COLUMNコラム

【メンタルヘルス】育休を終えた精神科医のつぶやき

こんにちは、所属精神科医のT.Sです…

このコラムでは、

私が精神科医として患者さんと接する中で手に入れ、磨き上げてきた様々な武器
つまりは「幸せになるコツ」

を紹介してるのですが…

私は今、とても信じがたく、受け入れがたい現実に直面しています。

私の育児休暇が、あと数日でついに終わろうとしているのです。まるで砂時計の最後の一粒のように…
(なお、このコラムは10月末に書いています)

振り返ると育休中の日々は、喜びと疲労が目まぐるしく入れ替わり、まるでジェットコースターのような体験でした。

オムツ替えの最中に娘が盛大におっぱいやミルクを吐き戻す日々を過ごすうち、育児に腕2本では到底足りないということに気づき、人生で初めてポケモンのカイリキーが羨ましいと思いました。

また、娘の泣き声の音響効果たるや凄まじく、狭い寝室で泣き始めると、壁が振動し、窓ガラスもかすかに共鳴し始め、それはまるで最新のサラウンドシステムのようです。時折そこに愛犬のチワワもサプライズ登場し、深夜のゲリラライブが始まるのです。

しかし、娘の笑顔や笑い声一つで、全ての苦労が報われる———そんな魔法のような日々でした。

赤ちゃんの成長は本当に早いもので、いつの間にか自分の指をおしゃぶりするようになり、それにより自分の機嫌を取ることも覚えつつあります。
覚醒している時間も増え、最近はベビージムのおもちゃに夢中で手を伸ばすようになりました。

そして私自身、床に寝転んだ娘と向かい合って腕立て伏せをすると、キツイと思う間もなくノルマ回数を達成できてしまうという驚きの発見もありました。

そんな激動の約2ヶ月を終え、今まさに仕事復帰が目前に迫っています。

寝かしつけが上達して妻から「眠りの伝道師」と呼ばれるようになった私が、ちゃんと精神科医に戻れるのか…正直不安です。患者さんについ「辛いですよね…よちよち…」と相槌を打ってしまうかもしれません。

しかし、2ヶ月間の育休は、間違いなく私の人生における特別な時間であり、貴重な経験であり、ターニングポイントでした。この経験は今後の私の人生に大きな影響を与えるでしょう。

さて、今回のコラムでは、育休を終えて日常生活に戻るにあたり、私が再考し決意したことについて綴ります。

ある意味、自分自身への宣誓のような内容になるかもしれませんが、このコラムを読んでいただいた方のメンタルヘルスに少しでも響くところがあれば幸いです。

“丁寧な暮らし” を目指したい

今回の育休を経て、“丁寧な暮らし” を目指したい、と心から思うようになりました。

“丁寧な暮らし” という表現が、私の中で一番しっくり来る言葉なのでそう表現しておりますが、その全容を事細かに説明するのは難しいです。

ただし漠然と、「自分が本当に幸せだ、気持ちがいいと思うことをやる」と言えそうです。

たとえば私にとっては、妻や娘、愛犬と仲良く過ごしたり、早起きして健康のために運動したり、好きな音楽を聞くことは勿論ですが、急いでいる人に順番を譲る、なるべく店員さんに丁寧に接するなどの行為も含みます。
(義理の兄はこれを「徳ポイントを積む」と呼んでおり、なるほど良い言い回しだなと思いました)

これらの行為をすることにより、何か神様からご褒美がもらいたいとか、そういった意図があるわけではありません。

しっかり自分自身と向き合い、家族や周囲の人々とも向き合ったうえで、自分を好きになれることだけをやり、自分を嫌いなるようなことはしない。自分を大切にし、自分の気持ちに嘘をつかない。

これを心から意識して人生を歩いていくことこそ、私にとっての “丁寧な暮らし” であり、これからの自分に必要なことだと改めて感じました。

自分にとっての “丁寧な暮らし” とは何なのか。
自分を本当の意味で大切にできているのか。

その自問自答、試行錯誤を繰り返しながら、日々を積み重ねていきたい。今はそう思っています。

託される側から、託す側に

私にとって、家族の幸せは自分の幸せとほぼ同義です。
私の幸せは家族の幸せの上に成り立っており、家族が不幸な状態で私だけが幸せになることはありえません。

この感覚は、今年7月に娘が生まれてからさらに強くなりました。
結婚したときにも感じましたが、娘の誕生を機に、世界のあらゆる物事の捉え方が変わったと実感しています。

そして、その変化のせいでしょうか。

普段から漫画をよく読む私ですが、最近「NARUTO」を読み返したとき、以前はそれほど響かなかったセリフが心に深く刻まれました。それは、主人公ナルトの師匠が亡くなった際、友人のシカマルがナルトを励ますシーン(44巻、406話)でした。シカマルのセリフをそのまま抜粋します。

“うじうじしても始まらねーだろ。とっくにそんな立場じゃなくなってんだよ。
オレは師から色々なもんを託された。重要なことからくだらないことまで色々だ。
お前だってそうだろ…それこそ限りなくよ。
そろそろなんじゃねーか?オレたちも。
託される側から、託す側にならねーとよ。めんどくせーけど、そうも言ってらんねェだろ。
お前もいずれラーメンおごる側になるし、ナルト先生とか呼ばれんだからよ。
オレたちだって、いつまでもガキのままじゃいられねェ。”

