COLUMNコラム

【NEAR科学】③日常に取り入れるコツ!対話で育む心と脳の健康

こんにちは、所属カウンセラーの古宇田です。

子どもと良好な関係を築くためには、どういったことが必要でしょうか? 子どもの声を聴くことの大切さにもつながるものであり、その鍵となるのが、「対話」「尊重」です。

子どもが安心して成長できる環境を整えるために、NEAR科学では、「安全」「つながり」「回復」を基盤とする関わりが重要であるとされています。これらの要素がしっかりと整えられた環境では、子どもは自分の気持ちを自由に表現し、感情を受け止めてもらえる安心感を得ることができます。

その中でも特に重要なのが、「子どもの意見を大切にする姿勢」です。子どもが自分の考えや気持ちを伝え、それを大人がしっかりと受け止め、尊重することによって、子どもは「自分の存在は大切にされている」「自分の意見には価値がある」と感じることができます。これは、自己肯定感の向上につながり、子どもの心と脳の健やかな発達を促します。

本コラムでは、「対話」「子どもの人権」「意見表明権」という3つの視点を軸に、NEAR科学の理論を日常生活の中でどのように実践していけるのかを考え、具体的な方法を提案していきます。子どもとより良い関係を築くためのヒントを探りながら、対話を通じて子どもの心と脳の健康を育む方法をお伝えしたいと思います。

以前までの【NEAR科学】シリーズはこちらからご覧になれます。
【NEAR科学】➀NEAR科学って何?『心と脳の仕組み』をひも解く新しい視点
【NEAR科学】②ストレスでエンジンがオーバーヒート!? ストレスに強い脳と心をつくるためにできること

【対話が生む「つながり」と「安心」】

対話とは、単に言葉を交わすだけではありません。特に、子どもにとって「自分の気持ちを受け入れてもらえた」「安心して話せる」と感じられる対話は、脳の発達や心理的な安定に大きな影響を与えます。

人間の脳は、安心感を得ることでストレスを軽減し、ポジティブな成長を促進するように働きます。子どもが自分の考えや感情を自由に表現できる環境では、脳内で「安心スイッチ」がオンになり、ストレスホルモンの分泌が抑えられ、逆に幸福感を生み出すホルモン(オキシトシン)が増加します。このプロセスにより、子どもは情緒的に安定し、対人関係のスキルや問題解決能力を高めることができます。

また、子どもが自分の意見を尊重される経験を積むことで、自己肯定感が育ちやすくなります。これは、脳の「報酬系」と呼ばれる部分が活性化し、「自分の意見を話しても大丈夫だ」「自分には価値がある」と感じることで、自己効力感(自分の力で物事を成し遂げられる感覚)が向上するためです。このように、日常の何気ない対話が、子どもの脳と心の健康に直結しているのです。

でわ、対話を深めるための3つのポイントについて紹介したいと思います。

①オープンクエスチョンを使う

子どもが自由に考え、言葉を選んで話せるような質問を投げかけることで、自発的な意見表明を促します。例えば「今日はどんなことがあった?」のように広く問いかけることで、子どもが自分のペースで話せるようにします。さらに、「それをどう思った?」「他にはどんな気持ちになった?」と深掘りする質問を重ねることで、子どもの考えをより引き出せます。

②否定しない・評価しない

子どもの意見や感情に対して、否定的な言葉を使わず、「そう感じたんだね」と共感しながら受け入れる姿勢を示してみましょう。子どもが「学校がつまらない」と言ったとき、「そんなこと言わないで頑張りなさい」ではなく、「今日は退屈だったんだね」と感情に寄り添う言葉かけをしてみることで、どんな感情も大切なものであり、それを認めることが、安心して本音を話せる姿勢を作るきっかけになります。

③「共感」を意識する

子どもの気持ちを言葉にして共感を示すことで、信頼関係を深め、安心して話せる環境を作ります。子どもが「友達に無視された」と言ったとき、「それは悲しかったね」と気持ちを代弁してみましょう。さらに、「どうしたらよかったと思う?」と一緒に考えることで、子どもが自分で解決策を見つける手助けにもなります。

