COLUMNコラム

【プロフェッショナルから学ぶメンタルトレーニング ②】野球から学んだ継続力・チャレンジ精神|元プロ野球選手・岡本篤志さん 前編

今年度から、メンタルトレーニングの新たな取り組みとして、メンタルトレーナの森下が、様々な業界のプロフェッショナルの方々に、メンタルとの向き合い方や在り方等について取材してまいります。

読者の皆様が、プロフェッショナルの方たちの考え方や行動を知ることで、成長への気づきや、成功のヒント。そして、道を究めた方たちも“同じ人間なんだ”と、身近に感じて頂き、親近感や「自分もできるかもしれない」といったチャレンジ精神の芽生えなどに繋がることができましたら、大変嬉しく思います。

第2回目の“プロフェッショナル”は、元プロ野球選手で現在は経営者岡本篤志さんにお話をうかがいました。

岡本篤志(元・プロ野球選手/経営者)
1981年生まれ。三重県出身。小学校3年の時から野球をはじめる。中学校時代は学校の野球部に所属。高校は県内強豪校の海星高等学校に進学し、2年生の夏、エースとして甲子園に出場。翌年の春の選抜大会にも出場。その後明治大学に進学。東京六大学リーグ戦通算で48試合に登板し12勝という成績を残した。
2003年ドラフト会議で西武ライオンズ(当時)入団。1年目の2004年に一軍公式戦10試合に登板するなど、主に中継ぎ投手として通算13年間活躍し2016年現役を引退。
2018年に株式会社L.M.Kを設立し、大学野球部の学生をメインに体育会系人材のキャリアコーチング、キャリア支援 (アスリートマインドで活躍できる人材輩出) 日本在住の外国人エンジニアの転職・就職支援事業を行っている。
株式会社L.M.K:https://l-m-k.co.jp/


メンタルトレーニングとの関わり

(森下)
現役時代のメンタルトレーニングとの関わりについて話を聞かせてください。

(岡本)
学生の時は、メンタルトレーニングかわからないんですけど3ヶ月に1回くらいトレーナーの方がいらしてました。先輩たちの時代からの流れでやっていたので、何に効果的なのか?意図を理解していなかったことが率直な意見です。
ただ、実際のところ高校生の時は練習中は「水飲むな」と、コーチに言われるような時代だったので、メンタルトレーニングをしていたわけではなかったですけど、精神的な強さは必然的に学んできたと思います。

(森下)
昔ながらの“忍耐力”的なところでしょうか。

(岡本)
そうですね。チームとしてメンタルトレーニングをやり出したのはライオンズに入ってからですかね。キャンプ中に宿舎から球場までの移動が10分〜15分あるんですけど、そのバスの中で(トレーナーの方の指導のもと)1日の目標を目を瞑って確認するみたいなことを毎日やってましたね。
ちゃんとやってる選手もいれば、やってない選手もいました。僕自身は1対1という形でメンタルトレーニングをしたことはありませんでした。

(森下)
チームとしてはやっていたけど、個人的にはやったことはないということですね。

(岡本)
チームとしても、元々ライオンズでサポート契約をしていたメンタルトレーナーの方がいた期間だけで、ライオンズに入ってから3年目、4年目くらいだったかと思います。
ただ、トレーナーの方はシーズン中にもちょこちょこ来ていて、面談という形ではなかったですけど、話しかけてきてくれたりはしてました。

(森下)
その期間の中でご自身にとって変化や成長はあったりましたか?

(岡本)
そのメンタルトレーナーの先生はよく「極度の集中状態に入れていたね」と、試合で投げた次の日とかはアドバイスやメッセージをいただいていました。
「極度の集中状態」「集中力が高まりパフォーマンスが発揮できる」所謂“ゾーン”という状態は、僕らのようなスポーツをやっている人間は備わっている感覚でもありますので、そういった意味では、言語化され、自分なりに理解しやすくなったというのはあります。


プレッシャーとの向き合い方、気持ちの切り替え方

(森下)
プレーをしていく中で、良いパフォーマンスの日もあれば、悪いパフォーマンスの時もあったかと思いますが、メンタルによってパフォーマンスが変わる経験はされましたか?

