こんにちは、所属カウンセラーの古宇田です。
2024年も終わりに近づき、日々の忙しさの中でふと立ち止まり、この一年を振り返る季節となりました。皆さまにとって、どのような一年だったでしょうか?
コラムのテーマとして掲げてきた「子どもとの心の向き合い方」。それは、子どもたち一人ひとりの声に耳を傾け、その心の奥にある気持ちを丁寧に汲み取ることの大切さを改めて実感した一年でもありました。子どもたちが抱える想いや不安、そして小さな成長の瞬間に寄り添うことで、子どもの笑顔や安心感を共に育むことができたように感じています。
また、私たち大人自身も子どもと向き合う中で、時に迷い、考えさせられることがありました。そのたびに、共に悩み、学び合う仲間の存在、そして皆さまの温かい支えが私たちの大きな力となりました。この場をお借りして、深く感謝申し上げます。
年末年始は、子どもたちにとっても、大人にとっても、心を落ち着け、新しい気持ちで次の一歩を踏み出すための大切な時間です。このコラムを通じて、子どもたちと心を通わせるヒントを皆さまと共有し、2025年もより豊かな「心の向き合い方」を探求していきたいと思います。
どうぞ良いお年をお迎えください。そして、新しい一年が皆さまと子どもたちにとって、温かく希望に満ちた日々となりますように。来年もどうぞよろしくお願いいたします。
さて前回のコラムでは、海外での「子どもの声を尊重する新しい仕組み」に焦点を当てました。子どもの意見表明権が注目されるなかメンタルケアや子どもの権利などを通じて、子どもが安心して意見や気持ちを表現できる環境づくりが求められていること、世界各国で進んでいる「子どもの声を尊重する取り組み」が、日本の子ども福祉、教育などのさまざまな現場にも多くの示唆を与えてくれる可能性について触れました。特に、子どもたちが自分の意見を自由に表明し、それが福祉サービスや社会政策に反映される仕組みを整えることが、今後さらに重要な課題となるでしょう。
前回コラムはこちらからご覧になれます。
【こどもの声を尊重する新しい仕組み】③子どもの権利条約を基盤とした海外の取り組み
今までお伝えしてきている意見表明等支援事業は、子どもたちが自分の意見や意思を表明する機会を提供することで、自己決定力を育成し、自己肯定感を高めることを目的としています。この事業を通じて、子どもたちは「自分の意見が尊重される」という経験を積み重ね、自己の内面に対する理解や自己認識を深めることができます。また、支援者や大人が子どもの意見に耳を傾ける姿勢を示すことで、子どもとの信頼関係を築き、日々の生活における安心感をもたらします。
今回は、「意見表明等支援事業」のような取り組みが行われる中で、子どもが意見を表明することを阻む課題について考えたいと思います。日本社会では、子どもが自分の意見を自由に表明することが難しい環境が長らく存在しています。児童福祉や教育の現場で子どもたちの声を聴くことは、子どもたちの成長や自己肯定感を育むために不可欠ですが、現状では多くの障壁が存在します。日本で子どもの意見が取り上げにくい環境が存在する要因には、歴史的背景や社会的な価値観、制度上の問題が複雑に絡み合っていると考えられます。子どもが意見を表明することを阻む要因や背景について考えたいと思います。
【子どもの意見が取り上げにくい環境の背景】
まず、日本では長らく「年長者を敬い、年少者は従う」という伝統的な価値観が根付いており、家庭や教育の場でもこの考え方が色濃く残っています。これは、儒教的な影響を受けていることが一因です。この文化の中では、大人が子どもの意見に耳を傾けるよりも、大人が子どもを指導し、従わせることが重視されがちです。さらに、学校では集団行動を重視し、個人の意見や異なる考えを表明することが敬遠されることもあります。このような文化背景は、子どもが意見を表明しにくい雰囲気を生み出していると考えられます。