これまで私は、どこか自分はまだ子どもだという感覚を持ち続けていました。

いざというときは親に頼ったり、助けてもらえたりするだろう———

そんな期待を抱いていたように思います。

しかし今や、私自身が「父親」となり、娘にとっては頼るべき存在になっているのです。

「託される側から、託す側に」というシカマルの言葉が、今の私の状況にぴったりと当てはまります。
もはや自分だけの人生ではなく、家族全体の幸せと安全を守る立場になったのです。

これが父性というものなのかはわかりませんが、このような認識が自分の中に芽生えてきたことは、喜ばしい変化だと感じています。

子どもに託せるもの

託す側になった今、自分は子どもにどんなものを託せるのでしょうか。

そんなことを考えていたとき、偶然目にした文章が、私の心に深く刻まれたのでした。

こちらも引用になりますが、「死ぬ前に小学生の一日をまたやってみたい」という2ちゃんねるのコピペです。

” 俺思うんだ…。
俺、死ぬ前に小学生の頃を
一日でいいから、またやってみたい
わいわい授業受けて、体育で外で遊んで、学校終わったら夕方までまた遊んだ
空き地に夕焼け、金木犀の香りの中家に帰ると、家族が「おかえり~」と迎えてくれて
TV見ながら談笑して、お母さんが晩御飯作ってくれる(ホントありがたいよな)
お風呂に入って上がったらみんな映画に夢中になってて、子供なのにさもわかってるように見入ってみたり
でも、全部見終える前に眠くなって、お部屋に戻って布団に入る
みんなのいる部屋の光が名残惜しいけど、そのうち意識がなくなって…
そして死にたい “

この文章を読んで、私は深い懐かしさとノスタルジーを感じたのですが、皆さんはいかがでしょうか。

同じように感じた人も多いのではないかと思います。実際、2chのスレッドでも同様の感想を述べている人は数多くいました。

しかし、同時に気づいたのは、このような温かい家庭環境で育つことができなかった人もいるということです。こんな平和で穏やかな日常が当たり前ではなかった方も、世の中にはたくさんいます。

そう考えると、このような思い出を持ち、ノスタルジックに感じられること自体が、実は大きな幸運なのだと気づかされます。

そして私は、この幸せな感覚を自分の子どもにも体験させてあげたい。そう強く思いました。

しかし、子どもにこのような経験を伝えるためには、単に願うだけでは不十分です。やはり、私自身が日々の生活の中でこれらの価値観を実践し、体現していく必要があります。子どもたちに温かい家庭環境を提供するという責任を、私たち親が担っているのです。

子どもたちに伝えたいものは、言葉だけでなく、行動を通じて示すことが大切なのでしょう。家族との時間を大切にし、日常の小さな喜びを共有し、安心できる環境を作ることが、子どもたちの心に残る思い出を作る第一歩となるのです。

この気づきは、私に新たな決意をもたらしました。

日々の忙しさに追われがちですが、自分自身の健康にも気を遣いながら、家族との時間を大切にし、子どもたちと共に思い出を作っていく。

そうすることで、将来子どももまた、この文章のように懐かしく振り返ることができる日々を過ごせるようになると信じています。

親になった自分のためにも、是非育休を

育児休暇は子どものために取るもの。

そう考える人も多いでしょうが、私にとってはむしろ逆でした。

私の育児休暇は、子どものためというより、父親になったばかりの自分のため、そして父親としての自覚がまだ十分に育っていない自分のためにあったように思います。

この育児休暇を通じて改めて気づいた、父親としての責任、家族への愛情、そして自分自身の成長。これらすべてが、私の人生に新たな意味と深みを与えてくれました。

私たち一人一人が、各々が理想とする “丁寧な暮らし” を積み重ね、自分の役割を果たし、次の世代に良いものを託していく。それが、社会全体をより良くしていく小さな、しかし確実な一歩になるのではないか。

父親になってまだ数ヶ月のひよっ子が、漠然とそんなことまで考えるようになったのですから、やはり子どもは偉大です。

さて、私の育児休暇はこれにて終わります。

とはいえ、私の仕事再開に合わせて育児がイージーになるわけでもなく、むしろ成長に伴って次から次へと新たな課題がやってくることでしょう。

私たちは皆、人生の様々な局面で新たな役割や責任を担うことになります。それは時に不安や戸惑いを伴うものかもしれません。実際私も、仕事の再開後も今まで通りに子どもと関わっていけるのかどうか、不安を抱えています。

しかし、そのような経験こそが、私たちを成長させ、人生をより豊かなものにしてくれるのです。

ですので私はこれから、仕事と家庭のバランスを取りながら、両方の世界で最善を尽くしていく決意です。精神科医として、そして一人の父親として、周りの人々の幸せに貢献できるよう努めていきたいと思います。

あなたが今、どのような立場にいるにせよ、日々の小さな喜びや、周りの人々との絆を大切にしてください。そして、自分の役割を果たしながらも、時には立ち止まって自分自身を労わることを忘れないでください。

私たち一人一人がそれを続けることが、より良い社会、より幸せな未来につながっていくのです。
そんな平和な世界で子どもたちが育ってくれたら…何も言う事無しですよね。

そしてそんな気づきを得るためにも、今後そのようなタイミングが来て可能な方は、是非育休を取ってみてください。
私がこんなクサイ台詞を言えるようになる理由が、なんとなーくでも、分かってもらえる気がしています。

それでは次回のコラムも、ぜひ楽しみにしていてくださいね!

※過去のコラムはこちら↓からご覧いただけます。

【メンタルヘルス】精神科医T.Sコラム
Writing by T.S


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