【子どもの人権を守るNEAR科学の実践】

子どもの権利条約では、「意見表明権」が明確に規定されており、これは子どもが自分の考えや感じたことを自由に表現し、それを大人が尊重し受け止めることを求めています。具体的には、第12条において、「子どもは、自分に関わるあらゆる事柄について意見を表明する権利を持ち、その意見は年齢や成熟度に応じて適切に考慮されるべきである」と明記されています。

NEAR科学の視点では、この「意見表明権」を守ることが、子どもの心と脳の健やかな発達に大きく寄与するとされています。なぜなら、子どもが自分の意見を自由に話し、それを周囲の大人が真剣に受け止める経験を積むことで、自己肯定感が高まり、自分自身を大切にする感覚が養われるからです。

また、自分の意見が尊重されることで、子どもは自信を持って周囲と関わる力を育みます。これは、将来的に人間関係を築く力や、社会の中で自ら考え行動する力につながります。逆に、意見を軽視されたり無視されたりする経験が積み重なると、「自分の考えには価値がない」と感じ、自己肯定感が低下する可能性があります。

さらに、子どもが安心して意見を述べることができる環境では、問題解決能力や意思決定能力の発達も促されます。例えば、家庭や児童福祉施設、学校などで「どうすればもっと楽しく過ごせると思う?」といった質問を投げかけることで、子どもは自分の意見を持ち、他者と協力しながらよりよい方法を考える経験を積むことができます。

このように、意見表明権を保障することは単なる権利の尊重にとどまらず、子どもの社会的・情緒的な発達にとっても極めて重要な意味を持つのです。

日常で実践できる3つの方法

①子どもの話をじっくり聞く時間を作る

子どもが自分の気持ちを安心して話せる環境を整えるためには、「聞いてもらえる時間がある」という安心感を持たせることが重要です。例えば、食事の時間や寝る前のリラックスした時間に、「今日はどんなことがあった?」と声をかけることで、子どもがその日感じたことを自然に話しやすくなります。また、子どもが話し始めたときには途中で口を挟まず、最後までしっかりと耳を傾け、「それは楽しかったね」「そんなことがあったんだね」と共感を示すことで、話しやすい雰囲気を作ります。

②子どもの小さな選択を尊重する

子どもが自分の意見を表現し、それが尊重される経験を積むことは、自己肯定感を育むうえで非常に重要です。日常の些細な場面で子どもに選択の機会を与えることで、「自分の意見が尊重される」という感覚を持たせることができます。例えば、「今日のおやつは何にする?」といった簡単な質問や、「どの服を着る?」「どの絵本を読みたい?」と選択肢を与えることで、子どもが自分で決める経験を増やせます。このような経験を積み重ねることで、子どもは「自分の考えを持つことは大切なんだ」と理解し、自信を持って意見を述べることにつながるでしょう。

③意見を反映する仕組みを取り入れる

子どもの意見を生活の中で反映させる仕組みを作ることで、「自分の考えが大切にされている」と実感する機会を増やします。例えば、家庭や子どもと関わる職場での約束事やスケジュールを決める際に、「どうしたらもっと楽しく過ごせると思う?」と子どもに問いかけ、意見を出してもらうことが有効です。家庭では、定期的に家族会議を開き、「どんな約束事があると暮らしやすい?」と子どもにも考えてもらい、大人と一緒に決めていくプロセスを取り入れるのも良い方法です。子どもと関わる職場では、子ども会議などの場を設け、子どもたちが自分たちの環境について話し合う機会を作ることで、意見を反映しやすくなります。大切なのは、子どもが意見を出した際に、それをただ聞くだけで終わらせず、実際に取り入れることです。「○○ちゃんの提案を参考にして、今月からこうすることにしたよ」と具体的にフィードバックすることで、子どもは「自分の意見が反映された」という成功体験を得ることができます。

