2024年度より、メンタルトレーニングの新たな取り組みとして、メンタルトレーナの森下が、様々な業界のプロフェッショナルの方々に、メンタルとの向き合い方や在り方等について取材しております。
読者の皆様が、プロフェッショナルの方たちの考え方や行動を知ることで、成長への気づきや、成功のヒント。そして、道を究めた方たちも“同じ人間なんだ”と、身近に感じて頂き、親近感や「自分もできるかもしれない」といったチャレンジ精神の芽生えなどに繋がることができましたら、大変嬉しく思います。
第4回目の“プロフェッショナル”は、株式会社ライフアドバンテージの後藤浩之社長にお伺いしました。
後藤浩之(ごとう・ひろし)
株式会社ライフアドバンテージ代表取締役。
1977年、東京都生まれ。
甲子園出場常連校・埼玉浦和学院の野球部に入るが腰を痛め退部。その高校時代に湘南やハワイで体験したサーフィンにハマる。大学時代にはアメリカ(カリフォルニア・ハワイ)やオーストラリア、スリランカ、台湾をはじめ様々な国でサーフィンをするほか、他のスポーツにも勤しみ、スポーツを通して多くの人脈を構築するなど、社会人としての礎を築く。
2011年1月、外資系金融会社を経て、株式会社ライフアドバンテージを設立。コンサルティングや資産管理など金融にかかわる様々な業務を請け負う。
行動心理学に関する講演依頼も多く、千葉工業大学や武蔵野大学のほか、小学校やJC(青年会議所)などで多数の講演を行っている。
また、自身が作詞作曲した曲がiTunesポップアルバムチャートで20位を獲得するなど、複数業を行う「多動ワーカー」を自負している。
現在は出社前にサーフィンを行い、日中に時間をつくりトレーニングジムに通うなど、ビジネスパーソンとして活躍しながらも、スポーツにも多くの時間を費やす。
著書に『中古住宅の本当にかしこい買い方』(日本実業出版社)がある。

逆境を乗り越えた心理学との出会い
(森下)
本日は貴重なお時間をいただきありがとうございます。まずは改めて、後藤社長が普段どのような活動をされているのかお聞かせいただけますか。
(後藤)
現在は税務と財務のコンサルティングを行っています。ただ、普通に営業しても面白くないので、ランボルギーニの助手席でコンサルティングをしているんです。これは日本で唯一、特許を取得しています。
(森下)
ランボルギーニ!それはインパクトがありますね。
(後藤)
もともとは知人が「フェラーリコンサル」をしていたんです。その方は税務や財務の専門家ではなく、セミナー講師として活動していましたが、集客や教育用のコース作りに負担を感じていたそうです。そこでフェラーリを活用し、移動中や会食を通して「丸一日ノウハウを伝える」という形に移行されたのです。
その姿を見て「じゃあ君がフェラーリなら、僕はランボルギーニかな」と思い立ち、すぐに特許を取りました。以来、「ランボルギーニの人ですね」と覚えていただける機会が増え、インパクトの強さを実感しています。
(森下)
確かに一度聞いたら忘れられませんね。
(後藤)
最初はよく「車屋さんですか?」と聞かれます。「違います」と答えるのがお決まりです(笑)。このような形でランボルギーニの中で税務・財務コンサルティングを行い、さらに元国税のメンバーともパートナーシップを組んでいます。
(森下)
もともとスーパーカーがお好きだったのですか?
