こんにちは!所属精神科医のT.Sです。
このコラムでは、
私が精神科医として患者さんと接する中で手に入れ、磨き上げてきた様々な武器
つまりは「幸せになるコツ」
を紹介しています。
つい最近、風のたよりでこんなことを耳にしました。
2024年がもう半分終わった、と。
流石に、そんな何の根拠もないデマを信じる私ではありませんが、少し動揺してしまいましたよ。
もしも本当だとしたら…そんな恐ろしい話…あってはならない…
さて、あっという間の2024年前半でしたが、それでも誰だって、日々何かしらの悩みを抱えながら乗り越えてきたはずです。
そして、その悩みが「人間関係」だった人は少なくないでしょう。
人として生きるということは、それすなわち人間関係の中で生きていくということ。
つまり、「人間関係の難しさ」=「生きる難しさ」のようなものです。
私が治療に携わっている患者さんの中で、他者との関わりでは全く問題がない、という患者さんはほぼいません。
主訴が人間関係そのものだったり、抱えている問題の背景には人間関係が隠れていることがほとんです。
そしてこのコラムを読んでいるあなたも、人間関係の悩みが全くないとは言い切れませんよね?
同じようなことで誰かを怒らせたり、傷つけられたりしながらここまで来ましたよね?
そんなあなたに、とっても良いものをご紹介します…
対人関係療法、って言うんですけどね…
前回までのおさらい
現在『より良い夫婦・パートナー関係のために』という連載を掲載しております。
『対人関係療法で改善する 夫婦・パートナー関係 水島広子 著』という名著を参考にしながら、対人関係療法を駆使して夫婦・パートナー関係の問題に切り込んでいきます!
ここで一度、対人関係療法について簡単にまとめつつ、前回までのコラムで紹介した内容を振り返ってみます。
対人関係療法とは…
夫婦・パートナーなどの『重要な他者』との関係を最重要課題として取り組む、心理療法のひとつ。
夫婦・パートナー関係は、近しい存在がゆえに「自分とは違う一人の人間」として相手を尊重できなくなったり、男女の性差に伴う違いも相まって、実は揉め事に発展しやすい性質がある。
人は「攻撃された」と感じると、防衛反応として自分を正当化したり、逆に反撃してしまうもの。
しかし対人関係療法では、対人ストレスを「自分もしくは相手の落ち度、人格の問題」ではなく「役割期待のずれ」として見ていく。
生じている問題を、相手への不満ではなく「お互いの間のずれ」として捉えることで、「お互いが参加して作り上げるもの」という感覚が強まり、目指すべき一つの人間関係の輪郭が見えやすくなってくる。
そして、良好な夫婦・パートナー関係を築くにあたって、この「ずれ」にいかに取り組めるかが最重要ポイントになる。
このように、対人関係療法は夢のような可能性を秘めているのです!
私も日々、この武器を使いこなせるように磨き上げ、鍛錬を続けている真っ最中です。
実際に妻と話すときにも、出来る限り対人関係療法で得た学びを活かすように工夫しており、少しずつ効果をあげている実感があります。
絶対に忘れてはいけない “原点”
夫婦・パートナー関係の改善に取り組むにあたって、いついかなる時にも絶対に忘れてはいけないことがありますので、ここに特記しておきます。
「覚えておいてほしい」というレベルではなく、「魂に刻み込んでほしい」レベルだと思ってください。
極論してしまうと、これだけ覚えておいていつでも立ち帰れるようにしておけば、今後どのような危機を迎えてもきっと乗り越えられます。
それは何かというと…
あくまで目的は、夫婦・パートナー関係を改善することである、ということです。
そして、それを互いの共通認識としておくことです。
そんなの分かってるわ!と呆れてしまったかもしれません。
しかし、いついかなる状況においても、この最終的なゴールを視界に捉えていなければなりません。
何故なら、今後あなたが夫婦・パートナー関係に取り組む中で、ほぼ確実にパートナーと喧嘩になるときが来ます。
そしてそのような喧嘩の場面において、「関係改善」という目的意識は、頭から綺麗さっぱり抜け落ちてしまいがちなのです。
喧嘩中こそ、「この会話の目的は何だったっけ?」
このコラムを読んでくださっている方々は、人間関係で行き詰まり、それでもなんとか改善したくて悩んでいるはずです。毎日喧嘩したくて喧嘩している人など、ほとんどいないはずです。
でも、気づけば喧嘩しちゃってますよね。
元々はお互いが仲良くやっていくために言い出したことだったのに、相手の返事や態度が気に入らなかったりして、あるいは自分の気持ちに余裕がなかったりして、気づけば相手を攻撃するための喧嘩になっていたりしませんか?
