COLUMNコラム

【小児期の逆境体験(ACEs)とは・・・】将来の健康のために幼少期のトラウマを防ぐ支援

こんにちは、所属カウンセラーの古宇田です。

春めいてきた今日この頃、4月に向けての別れと出会いの季節でもありますね。良き別れや新たな出会いをみなさまがこころ穏やかに迎えられますように。

世界では今現在とてつもない危機が起きていて、大勢の人が苦しんでいます。感染症の世界的な流行もそうですし、戦争、極度の貧困、地球温暖化も地球に住む1人1人がどうしていくことが良いのかを考え、そして取り組むべき課題ではないでしょうか。子どもがこうした危機を経験することは、とてつもない衝撃として体験され、果たして健全な成長を期待できるものなのか大変心配に思っています。世界が平和であることは子どもが成長していくための大前提だと改めて考えさせられています。

今回のコラムのテーマである小児期に発生する逆境体験は、後年の心理的、社会的、身体的な結果に悪影響を与える可能性があり、将来の世代にも影響を与える可能性があります。将来の健康のために小児期のトラウマを防いでいく支援は今後大切なトピックになってくると考えています。

さて前回のコラムでは、子どもの「遊び」の現状やその体験についてご紹介しました。健康的な「遊び」は将来にわたる健康のバロメーターと関係があるのではないかと考えています。そして「遊び」の真逆に位置する「小児期の逆境体験(ACEs:Adverse Childhood Experiences)」を今回紐解いていくことで見えてくる家族や子どもへの支援について考えていきたいと思います。

前回のコラムはこちらからご覧になれます。
【子どもの遊びがもつ意味とは・・・】現代の子どもの遊びと子ども時代の体験

【アメリカで始まったACEs研究と近年の調査】

ACEsとはAdverse Childhood Experiencesの略で、日本語では言い回しが微妙に違うものもいくつか見られますが、ここでは小児期の逆境体験とします。これは子どもが18歳までに体験する不幸な体験を意味しています。不幸な体験、つまり子どもにとってのトラウマ的な出来事のことです。ACEsにはネグレクト、暴力の経験または目撃、家族のうつ病やその他の精神的な疾患、親のアルコール等の依存症、投獄や離婚その他の理由による親の喪失などが挙げられています。

これら以外でも健康と幸福に影響を与える可能性のある他の多くのトラウマ体験もありますが、こうしたネガティブな経験が有毒なストレスとなり、子どもの脳の発達を阻害させることで、免疫システムを損なわせ、学習、行動、健康に大きな影響を与えうるというのです。将来にわたり慢性的な健康問題、精神疾患を患う可能性、成人での物質乱用のリスクにさらされてしまい、人生のあらゆる機会における悪影響を与えることが懸念されています。

このACEsは、1998年のアメリカの疾病予防管理センター(Centers for Disease Control:CDC)のロバート・アンダ医師とアメリカの総合保険医療施設のビンセント・フェリッティ医師によるACEs研究によって世に知られることになります。

初めてのACEs研究は、上記に挙げた不幸な体験の有無を問う項目10問を大人に対してすることで、子ども時代に体験したACEsの数と健康状況の関係を調査したものです。調査の結果からは、ACEsスコアの数が多いほど、特に4つ以上持つ人と体験がゼロの人とを比べた結果、喫煙や虚血性心臓病、慢性気管支炎、アルコール依存症、薬物依存、自殺を試みた割合が数倍高くなっており、平均寿命も20年近く短いことが報告がされています。健康面だけでなく、社会生活面においてもACEsスコアが高い程に、社会生活での不適応をきたしてしまう可能性を高めるリスクがある結果となりました。このような衝撃的な報告は、ACEsが生涯にわたり健康とさまざまな機会への影響を及ぼすということで注目されることになったのです。

そして近年のアメリカのCDCの調査では、

・アメリカの25の州で調査された成人の約61%が、少なくとも1つのACEsを経験し、6人に1人が4つ以上のACEsを経験したこと。

・少なくとも死因のトップ10のうちの5つがACEsと関連していること。

・ACEsを予防することで、うつ病を44%も減らすことが出来るであろうことが報告されています。

長年の調査研究の結果からACEsの予防に取り組むことで、多くの健康状態の改善や人生の傷を癒す方法を特定し、リスク行動や社会経済的課題、主要な死因を減らすことができると推定しており、ACEsを防止できることを明らかにしています。