(後藤)
はい。私は現在48歳ですが、小学生の頃はちょうどスーパーカーブームでした。下敷きや筆箱などの文房具にスーパーカーがデザインされていて、ずっと憧れていたんです。一度は乗ってみたいと思っていました。
(森下)
まさに男のロマンですね。とてもかっこいいと思います。
その中でビジネスをされながら心理学も深く学ばれていると伺いました。もともとの出会いはどのようなきっかけだったのでしょうか。
(後藤)
当時は保険と証券のライセンスを持っており、それに基づいた商品を販売していました。ただ、まったく売れず、資金繰りに苦労する時期があったんです。金融の仕事をしているにもかかわらず、街中の消費者金融でお金を借りることもありました。その頃に出会ったのが販売心理学で、そこから心理学を深めるようになりました。
(森下)
なるほど。仕事の中で心理学に出逢われたのですね。当時のメンタルコントロールやモチベーションの保ち方についても教えていただけますか。
(後藤)
自分の性格を振り返ると、論理型と感情型のうち、比較的女性に多いといわれる「感情型」でした。経営者の方々は論理的思考が多いにもかかわらず、私は世間話ばかりしていたんです。気を使っているつもりでも、相手からすれば「結論は何なのか」が見えず、理解されなかったのだと思います。心理学を学び、数字や論理を交えて話すようになってから、少しずつ成果が出るようになりました。
また、心理学では「なぜイライラするのか」「なぜ不安なのか」を可視化できます。それを自分で分析して納得した上で次に進むことで、落ち着いて客観的に自分を見られるようになりました。
(森下)
ご自身の感情や思考を可視化・言語化することで心と向き合えるようになったのですね。それがターニングポイントになったということですね。
(後藤)
おっしゃる通りです。
(森下)
スポーツ選手にとって、自分の気持ちや思考を言語化し、可視化することは非常に重要です。私自身もその点を意識してサポートしています。プロになればなるほどプレッシャーのかかる局面が増えますが、その時に「自分が今どんな感情で、どんな思考をしているのか」を書き出し、言語化することで再現性が高まります。改善点をしっかり理解していないと、次の試合やレースに臨んでも結果につながらないのです。
(後藤)
心理学に興味を持つ者として、さらに付け加えてお話させてください。人にはそれぞれのパターンがあり、その違いによって癖やストレスの出やすさ、ポジティブな思考の傾向などが分かれますよね。
イチロー選手も「ルーティンの中で自分の基準を持つことが大切だ」とよく語っています。同じルーティンを繰り返すことは退屈だと思われがちですが、むしろそれによって「今日の調子」が分かるのです。可能な限り数値化できるレベルまで持っていくことは、プロ選手に共通している部分だと感じます。
ただ、その中でも大谷翔平選手やウサイン・ボルト選手のように、データやルーティンでは説明できないほど超越した存在もいます。そうした人たちはまさに「逸材」と呼べる存在ですね(笑)。
(森下)
特にスポーツの場合は「無意識でプレーする」ことが求められる場面が多いため、いかに無意識に良いパターンを作るかが非常に大切だと思います。


※「ルーティン」について補足
トップアスリートはそれぞれ自分なりのルーティンを持っています。本文に登場した元プロ野球選手のイチローさんも、打席に入る前に必ず行う一連の動作がありました。プレッシャーや不安で緊張が高まる場面でも、いつも行っている「プリ・パフォーマンス・ルーティン」を実践することで「いつも通り」の状態を意図的に作り出し、平常心でプレーできるようにしていたのです。
私たちの日常生活にもルーティンはあります。朝起きてから出かけるまでの流れや、お風呂で体を洗う順番、靴を履く時にどちらの足から履くかなどもその一つです。逆に、いつものルーティンが崩れると心が「いつも通り」と感じられず、落ち着かずソワソワしてしまいます。試しに、今日のお風呂でいつもと違う順番で体を洗ってみてください。違和感だらけで落ち着かないはずです。
無意識に行っているルーティンを意識的に行うことで、平常心を作り出すことができます。また、ルーティンを習慣化に結びつけることも可能です。「これをやったら仕事モードに入る」といった流れを作ることができれば、面倒に感じることややりたくないこともスムーズに取り組めるようになります。
私自身も、コーヒーを淹れてから読書やYouTubeで情報収集をし、その後に仕事を始めるというルーティンを実践しています。
結果で一喜一憂しないためのルーティン