一旦喧嘩になると、人の頭は怒りを中心としたネガティブな感情に支配され、視野は狭まり、冷静に思考を進めることができなくなります。
そして、「いかに相手をやっつけるか」という戦闘モードに入ってしまうのです。
相手を攻撃することが目的なら、それでもいいかもしれません。
しかし私達がすべきは、喧嘩ではなく「関係改善のための話し合い」だったはずです。
怒りに支配された状態では、その目的を見失いがち。
「関係改善のための話し合い」など夢のまた夢になってしまいます。
ですので常日頃から、そして喧嘩になりそう、もしくは喧嘩の真っ最中にこそ、「この会話の目的は何だったっけ?」と、自分自身に疑問を投げかけるのです。
そして、「目的は夫婦・パートナー関係を改善することなんだ!」と、繰り返し自分に言い聞かせましょう。
それを事前に2人の間で約束しておき、お互いが実行するのです。
怒りに支配されそうになったら、必ずこの原点に帰ってきてください。
そうすれば、相手を傷つける言い方や態度は、自然と取らなくなるはずです。
とてもシンプルですが、非常に効果のある呪文ですので、念仏のように唱えて自分に擦り込んでおきましょう。
話し合いの習慣を作ろう
さて、関係改善を目的としているんだということを強く再認識できたら、実際に問題解決に取り組んでいきましょう。
まず何より大切なのは、「話し合いの習慣を作る」ということです。
もちろん喧嘩などが実際に起きてしまった後、その時に交わされたコミュニケーションを後で一緒に振り返ってみることも、非常に効果があります。
しかし、ただ1回の話し合いだけでは不十分な場合が多いものです。
「普段溜め込んでいたものが、とあるきっかけで爆発する」ことがよくあるように、小さなズレ自体は常日頃から生じています。
そこから目を逸らし続けてしまうと、ずれは次第に大きくなってしまい、絶望的な崩壊に至る可能性もあります。
対人関係の問題の多くは、「コミュニケーションの方法が間違っている」か、「そもそもコミュニケーションが足りないか」のどちらかで説明がつきます。
そのため、関係改善や良好な関係維持のためにも、話し合いの習慣を作ることは非常に重要なのです。
ただし、「話し合いって言われても…どうすればいいの?」と困ってしまう人の方が多数派でしょう。それに、もしやってみたとしても、なんだか照れ臭かったり気まずかったりで、最初のうちはうまく話せないケースが多いかと思います。
そこで、話し合いを進めるにあたってのガイドラインのようなものを紹介しておきます。
<話し合いのガイドライン>
◯関係改善のために、お互いの「ずれの是正」に取り組むのだという姿勢をもつ。
◯二人にとって現実的な時間を選んで予定を決めておき、その時間内はお互いが話し合いに集中する。
◯どうしても用事などで話せなくなった場合は、「キャンセル」ではなく「変更」する。代わりの時間が取れない場合は、メールや手紙など、十分に代わりとなる手段を(あくまで臨時で)活用する。
◯話し合いが上手くいかない場合、その理由を一緒に考え、適宜ルールを作っていく。
(例;イライラしやすいから話し合い中は飲酒禁止、話し合いの時は外食にするなど)
◯本当に対面のコミュニケーションが苦手で難しい場合、手紙やメールなどの手段も検討する。いずれの手段を使うにしても、このガイドラインに準じて行うのが良い。
重要なのは、お互いが「自分と真剣に向き合ってくれている」と感じられることです。
せっかく話そうと思っていたのに「今日は疲れたからまた今度ね」と言われたり、話し合い中にスマホやゲームをされてしまうと、当然相手からは真剣さを感じられず、「大切にされていない」と思ってしまうのも当然です。
かと言って、毎回の話し合いを深夜に設定してしまうと、それは断られるのも無理はなく、そのたびに無駄に傷つくことになります。
なので、お互いにとって現実的な時間帯に設定しつつ、どうしても難しくなった時には「また今度」ではなく、具体的な日程を提示してあげてください。
日程の目処が立たないようであれば、手紙やメールなど、別の手段でのコミュニケーションを忘れずに。どのような手段が良いかは、お互いに相談して決めましょう。
そして、一度うまくいかなくても、一緒に工夫をしながら「話し合いを重ねて習慣にする」ことが重要です。
大丈夫。最初はうまくいかなくても、初心を忘れなければ次第に話し合いの質は上がっていきますからね!