【アメリカにおけるACEsへの予防的対応】

ACEsの予防的な戦略としてCDCが提案している6つの項目と具体的なアプローチを見ていきたいと思います。

①家族への経済的支援を強化する。
→⑴家庭の経済的安定を強化する政策、子育てがしやすい職場環境や制度作り。

②暴力や逆境から身を守る社会規範を促進する。
→⑵啓蒙キャンペーン、体罰を減らすための法的手段、傍観者を減らすアプローチ、男性や
男子も仲間として巻き込んだ予防プログラム。

③子どもが人生の好スタートを切れるようにする。
→⑶乳幼児期の家庭訪問、質の高い保育、家族も参加する未就学児向けの放課後プログラム。

④スキルを教える。
→⑷子どもへ社会性や感情のコントロールなどについて教えるプログラム、10代の子どもへデートDVなどについて教えるプログラム、親へ子育てや家族関係について教えるプログラム。

⑤気にかけてくれる大人やそのような大人と一緒に参加する活動に若者をつなげる。
→⑸メンタリングプログラム、学習や社会スキルを教えるような放課後プログラム。

⑥短期的・長期的な悪影響を緩和するための介入を行う。
→⑹質の高いプライマリケア、ACEsの早期スクリーニング、暴力の被害者に向けたサービス、ACEsの影響を和らげるための治療と介入、将来犯罪や暴力に巻き込まれるのを防ぐための治療と介入、家族に焦点を当てた薬物依存のための治療と介入。

以上のような戦略によってアメリカの各州ではACEsを防ぐための取り組みがなされているのです。親や子どもを取り巻く環境や生活そのものへの対応を大切にしていくという信念がそこにはあり、それを実践していくことで子どもを救っていくアクションにつながっていくのだと思います。そうしたことが将来の世代を大切にしていく姿勢となり、現在の世代にも良い影響を与えていくことと考えています。

【将来の健康のために幼少期のトラウマを防ぐ日本での展望】

日本では、先進国における自殺率の高さ、児童相談所における虐待相談対応件数の増加、ヤングケアラーなどが昨今問題とされています。これら問題の背景にはACEsが関連しているとも考えられます。さまざまに対応はしているものの、まだまだ支援はたりていないと感じています。
そのような中で政府が今国会での成立をめざす児童福祉法改正案に、家庭を訪れて家事や育児を支援するサービスの新設や、学校や家庭以外の子どもの居場所づくりなどを盛り込みました。特に訪問型の支援サービスは子育て世帯の親や子ども、妊婦、そして大人の代わりに家族の世話をするヤングケアラーも含めるとしています。アメリカのCDCの対応の一つの子どもが人生の好スタートを切れるようにすることに視点が向けられ、具体的なアプローチがACEs防止の第一歩として取り組まれようとしています。

改正案は児童虐待の相談対応件数の増加など、子育てに困難を抱える世帯がこれまで以上に顕在化してきている状況等を踏まえ、子育て世帯に対する包括的な支援のための体制強化等を行うとし、2024年4月の施行を見込んでいます。こうした社会の動きが着実に子どもを守るアクションへとつながり、ACEsが少しでも減ることを願うばかりです。

【最後に】

子どもの支援に関わる仕事をしている中で、子どもだけでなく家族のアセスメントが非常に大切だということを感じることが多々あります。つまり家族がどのような生活史を辿ってきたのかということを知ることは、実は子どもを理解することにとても必要なことの一つなのです。そしてそこには家族を支えるという視点も大切なのですが、残念ながら家族を支えるサポートは今現在増えつつあるものの、十分とは言えません。今後の児童福祉法改正やこども家庭庁創設によって子どもを含めた家庭への支援が充実していくことで日本のACEsを防止していく基盤が強固になることを期待したいと思います。

【参考資料:CDC Vital Signs;Adverse Childhood Experiences(ASEs)、「逆境的小児期体験が子どものこころの健康に及ぼす影響に関する研究」著:山崎知克ら、地域保健2020.7「幼少期の逆境体験と生涯にわたる健康」著:伊角彩】

長期に渡るコロナ禍での不安やストレスは目に見えない形で出ていることがあります。ポジティブな考えを持つきっかけとして、また安心・安全な人との関わりを通して生きる力を養うサポートもカウンセリングの一側面とも考えています。子育てや子どもの抱える不安やストレスに関してのご相談もお受けしております。

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Writing by古宇田エステバン英記

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