所属精神科医のT.Sです。
このコラムでは、
私が精神科医として患者さんと接する中で手に入れ、磨き上げてきた様々な武器
つまりは「幸せになるコツ」
を紹介しています。

8月は私の都合でコラムをお休みしてしまい、楽しみにしてくださっていた約1億2000万人の方々には大変申し訳なく思っております…
何をしていたかというと、今まで散々先延ばしにしてきた「試験」を受けてきました。精神科医としての仕事にまつわるものです。
本当はもっと早くに受験することもできたのですが、子どもが生まれるだの家を建てるだのとイベントが目白押しで、多忙さを理由に先延ばしにしていました。
しかし昨年、私よりも後輩の女医さんが、妊娠中の大変な時期にも関わらずレポートを書き上げ、猛勉強し、出産から約2週後にも関わらず東京まで赴き受験、そして見事合格するという偉業を達成したことで、私めはもう何の言い訳もできないことを悟ったのであります。
さて、今回久々に「試験勉強」に臨んだわけですが、得たのは精神科医としてのより深い知識だけではありませんでした。
むしろ私にとっては、切なくもあり、しかし今の自分にとって非常に価値のある気づきを得たのです。
簡潔に言うと、それは自分自身の「老い」でした。
脳と身体の老い

まず一つには記憶力の衰えです。今振り返ると私の記憶力の全盛期は、中学受験を控えた小学校高学年だった気がします。
当時の私の暗記方法は、「とにかく書く」。一枚の紙が文字通り真っ黒になるまで描き続け、ホラー映画で霊感強めの子どもが描く不気味な絵のようなものを量産しては母を怖がらせたものです。
しかし、それでも確実に覚えられていました。重要なのはそこですよね。
時は経ち、大学生の頃からはパソコンやタブレットを使って勉強するようになり、気づけば自分の知識、予定、記憶を自分の「外部」に頼るようになりました。
その結果、どんな未来が待ち受けていたでしょうか。
今回の試験勉強では、「あれ、この問題どこかで解いたような…」と見返してみたら、30分ほど前に解いたばかりの問題であることに気づき愕然とする。そんな罪と罰を、30分ごとに繰り返すこととなりました。こんなひどい仕打ちがありましょうか…!
私が小学生の頃はタブレット端末はもちろん、スマホもありませんでした。パソコンもどでかいデスクトップしかなく、カップ麺が作れるくらい起動に時間がかかるし、誰かお腹壊してるのかな?みたいな音がパソコンから数十秒聞こえた後やっとの思いで画像を一枚表示、みたいな文明レベルでした。でも、実はそれが良かったのかもしれません。
そして悲しいことに、記憶力だけではなく、身体の衰えも実感するハメになりました。
集中力を維持できる時間が若い頃に比べ短くなっただけではありません。私、ぎっくり腰になっちゃいました。
勤務中に腰の激痛で歩行不能になり、院内の看護師さんたちによりあっという間に救急車が手配され、自分が外勤で往診に行っている総合病院に搬送されるという、ありがたくも切なく、気まずい経験をさせていただきました。
特別重いものを持った記憶もないため、前回のコラムで書いたように最近ランニングを始めたせいなのか、あるいは勉強のために長時間座っていたせいなのか、原因はよくわかりません。
とにかく整形外科の先生からは「もう20代ではないので、まずはしっかり体幹を鍛えてください」と説教され、ぷるぷる震えながらプランクを頑張っているのが最近の私です。
歳を重ねるにつれ身体は衰えていきますが、精一杯抵抗することはできます。なかやまきんに君は、若い頃から筋トレをしておくことを、貯金になぞらえて「貯筋」と言っていました。彼曰く、将来健康でやりたいことを十分に楽しむためには、お金を貯めるだけでなく、健康も維持しておく必要があります。そしてお金と違って、使えば使うほど溜まっていくのが筋肉です。将来の自分への投資として貯筋をすることで、少しでも老いに抵抗するのです。
そして、脳もまた然り。老いから逃れることはできません。デジタル機器に頼りきりにならず、文字を書き、自分の脳に刻み込むことをしなければ、脳の老いは加速度的に進んでしまいます。
このように、自身の脳と身体の衰えに直面化してしまったわけですが、実はこの二つも、最後の一つに比べればどうということはありません。
その老いを実感したとき、私は過去の自分に嫉妬するとともに、今の自分に対して強い焦りと絶望に襲われました。
それは、“面白さ” の衰えです。
面白くなくなった、自分

試験勉強はどこへ行ったのでしょう。あれは先日、久々に同級生や後輩を交えて飲み会をしたときのこと。
結婚し子どもが生まれ、仕事や新居づくりで多忙だった私にとって、そのような飲み会は本当に久々の出来事でした。
突然ですが、恐れながらも申しましょう。昔の私は、面白い人間でした。愉快なヤツでした。
気の利いたギャグを大小織り交ぜて場を盛り上げ、飲み会ではスベりながらも笑いを狙い、大学の部活では部長を任され大人数の中でこそ輝くタイプでした。
しかし先日の飲み会で、悲しいかな、私は気づいてしまったのです。
昔ほど面白くない自分に。
しかし考えてみると、至極当然の話かもしれません。
人付き合いが激減した今、私のユーモアは完全に家族向けにチューニングされています。
そしてその家族というと、私のちょっと大きめのオナラで爆笑してくれる妻と、「プピプピコケコケ〜!」と言うだけで爆笑してくれる1歳の子どもしかいません。
こんなにイージーで偏った環境の中では、洗練された笑いのセンスなど醸成されるはずもなく、家庭外に持ち出すことは許されない笑いばかりが日々生み出されていきます。
そしてそもそもですが、家族以外と話す機会が、職場以外では数えるほどしかありません。
もちろん診察では患者さんとお話しますが、求められているのは精神療法とお薬であって、「実はこの前、ウォシュレットの水が止まらなくなりましてねぇ」といった小ネタではありません。患者さんを安心させ、納得させるための話法は向上すれど、爆笑させるスキルを磨く機会は皆無と言ってもよいでしょう。
面白い人になりたい…!