また、日本社会では子どもを「未熟な存在」として捉える見方も根強くあります。子どもはまだ成長途中であり、物事を判断するには不十分であると見られがちです。このため、家庭や教育現場においても、意思決定は大人が行うべきであり、子どもはそれに従うべきだという考え方が一般的です。この見方は、子どもの意見を表明する機会を減らし、自己表現や自己決定の発達を妨げる要因となっています。
【教育システムと学校文化が与える影響】
日本の教育システムと学校文化は、子どもたちの意見表明に大きな影響を与えています。現在、様々な変化や新たな取り組みはあるにせよ、多くの学校では規律を重視し、画一的な教育が行われています。教師が主導する授業形式が中心であるため、子どもたちが授業内で自由に意見を交換したり発言したりする機会が限られている場面も少なくありません。また、集団行動を大切にする文化や厳格な校則の存在により、異なる意見を述べることに心理的なハードルを感じることもあるようです。これらは、協調性や秩序を守る大切さを学ぶ一方で、自由な発想や自己表現が十分に育まれない一因となる可能性があります。
こうした背景の中で、教育現場では新しい取り組みが求められています。例えば、討論型授業を導入したり、校則を柔軟に見直すことで、子どもたちが自分の意見を安心して述べられる環境を整えることができます。また、教師が一方的に教えるだけでなく、子どもたちの意見や考えを引き出すファシリテーターとしての役割を担うことで、より豊かな学びが実現するでしょう。
教育の場が「正解」を求める一方通行の学びから、「多様性」や「自己表現」を重視した双方向の学びへと変わることで、子どもたちの自己肯定感や主体性がより一層育まれることが期待されます。こうした変化を通じて、子どもたち一人ひとりの個性や可能性が最大限に活かされると考えています。
【子どもの権利意識と福祉現場の課題】
子どもの権利に対する認識不足という視点をまず考えたいと思います。日本では、1994年に子どもの権利条約が批准され、子どもの意見を尊重する重要性が国際的にも認められました。しかし、実際の社会では、子どもの権利意識が十分に浸透しているとは言えない現状があります。「子どもは大人が守り導くべき存在」という考えが依然として根強く、子どもの意見よりも大人の判断が優先される場面が多いのが実情です。
たとえ子どもの意見表明の場が設けられていても、その意見が実際の運営や方針に反映されることが少ない場合、子どもたちは「自分の意見は重要ではない」と感じるようになります。このような状況では、子どもたちが意見を述べる価値や意義を見いだせず、自己表現への意欲を失うことにもつながります。子どもの声を真剣に受け止め、社会全体でその意見を尊重する姿勢が必要です。
続いて、児童福祉施設や福祉現場におけるリソース不足という視点では、日々の業務が多忙であることや人手不足が課題となっており、個々の子どもの声に耳を傾ける時間が十分に確保できないことが少なくありません。例えば、個別面談や意見を反映するためのフィードバックの時間が取れない場合、子どもたちが安心して意見を述べる場が限られてしまいます。
さらに、意見表明等支援事業に必要な人的リソースや予算が不足しているため、子どもが意見を自由に表明できる環境を提供することが難しいケースもあります。このような状況では、子どもたちが自分の考えや気持ちを表現する機会を失いがちであり、彼らの意見が社会に反映される可能性も低下してしまいます。
【家庭や社会全体のプレッシャーと価値観】
家庭や社会全体からの期待やプレッシャーは、子どもが自分の意見を表明することを妨げる大きな要因の一つです。日本では、子どもに対して「将来のために努力すること」や「家族や社会のために自己犠牲を払うこと」が求められる傾向があります。この価値観は、子どもの成長や成功を願う大人の善意に基づいている場合が多いものの、結果として子どもの個性や自由な意見が制約されることにつながる場合があります。
たとえば、親が子どもの将来に対して強い期待を抱き、それを学業や進路の選択に優先してしまうケースがよく見られます。親が子どもの夢や希望よりも「安定した職業」や「高い学歴」を重視することで、子どもが自分の意見を述べることに諦めを感じたり、「親の期待に応えることが最優先だ」と考えたりするようになります。その結果、子どもは自分の気持ちや意見を押し殺し、自分自身の選択をする機会を失ってしまうことがあります。