(森下)
心理学との出会いから、ご自身もビジネスも良い方向に展開されたとのことですが、それを広めていこうと思われたのはなぜでしょうか。
(後藤)
そうですね。自分自身が学んできた心理学に助けられた部分が大きく、「同じような思いを持つ人がいるのでは」と感じたことがきっかけです。世の中すべての人を助けることはできませんが、自分が関わる一人でも多くの人に対して、何かサポートができればと思っています。
(森下)
金融業界には、プレッシャーを感じやすく、感情がジェットコースターのように一喜一憂するイメージを持っています。セルフコントロールやストレスマネジメントの重要性が高い印象ですが、実際に「金融」と「メンタル」の関係は大きいのでしょうか。
(後藤)
確かにそうですね。例えば相場に関わるような投資では、皆さん一喜一憂します。これはスポーツと似ているかもしれません。経験が浅いうちはメンタルが揺れやすいですが、実際の数字は変わっていない。それにもかかわらず心が乱れる。だからこそ、自分を冷静に客観視できるかどうか、自分のパターンや癖を理解できているかが重要になります。
論理的な人ほど冷静に見える一方で、沸点に達すると普段とは違う行動をとってしまい、予期せぬ結果を招くこともあります。感情的な人は数字に惑わされやすいですが、「金融の世界はそういうものだ」と理解していただくようにしています。過去のデータを一緒に確認し、大きな乱高下があった際にどのような状況だったかを分析・説明し、今後も起こり得るリスクへの意識づけを行います。ただし、やはり最終的に学びが深まるのは「実体験」です。自ら経験することが一番大切だと思います。
(森下)
なるほど。経験を積み重ねていくことが大切なのですね。野球でも「1打席で必ずホームランを打て」と言われたら大きなプレッシャーです。
(後藤)
そうですね。野球に例えると、打率3割や4割であれば優秀なバッターですが、裏を返せば6〜7割は失敗しているわけです。その点を冷静に受け止められる人はうまくいきます。結局のところ何事も、打席に立つ回数がとにかく大切です。
(森下)
打席に立つ回数を増やせば成功の数も増えますが、同時に失敗の数も増えます。失敗が重なった時にモチベーションを保つのは難しいと思います。後藤社長ご自身は、うまくいかない時にセルフコントロールのために意識されていることはありますか。
(後藤)
私は感情に左右されやすいので、“習慣化”することを意識しています。たとえば「月曜日の朝から遊ぶ」という習慣です。人は余裕やエネルギーがないと他人を支えることもできません。まずは自分自身を満たすことが大切です。ガソリンが空っぽでは車は走れないのと同じで、自分の充電を優先するようにしています。
私の場合、夏には日曜日の夕方に海に行き、サーフィンをします。翌朝は4時に起きて再びサーフィンをし、6時に海から上がってシャワーを浴び、9時には東京に戻る。そうするとエネルギーが湧いてきます。途中で眠くなるのでお昼には30分ほど車で仮眠しますが、それでも午後の時間は十分に残っていて、一日がとても長く感じられます。
(森下)
月曜の朝から「楽しい」と感じられるのは素敵ですね。身体は程よい疲労感、心は充実感、理想的な状態です。
(後藤)
そうなんです。ただ、そんな充実したルーティンを行なっている際でも、うまくいかない場合には、呼吸が浅くなっていることが多いので、そんな時は走って深い呼吸を意識します。モチベーションが落ちている時やメンタルの循環が悪い時には、とにかく走ります。走れない時は歩くようにします。マイナスのスパイラルに陥った時は「物理的に環境を変えること」を意識し、外に出る。散歩をすると気持ちが落ち着き、酸素を取り込むせいか良いアイデアが浮かぶこともあります。
(森下)
マイナスの出来事や不快な感情に直面した時こそ、心にガソリンを入れて切り替えることが大事なんですね。
(後藤)
はい。月曜日を楽しめる人は良いですが、多くの人はそうではなく、金曜日にようやくモチベーションが上がる人もいます。だからこそ「金曜日のモチベーションを月曜日に持ってくる」ことを意識しています。
(森下)
僕も参考にさせていただきます。アスリートに練習の流れをアドバイスする際も、最初は得意な練習や楽しい練習から始めます。その後に課題や苦手な練習を入れ、最後は再び好きな練習で終える。こうすることで良いイメージを持ったまま練習を終えられ、モチベーションも高まります。
(後藤)
