば、受付での冷たい対応や警備員の威圧的な態度が、利用者のトラウマを再び刺激する可能性があります。すべての職員がトラウマの影響を理解し、慎重に対応することで、再トラウマ化のリスクを減少させることができます。

③安全な環境の提供:
物理的および心理的に安全な環境を提供するためには、組織全体の協力が不可欠です。清掃スタッフが安心できる清潔な環境を提供し、受付スタッフが親切な対応をすることで、利用者は安心してサービスを利用することができます。

④包括的な支援:
トラウマインフォームドケアは単なる医療やカウンセリングの枠を超え、日常的な接触やサービス提供にまで広がります。受付スタッフの親切な対応や、清掃スタッフの笑顔といった小さな行動が、利用者の回復に大きな影響を与えることがあります。

⑤組織文化の構築:
トラウマインフォームドケアを組織全体で実践することで、組織全体の文化として「ケアと配慮」が根付くことになります。この文化が確立されることで、全ての職員が自然にトラウマに対する配慮を持ち、利用者に対して一貫した支援を提供することができます。

今回はここまでとさせていただきます。
次回の後編にて、トラウマのサインや症状に気付くために必要なこと、トラウマを抱える人への配慮、トラウマの三角形モデル、TIC実践の際の障壁などについてお伝えしたいと思います。

【参考資料:『トラウマインフォームドケア“問題行動”を捉えなおす援助の視点』著:野坂祐子・2019、『実践トラウマインフォームドケア』著:亀岡智美・2022】

【トラウマインフォームドケアという関わり】シリーズはこちらからご覧になれます。
【トラウマインフォームドケアという関わり】①環境要因によって形づくられる子どもの発達の質とは・・・
【トラウマインフォームドケアという関わり】②なぜ今の時代に必要とされているアプローチなのか
【トラウマインフォームドケアという関わり】③子どもの気になる行動の背景を理解するためのヒント
【トラウマインフォームドケアという関わり】④こころのケガになりうる出来事
【トラウマインフォームドケアという関わり】⑤子どものトラウマ反応について
【トラウマインフォームドケアという関わり】⑥トラウマインフォームドケアの原則

社会生活の変革という過渡期での不安やストレスは、さまざまな形で表出されることがあります。また、被災地の皆さまにとっては日々変化を遂げる環境の中で、ご心配を抱えた状況の方がいらっしゃることと思います。心身の安全最優先でお過ごしいただければと願います。ポジティブな考えを持つきっかけとして、そして安心・安全な人との関わりを通して生きる力を養うサポートもカウンセリングの一側面とも考えています。子育てや子どもの抱える不安やストレスに関してのご相談もお受けしております。

Writing by古宇田エステバン英記


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