また、社会全体でも「他人と違う行動を取らないこと」や「周囲と調和を保つこと」が良しとされる価値観が根付いています。これにより、子どもたちは「自分の意見を述べることで波風を立ててはいけない」という意識を持つようになり、主体的な意見表明が難しくなっている場合があります。
このような家庭や社会の価値観は、子どもに努力や協調の重要性を教える一方で、自由な自己表現や主体性を育む場を制約する要因にもなり得ます。子どもが自分の意見や気持ちを自由に話すことができる環境を整えるためには、大人が子どもの声に耳を傾け、子ども一人ひとりの希望や個性を尊重する姿勢を持つことが不可欠です。家庭や社会全体で「期待する」だけでなく、「子ども自身が考え、決定する」ことを見守る文化を育てていくことが求められています。
【子どもの意見表明を阻む課題と向き合うために】
日本社会で子どもの意見が十分に取り上げられにくい現状を改善するためには、こうした課題と正面から向き合い、具体的な対策を講じることが必要不可欠です。そのためには、子どもを単に「未熟な存在」としてではなく、意見を表明する権利を持つ一人の個人として尊重する視点が求められます。すなわち、子どもの声を「軽んじるべきもの」ではなく、「尊重すべきもの」として位置づけ、大人が積極的に耳を傾ける姿勢を持つことが重要です。
また、支援者や教育現場の職員が、子どもとの信頼関係を築くためのスキルを磨くことも欠かせません。子どもの意見を引き出し、その声を適切に受け止めるには、支援者自身のコミュニケーション能力の向上が必要です。具体的には、評価や判断をせずに子どもの言葉を受け止める姿勢や、非言語的なメッセージを読み取るスキルを養うことが求められます。これにより、子どもたちは「自分の意見が大切にされている」という実感を持ちやすくなり、自己表現への意欲が高まります。
さらに、子どもの意見を単に聞くだけで終わらせるのではなく、それを具体的な行動や支援に反映することが大切です。例えば、学校や福祉施設での運営方針や支援計画に子どもの意見を取り入れることによって、子どもたちは「自分の意見が実際に役立っている」と感じられるでしょう。このような経験は、子どもたちの自己決定力を育てるだけでなく、自己肯定感の向上にもつながります。自己肯定感が高まることで、子どもたちは将来、自分の意見を持ち、自信を持って行動する力を身につけることができるのです。
意見表明等支援事業は、こうした環境を整備するための重要な取り組みです。この事業を通じて、子どもたちが安心して自分の意見を表現できる場を提供することは、彼らの成長を支えるだけでなく、日本社会全体の活力を高めることにもつながります。子ども一人ひとりの声が大切にされる社会を築くことは、未来に向けた持続可能な社会の実現に寄与する重要なステップとなるでしょう。
【こどもの声を尊重する新しい仕組み】シリーズはこちらからご覧になれます。
【こどもの声を尊重する新しい仕組み】①こどもの意見聴取等措置の意義
【こどもの声を尊重する新しい仕組み】②意見表明等支援員の役割と意義
【こどもの声を尊重する新しい仕組み】③子どもの権利条約を基盤とした海外の取り組み
【こどもの声を尊重する新しい仕組み】④子どもの意見表明を阻む課題と向き合うために
社会生活の変革という過渡期での不安やストレスは、さまざまな形で表出されることがあります。また、被災地の皆さまにとっては日々変化を遂げる環境の中で、ご心配を抱えた状況の方がいらっしゃることと思います。心身の安全最優先でお過ごしいただければと願います。ポジティブな考えを持つきっかけとして、そして安心・安全な人との関わりを通して生きる力を養うサポートもカウンセリングの一側面とも考えています。子育てやこどもの抱える不安やストレスに関してのご相談もお受けしております。
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