このような取り組みを通じて、子どもは「自分の声には意味がある」「意見を言ってもいいんだ」と感じることができ、自己肯定感が高まり、健全な人間関係を築く基盤となります。

【子どもの意見を受け入れることで広がる可能性】

子どもの意見に耳を傾けることは、大人にとっても新たな発見のきっかけになります。大人が思いつかないような柔軟な発想や、日常の中で気づきにくい問題点を、子どもの視点から指摘されることがあります。

例えば、「この部屋がもっと明るい方が気持ちいい」「お風呂の時間をもう少し遅くしてほしい」といった、小さな提案がより快適な環境づくりにつながることがあります。

また、子どもの意見を受け入れることで、大人自身のコミュニケーションの幅が広がり、子どもの成長をより深く理解することができるようになります。「この子はこんなふうに考えているんだ」と気づくことで、より適切なサポートが可能になり、親子関係や支援者との信頼関係も深まります。

【NEAR科学と「共に生きる」視点】

NEAR科学の実践は、単なる支援や指導ではなく、「子どもと大人が対等に尊重し合う関係性」を築くことを目指しています。子どもを未熟な存在として一方的に導くのではなく、一人の個人として向き合い、共に考え、学び合う姿勢が大切です。

そのためには、子どもの声を大切にし、その意見を生活の中で実際に反映させることが重要です。子どもの生活する場所での約束事を決めるとき、「これを守る理由は何だろう?」と子どもと一緒に考えることで、ルールの意義を理解しやすくなります。また、「どんなふうに過ごせたら楽しい?」と問いかけることで、より良い環境づくりに子ども自身が積極的に関われるようになります。

子どもと大人が共に生活を作り上げることで、子どもは「自分の意見が受け入れられる」という成功体験を得られ、自信や主体性を育むことができます。そして、大人にとっても、新しい視点を得たり、子どもから学ぶ機会が増えることで、関係性がより豊かなものになります。

私たちは日々、家族や友人、同僚など、多くの人と関わりながら生活しています。人とのつながりがもたらす癒しという視点が、そして「つながり」が心の健康を支える重要な要素であることをNEAR科学は教えてくれます。

特に、子どもにとって「自分を受け入れてくれる人がいる」「困ったときに頼れる存在がいる」と実感できることは、ストレスの軽減や情緒の安定につながります。これは、大人にも同じことが言えます。日々の生活の中で、信頼できる人とのつながりを大切にすることが、心の健康を保つ鍵となります。

そのためには、子どもが気軽に話せる環境を作り、安心して悩みや気持ちを共有できる関係性を築くことが大切です。毎日の何気ない会話の中で、「今日はどんなことがあった?」と聞くだけでも、子どもにとっては「自分のことを大切に思ってくれている」と感じるきっかけになります。

また、子どもが参加するイベント、地域の交流の場など、子どもが多様な人と関わる機会を増やすことも重要です。「誰かと一緒にいると安心できる」「話を聞いてくれる人がいる」という経験を重ねることで、子どもは人との関係の中で自己を確立し、健やかに成長していくことができます。

このように、NEAR科学の実践は「子どもを一方的に支援する」という視点ではなく、「共に生き、共に学ぶ」ことを大切にしています。子どもの意見を尊重し、共に考え、共に行動することで、子どもも大人も成長し、より豊かな関係を築くことができるのです。

【家庭で実践できるNEARのアプローチ】

NEAR科学の視点を家庭で実践するためには、日常の中で子どもとの関わり方を少し工夫することが大切です。ここでは、家庭で簡単に取り入れられる3つのアプローチを紹介します。

①共感を示すコミュニケーション

子どもとの会話において、まずは相手の気持ちをしっかり受け止めることが大切です。「そう感じたんだね」「それは嬉しかったね」「悲しかったね」など、子どもの気持ちを言葉にして共感を示すことで、安心して話せる環境を作ることができます。