そんなこんなで私は、ちょっと大きめのオナラをしながら「プピプピコケコケ〜!」と叫ぶモンスターになってしまったわけですが、私と環境は違えど「歳を取って、若い頃のようには楽しくなくなった」と感じている人は多いのではないでしょうか。
「若い頃は楽しかった。」
わかります。確かに私もそう感じています。
でも、どうして?
家族ができ、行動が制限されるようになったから?
大人になるにつれ、知っていることが増え、知らないことが減ったから?
あるいは、身体が思うように動かないから?
私は、ここ最近の自分になんとなく不全感を感じていました。
安定した生活を送り、幸せな家庭で愛する家族に囲まれながらも、どこか今の自分に自信が持てず、満たされていない感覚を抱えていました。
そして、その理由に気づきました。
人を笑わせることが減ったからだ、と。
私は、人を笑わせることで自分も楽しくなれる、幸せになれるタイプの人間です。
受け止めるキャッチャーや打ち返すバッターがいてこそ、豪速球を投げることができるタイプの人間なのです。
みんなに木偶の坊と呼ばれ、褒められもせず、苦にもされず。
そういう者になりたいわけではないのです。
あらゆる人々を笑いの渦に巻き込み、その注目と好意をかっさらう。
そう、私はそんな「面白い人」になりたいのです…!
面白さの「必要条件」

では、そもそも「面白い」とはどういうことなんでしょうか?
面白い人とは、一体どんな人なのでしょうか?
私は、面白さというのは 「刀」と似たようなものだと考えています。正直に言うと、今思いつきました。
刀は刀として突如生まれてくるわけではなく、掘り出したままではただの鉄の塊にすぎません。磨きも鍛錬もされていない状態では、武器としても道具としても役に立ちません。
そして、たとえどんな名刀であろうと、研ぎも使いもせず放置すれば、錆付く一方です。
人間の「面白さ」も同様です。生まれながらにして誰もが持っている「完成された才能」ではありません。経験や学び、失敗や試行錯誤を繰り返す中で少しずつ叩かれ、焼き入れされ、研がれていくうちに、そこに「切れ味」と「輝き」が宿っていきます。
つまり、面白さは先天的に与えられるものではなく、人生の中で鍛えられて初めて人を惹きつけるものになっていきます。
そしてさらに言えば、使わなければ錆付き、昔の切れ味は失われていくのです。
さて、ここで私は「みんな日々成長してるよ!その時々の面白さがあるから大丈夫だよ〜!」などという甘っちょろい励ましは、一切いたしません。
そんなことより私は知りたい、語りたい、確かめたいのです。「面白さ」がいかにして生まれるのかを!どうすれば面白い自分になれるのかを!
これまで世に生み出された名刀は数あれど、その全てに共通している特徴があります。それは、「切れ味が良い」ことです。刀は切るために生み出されるものですから、当然のことです。
「切れ味が良い刀 = 名刀」というわけではありませんが、名刀はすべて、よく切れます。
つまり、「切れ味が良いこと」は、名刀であるための「十分条件」ではありませんが、「必要条件」であると言えるのです。
そして、「面白さ」も同様です。一定の条件があります。
「これさえできれば絶対に面白い人になれる」という十分条件は無くとも、「面白い人はみんな◯◯している」という必要条件が、実はあるのです。
私は過去のコラムで、マッチングアプリについて連載しました。マッチングアプリを使うにあたって具体的に気をつけるべきポイントについて、他者視点をベースに実践的な内容も踏まえて解説しています。
しかしこの連載は、プロフィールの作り方や話を進める順番などに特化しており、肝心の「どんな話をすれば面白いと思われるか」についてはあまり触れていません。
今、その時が来ました。
今、と言っておきながら文字数の関係で次回になるのですが、マッチングアプリのみならずあらゆる対人場面において、「面白い人」が使いこなしているテクニックを、精神科医の立場から解説していくつもりです。
誰かを笑わせることは、相手を楽しい気分にさせるだけでなく自分の自信と幸せにも繋がる、まさに最強のメンタルトレーニングです。
一緒に「面白い人」になって、自分と周りをより豊かなものとしていきましょう!
それでは、また次回のコラムで。乞うご期待!
※今回のシリーズはこちら↓
【精神科医が解説】「面白い人」になるための条件 〜導入編〜
【精神科医が解説】「面白い人」になるための条件 〜テクニック編①〜
【精神科医が解説】「面白い人」になるための条件 〜テクニック編②〜
※過去のコラムはこちら↓からご覧いただけます。
【メンタルヘルス】精神科医T.Sコラム
Writing by T.S
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