「モラル」には要注意
次に、話し合いの場のみならず普段から気をつけるべきことについてもお話しておきます。
前回のコラムでは、「自分こそ正しい」という考えを手放すこと、そして相手が「攻撃的」だと感じる要素を極力排除することの大切さに触れました。これについて少し補足しておきます。
まず、お互いの不満を語る中で、節約・清潔・節電・整頓など、「絶対的に正しいと思われるモラル」が持ち出される場合、注意が必要です。
このように、多くの人が「したほうがいいに決まってるじゃん!」と感じる事柄が争点となる時には、「価値観の違い」として取り組むというより、「正しい側が間違っている側を責める」という構図になりがちだからです。
モラルを盾にすると、「正しい」側の人は普段よりも気が大きくなって相手を責め立てやすくなりがちですし、「間違っている」側も反論しにくく、本音での話し合いが難しくなってしまいます。
しかし大前提として、たとえモラルの問題であっても、片方が100%正しいことなど絶対にあり得ないのです。
たとえば「節約しろ」と責める側の人も、完璧なわけではありません。
「自分よりさらに節約している誰か」は世界に必ずいるわけで、その人から見れば少なからず「浪費している」と思われるわけですし、「間違っていて責められる側」になってしまうわけです。
そう考えてみると、「節約しろ」と責める側の人が、必ずしも100%正しいわけではないと分かりますね。
たとえモラルの問題であったとしても、つまりは「どの程度まで求めるか」という個人差、感覚の違いなのです。
これは非常に重要なポイントですので、覚えておいてください。
この見方ができれば、「正しい側が間違っている側を修正する」のではなく、「感じ方の違う二人が、共存の仕方を工夫していく」という方向で話し合うことができるはずです。
たとえば、「綺麗好きの妻に合わせて、夫はリビングなどの共有スペースは整頓する。逆に妻は、夫の自室には干渉しない」という着地点もありだと思います。
この場合、妻は夫に「面倒だろうけど、共有スペースを整頓してくれてありがとう」、夫は妻に「綺麗好きなのに、僕の部屋はそのままにしてくれてありがとう」と、互いに感謝を示せるとベストです。
喧嘩するほど仲が…?
相手が「攻撃的」だと感じる要素を極力排除する、についても補足しておきます。
「喧嘩するほど仲が良い、って言葉があるくらいなんだから、意見が違うときには喧嘩してでもぶつかったほうがいいんだ!」
という持論を展開する人もたまに見かけますが、よーく見てください。
「喧嘩するほど仲が良い」という文中のどこにも、「喧嘩したほうが良い」なんて書いてません!!
そもそもこの言葉は、「お互い言いたいことを言い合える関係性である」ということを表しています。
本質は「良い関係性」であり、喧嘩そのものではありません。
繰り返しになりますが、怒りは人を狂わせ、思考力を低下させます。
分かりやすく言うと、人は怒っているときには理性が働かず、普段よりかなり “馬鹿” になっています。
喧嘩中に頭に血が登ってしまい、「言ってはいけない一言」で相手を斬りつけてしまった経験、皆さんにもあるのではないでしょうか。
そして、その人の中では「ついカッとなっただけで本心じゃないよ、ごめんね」で済む話かもしれませんが、相手にとってはそう簡単に水に流せることではない場合もあります。それがそのまま離別につながる、という可能性もあるのです。
こちらも繰り返しになりますが、あくまで私達の目的は、夫婦・パートナー関係を改善することです。
そのために必要なのは、喧嘩のような「攻撃のし合い」ではなく、「本音の話し合い」です。
そして本音の話し合いに、怒りは必要ありません。
「超えてはいけない一線」を超えないよう、十分に気をつけましょうね…!