子どもが「友達とけんかしちゃった」と話したときに、「なんでそんなことしたの?」と問い詰めるのではなく、「それはつらかったね」と感情を受け止めた上で、「どうしたらよかったと思う?」と一緒に考える姿勢を持つことが重要です。

②ポジティブなフィードバックを意識する

子どもが成功体験を積み重ねられるよう、小さな努力や前向きな行動に対して積極的にフィードバックを与える機会が大切です。

「頑張ったね」「よく考えたね」「昨日より少し上手になったね」といった具体的な声かけをすることで、子どもは自分の行動に自信を持ち、自己効力感を高めることができます。

また、成功だけでなく、「挑戦したこと」や「努力した過程」そのものを認めることも大切です。たとえば、「結果はどうであれ、一生懸命取り組んだことが素晴らしいよ」と声をかけることで、結果ではなく過程を大切にする姿勢を育むことができます。

③ルーティンを整えて安心感を与える

子どもにとって、日々の生活の中で一定のリズムや習慣があることは、大きな安心感につながります。「毎晩寝る前に絵本を読む」「夕食後に家族みんなで今日の出来事を話す時間を作る」といった日課を設けることで、子どもは生活の予測が立ちやすくなり、安心して過ごせるようになります。

特に、感情を整理する時間を意識的に作ることが重要です。「今日はどんなことがあった?」と一緒に振り返る習慣を持つことで、子どもは自分の気持ちを整理しやすくなり、感情のコントロール力を育むことができます。

【おわりに:未来を共に創るために】

NEAR科学の実践は、一歩ずつの積み重ねです。すぐにすべてを取り入れることは難しいかもしれませんが、まずは日常の中で少しずつ意識してみることが大切です。

子どもの意見を尊重し、共に考え、成長するプロセスを大切にすることで、子ども自身が「自分の声には価値がある」と感じるようになります。そして、その積み重ねが、子どもの自己肯定感を育み、健やかな心と脳の発達を促します。

大人も子どもも、互いに学び合いながら成長していくことができる関係性を築くことこそが、NEAR科学の目指す「安心・つながり・回復」を実現する鍵となります。

私たち大人ができることは、子どもが自分自身を大切にしながら、未来を創っていく手助けをすることです。NEAR科学の考え方を日々の生活に取り入れながら、子どもたちと共に歩んでいきましょう。

これまで「子どもの心との向き合い方」というテーマでコラムをお届けしてきました。子どもの人権、小児期の逆境体験(ACE)、レジリエンス、ヤングケアラー、子どものアドボカシー、トラウマインフォームドケア、子どもの意見表明権、こども家庭庁、子どものトラウマ、里親制度、そしてNEAR科学などのサブテーマを通じて、子どもたちが安心して成長できる環境をつくるために、私たち大人ができることを一緒に考えてきました。

子どもは、ただ守られる存在ではなく、ひとりの尊厳ある個人です。その声に耳を傾け、意見を尊重し、安心できる環境を整えることが、心と脳の健康を育む第一歩となります。NEAR科学をはじめとする知見を活かしながら、子どもと共に成長し、より良い未来を築いていくことができればと思います。

このコラムが、皆さまの日々の子育てや、子どもたちと関わる時間をより豊かにするヒントとなっていれば幸いです。これまでお読みいただき、本当にありがとうございました。

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【参考資料:『小児期の逆境体験と保護的体験』ジェニファー・ヘイズ=グルード他2名・2022 『子どもの「逆境」を救え』若林巴子・2024】

社会生活の変革という過渡期での不安やストレスは、さまざまな形で表出されることがあります。変化の多い状況の中で、不安を感じることもあるかと思いますが、少しでも安心して過ごせる時間が持てるよう願っております。ポジティブな考えを持つきっかけとして、そして安心・安全な人との関わりを通して生きる力を養うサポートもカウンセリングの一側面とも考えています。子育てやこどもの抱える不安やストレスに関してのご相談もお受けしております。

Writing by古宇田エステバン英記


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