こんにちは!所属精神科医のT.Sです。
このコラムでは、
私が精神科医として患者さんと接する中で手に入れ、磨き上げてきた様々な武器
つまりは「幸せになるコツ」
を紹介しています。
前回は急遽、安倍元首相の訃報を受け、精神科医という立場からお伝えしたい内容を記事にし、掲載させていただきました。
そして今回はもう少し、私が考える “精神科医という仕事” について深堀りしてみようと思います。
精神科医とは当然、精神の病を扱う仕事です。
精神の病、と聞くと仰々しく感じるかもしれませんね。
精神科で扱う疾患は多岐に渡っていて、統合失調症、うつ病、双極性障害、不安障害、強迫性障害、発達障害、認知症…数えればキリがありません。
これらの病名を目にしても、(大変そうだなぁ…)と思うだけの方も多いかもしれません。
しかし覚えておいていただきたいのは、たとえ自分には無関係だと思っていても、いずれ精神科の門を叩く日がやって来る可能性は否定できないということです。
皆様も、「えっ、あの人がうつ病に!?」と驚いた経験があるのではないでしょうか。
でも実は当の患者さんの中にも、「えっ、私がうつ病になるなんて…」と驚いている方は少なくないのです。
健康の王国、病気の王国
アメリカのスーザン・ソンタグという作家が、著作『隠喩としての病い エイズとその隠喩』(みすず書房、1992年)の中で、以下のように書いています。
“ 病気とは人生の夜の側面で、迷惑なものではあるけれども、市民たる者の義務のひとつである。
この世に生まれた者は健康な人々の王国と病める人々の王国と、その両方の住民となる。
人は誰しも良い方のパスポートだけを使いたいと願うが、早晩、少なくとも或る期間は、
好ましからざる王国の住民として登録せざるを得なくなるものである。”
多くの人々(特に若者)は、自分は “健康の王国” に住み続けることができると考えがちですが、これは錯覚です。
私たちは必ずその人生において、“健康の王国” と “病気の王国” の行き来を繰り返します。
人によって “健康の王国” に住む期間が長いか、短いかの違いしかありません。
スーザンの言う通り、人間が生きている以上、人生に “夜” は必ずやってきます。
ここから逃れるには、人間をやめる以外の方法はありません。
(人間をやめたデ◯オでさえ、今度は必ずやってくる“昼” に苦しめられましたが…)
個々人の努力によって、“健康の王国” での滞在期間を伸ばすことは、ある程度までは可能です。
生活習慣に気をつける、不摂生を避ける、危険が伴う性行為はしない…やれることはいっぱいあります。
しかし、たとえどれだけ気をつけていても、避けようのない事故に巻き込まれる可能性を0にはできません。
暴走する車が歩道に突っ込んでくるように、病は抗えないスピードで、力で、突然私達を “病気の王国” に連行してしまいます。
病は気から、治るのも気から
そして理不尽なことに、この強制連行は一方通行なのです。
“健康の王国” から “病気の王国” へ強制連行されることはあっても、“病気の王国” から “健康の王国” に強制連行されることは絶対にありません。
それどころか “病気の王国” には滞在制限などなく、本人が望めば望むだけ滞在できてしまいます。
つまり、“病気の王国” から脱出できる可能性があるのは、脱出する意思を持つ者だけ。
病は気から、とよく言われますが、治るのもまた気からなのです。
そしてこれは、病院で治療を受けるにあたって非常に重要なポイントになってきます。
私たち医師は原則として、たとえ病気の人がいたとしても、勝手にその人のところに乗り込んで無理やり治療するようなことは許されていません。
(病気のせいで自傷他害をしてしまう人などは別で、そのために一部の精神科医は「強制的に」治療を開始する権利を持っています)
私達医師が治療に携われるのは、“病気の王国” から脱出する意思を持ち、自ら精神科の門を叩いた人たちだけです。
その時初めて、私達は脱出の絵図を描き、必要な物資を揃え、“健康の王国” に向けて共に歩みを進めることができるのです。
医師の仕事は、患者さんを治すことではない
医師の仕事は患者さんを治すことだと言われますが、果たしてそれは正しいのでしょうか。
私は弊社プロフィールや最初のコラムで、以下のように書いています。
“「対話を軸として、患者さん自身の回復に寄り添う」をモットーに日々患者さんと接し、研鑽を積んでいます。”
“ 私はいつも患者さんに、「手持ちの武器を増やしましょう」と説明しています。
「手持ちの武器を増やす」というのは、「自分を幸せにする手段や方法を、普段からいっぱい集めて取り揃えておく」ということを意味しています。”
お分かりになったかと思いますが、私は「患者さんを治す」という表現を使っていません。
私たち医師の仕事は、患者さんが病から回復する(治る)過程を見守り、必要なときには後押しすることです。
それ以上でも以下でもありません。
これは医師のみに関わらず、心理士(心理師)、看護師など、病に立ち向かう職種全てに言えることでしょう。
“健康の王国” を目指す道のりは、往々にして険しいものです。
山もあれば谷もあり、妨害や攻撃をしてくる敵が現れることもあります。時として、それが自分の家族であったりもします。
そして私たち医師の仕事は、“健康の王国” までのガイドです。
より安全な道を案内し、敵と戦うための武器を与え、水や食料を提供し、足を痛めたときには肩を貸すこともできます。
“病気の王国” で涙を流して絶望している人がいれば、“健康の王国”の存在を伝え、共に旅立とうと声をかけることもできます。
しかし、患者さんに代わって歩くことだけは絶対に出来ません。歩くのは患者さん自身です。
「病院に通院していれば、あとは医師が勝手に病気を治してくれる」と考えるのではなく、
治療は “健康の王国” に向かう、あなた自身の旅だという自覚、覚悟を持っていただきたいのです。
その自覚、覚悟さえあれば、あとは私たち医師が皆様を、“健康の王国” まで最速でご案内いたします。
…とはいえ、そもそも “病気の王国” に行かないで済むなら、それに越したことはないですよね。
そのためにも、事故に巻き込まれないよう自身を守る術を身に着ける必要があります。
そしてそのお手伝いを、このコラムにて微力ながらしていくつもりです。
これからも続いていく皆さんの旅が、より快適で幸せなものになるよう、精一杯サポートしていきますね!
それでは、また次回のコラムでお会いしましょう。
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