「サプライズで花をプレゼントしよう」
「マッサージをしてあげよう」
夫婦・パートナー関係を改善するための小手先のテクニックは、巷に数多く存在します。
もちろん、意味がないとは言いませんし、私自身だって実践することはあります。
しかしそのようなテクニックは、険悪なムードの中行うことは難しいですし、やはりどこかで「格好だけ」「薄っぺらい」と捉えられたりします。
夫婦・パートナー関係は、必ずしも常に幸せ満点なわけではなく、険しい道のりをも共に歩く必要があります。
日頃から支え合う姿勢を感じられないのに、たまにご褒美でスイーツをもらうくらいでは、到底乗り越えられるものではないのです。
小手先のテクニックは集めなくてもよろしい。
もっとシンプルにいきましょう。
「お互いのずれの是正に取り組んで、関係を改善していくんだ」という意識。これだけです。
幸せなときも、険悪なときも、常にこの意識だけを持ち続けてください。
これさえあれば、変に相手を傷つける言い方をする、向き合って話し合おうとしない、といった問題行動に、ある程度は自分で歯止めをかけることができるはずです!
今回のコラム、正直なところ対人関係療法については十分に紹介することができておりません…悔しい…
しかし、私自身が対人関係療法を学んだり、患者さんの治療や自分の人生を振り返る中で、この “意識づけ” こそが最重要ポイントなのだと確信しております。
実際に私が夫婦生活を送る中でも、「なんか喧嘩になっちゃったけど、この会話の目的は何だったっけ?…関係改善だったはずじゃん!」と意識するだけで、喧嘩がボヤ騒ぎの段階で収まったことが何度もありました。
これだけ覚えて帰ってもらえれば、もうこれ以上連載しなくてもいいのでは…
正直そう思わなくもないのですが、実はこの「夫婦・パートナー関係」こそ、今年私が特に力を入れて取り組みたいテーマなのです。
そういうわけで、もう少しだけお付き合いください!
(ちなみにあと2回、計7回にわたる連載を予定しています。)
それでは次回以降の連載も、ぜひ楽しみにしていてくださいね!
…そして、最後に。
「そもそも相手がいないんだよ!今年が半分も終わって焦ってんだよ!!」ということでお困りの方には、過去に私が掲載したマッチングアプリに関するコラムが参考になるかもしれません!
私はマッチングアプリの回し者でもなんでもないのですが、現代の出会いの手段として、使い方を間違えなければ有用なものだと考えています。
その使い方について、気をつけなければいけない点などを詳しく解説しておりますので、ぜひご一読いただけると幸いです。
それでは、本日はこのあたりで。
また次回のコラムでお会いしましょう!
今回の連載シリーズはこちら↓
【精神科医が解説】より良い夫婦・パートナー関係のために<No.1 導入編>
【精神科医が解説】より良い夫婦・パートナー関係のために<No.2 まず二人の関係性を知る>
【精神科医が解説】より良い夫婦・パートナー関係のために<No.3 男女における『気遣い』の違い>
【精神科医が解説】より良い夫婦・パートナー関係のために<No.4 全ての不満の正体は “ずれ” >
【精神科医が解説】より良い夫婦・パートナー関係のために<No.5 ”関係改善” という目的を忘れない> ←今回の記事
【精神科医が解説】より良い夫婦・パートナー関係のために<No.6 パートナーの家族との関係性>
【精神科医が解説】より良い夫婦・パートナー関係のために<No.7 >夫婦・パートナー関係が子どもに与える影響
※パートナーや結婚相手を探してマッチングアプリの沼にハマっている方は、ぜひ私のこちらのコラムもご一読ください。
※過去のコラムはこちら↓からご覧いただけます。
【メンタルヘルス】精神科医T.Sコラム
Writing by T.S
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