それをもっと早く知っていれば、もう少し偏差値の高い学校に行けたかもしれません(笑)。私は勉強があまり好きではなかったので…。勉強が得意な人は、今おっしゃったように「好きなことから始める」習慣があるようですね。私の場合、気分が乗らない時は音楽を聴いたり外に出たりして気持ちを整えるようにしています。
(森下)
「気持ちが乗らない」というのは、心が何かしらのサインを出している証拠ですからね。
(後藤)
人によって違うと思いますが、私の場合は外に出て太陽を浴び、深呼吸をする。そうすることで自然と視野が広がり、背筋が伸び、心持ちも変わります。
(小高)
私は気持ちが沈んでいる時は、YouTubeで映像を観たり好きな音楽を聴きます。特に雨の日が好きで、雨音を聴いていると癒され、心が浄化されるように感じるんです。雨音の映像やヒーリングミュージックを流し、森林や湖畔、様々な世界都市の風景などを妄想しながらリラックスしています。妄想でも自分を客観視できると「自分ってちっぽけだな」と思え、心の疲労感から解放されます。
外に出て犬の散歩やウォーキングをするのも気分転換になります。そういえば、後藤社長が出版された「出来る社長はなぜ、アスリート化するのか」にも書かれていましたが、経営者は体を動かすのが好きな人が多いと感じますね。
(後藤)
著書に「体を動かすと良い」と書いているのに、自分自身が忘れてしまうこともあります(笑)。そんな時は読み返して律しています。最近はWANIMAの「やってみよう」という曲を聴き、それを合図に行動を始めています。呼吸も大切にしていて、「吸う」より「吐く」ことを意識しています。赤ちゃんも泣きながら自然に呼吸できるのは、吐けるから吸えるのだと考えるようになりました。
(森下)
メンタルトレーニングにも「リラクセーション」というスキルがあります。理想的な心理状態=ゾーンに入るために「リラクセーション(心のストレッチ)」と「サイキングアップ(心のウォーミングアップ)」を組み合わせます。その一つが呼吸法です。緊張時は呼吸が浅くなりがちで、無理に吸おうとすると過呼吸になることもあるので、まず「吐く」ことを意識してもらいます。
音楽も効果的で、勝利後のミーティングでBGMを流し、その音楽と勝利のイメージを結び付け、本番前に流して気持ちを整えるという方法を実践していました。
(後藤)
私は大きな仕事が受注できた時に毎回同じ寿司屋に行くルーティンがありました。残念ながらそのお店は閉店してしまいましたが…。
(森下)
好きなお店に行くというのも良いですね。心が喜ぶルーティンを持つことは効果的だと思います。
(後藤)
「なんとなく気分が良い・悪い」ではなく、意識的に気持ちを作り込む仕組みを持つことは、とても有意義で効率的だと感じています。


「自分ならできる!」という自己効力感を高めるためには、小さな成功(クイックウィン)を積み重ねることが大切です。小さな成功を積み重ねるには小さなチャレンジが必要であり、その過程で失敗する可能性も当然あります。成功しかないものは「チャレンジ」とは呼びません。
イチロー選手でさえ打率は3割台、つまり7割は失敗です。発明王エジソンも白熱電球を生み出すまでに1万回以上の失敗を重ねたといわれています。偉大な功績の裏には必ず多くの失敗があるのです。失敗はチャレンジの証拠。だからこそ自分や周囲が失敗した時は、それを責めるのではなく「よく挑戦した」と褒めてあげることが大切です。
前編まとめ
今回、後藤社長のお話を伺い強く感じたのは「ご自身を理解している」ということです。自分を客観視し、受け入れるのは簡単ではありませんが、それを実践されている姿勢から「アスリート精神」を感じました。
読者の皆さんも、自分がどんなことで気持ちが高まり、モチベーションが上がるのかを意識し、ぜひご自身なりのパターンを探ってみてください。
後編では「自分を受け入れるために必要なこと」「幸せとは何か」「理想のセルフイメージの作り方」についてお伺いします。12月に公開予定です。ぜひお楽しみに!
《お知らせ》
▶オンラインカウンセリング(メンタルトレーニング、コーチング)
どうぞ、ご利用ください。詳細はこちらをご覧ください。

▶弊社監修「ユーキャン・心理カウンセリング講座」
受講生様からの講座内容に関するご質問へ私どもがご回答をしております。
私たちとご一緒に、学びを深めて参りましょう!

▶新刊『本当の自分を見失いかけている人に知ってほしい インポスター症候群』
その苦しさ、自信のなさ、不安…インポスター症候群だからかもしれません
SNS全盛の今の時代、心穏やかに過ごすために知っておくべきインポスター症候群を徹底解説
2024年9月に韓国版・出版開始いたしました!