(岡本)
これがメンタルトレーニングの影響かというのはわからないんですけど、2ストライク3ボールになった時に普段のシーズン中であればそこまでプレッシャーは感じないんですけど、ポストシーズンみたいなクライマックスシリーズとかの、ランナーを出したくない状況では感じたりします。
以前、2アウト取って、バッターが当時ソフトバンクの内川選手だったんです。素晴らしいバッターですが、フォアボールを出してしまうと次は4番バッターに回っていくので一発を警戒しなくてはいけなくなりますし、かつ僅差で勝ってる試合だったのでここで勝負をしなければいけない状況でした。
なので「打てるもんなら打ってみろ」みたいな気持ちでど真ん中に真っ直ぐ投げました。いい当たりはされたんですけど、フェンスの手前で捕ったので、その時は自分の気持ちが勝ったなと感じました。そういう経験はよくありましたね。

(森下)
強気で打たれることを恐れずに挑んだ結果、そういう形に繋がったんですね。
そういう場面ってかなりのプレッシャーだと思うんですけど、プレッシャーとはどのように向き合っていたんでしょうか?

(岡本)
そうですね、その試合も1点差とか2点差でリードしていた試合の終盤7回とかだったと思います。先発が投げていたものを崩すわけにはいかないし、打たれたらチームの負けに直結してしまうし、次のバッターがホームランを打つバッターだったので、内川選手で勝負しなければいけない。正直その時は「どうにでもなれ」という気持ちですよね。
中継ぎなのでマウンドで毎日準備しますし、年間50試合60試合投げる中で、身体もメンタルもいい状態、何投げても打たれないと思える時って年間で1試合あるかないかなんですよ。常に良い状態で試合に臨めるわけではないので、どうしようもなくストライクが入らない日もあるわけで。それは体のメカニックの問題だけでなく、精神的なものの問題もあって、メカニックの部分をたった1イニングで修正するのは至難の業なんですよ。その代わりメンタル的な部分は取り除きたいなという思いはあったので、良い状態でない時は僕の場合はもう諦めてたんですよ、その日を。
流石にクライマックスシリーズとか日本シリーズとかになったら諦められないんですけど、普段のシーズン中は何点取られようがいいやって。
試合を諦めるというよりは、いったん自分が投げている場面は諦めようと思って、そうするとふっと気持ちが楽になるんです。ストライク入る入らないことばかり考えてしまうと余計に入らなくなるし、気持ちが先行してしまってさらに投球動作のメカニックも崩れていくので諦めるということを覚えました。

(森下)
なるほど、「諦める」っていうワードってネガティブなイメージがありますけど、岡本さんの中ではそうではないようですね。

(岡本)
そうですね、僕にとっては“ポジティブな諦め”ですね。

(森下)
何かを捨てることによって何か一つに集中できるという感じですかね。

(岡本)
オリンピックとかの一回勝負と違って、次の日にミスを取り戻そうと思えば取り戻せるんですよ。実際に次の日も投げるかどうかはその時になってみないとわからないですけど、それでも取り戻すチャンスは2、3日中にあると思うからこそ諦められる部分もあったと思います。そのあたりはやってるスポーツによって違うとは思います。

(森下)
その試合でうまくいかなかったとしても、次の試合に繋げるためにどうすればいいかを意識されていたんですね。

(岡本)
そうですね、次もミスしてしまうと、今のポジションが奪われてしまうかもしれないですし、2軍に落とされてしまう可能性もあるので、次の登板は切り替えて集中してやらないと、その次はないという気持ちでマウンドに上がっていましたね。

(森下)
基本的に中継ぎ、抑えのピッチャーってピンチの場面や流れを断ち切りたい場面で登板するイメージがありますが、その場面で出てくるのは自分の中でプレッシャーはあったりしたんですか?

(岡本)
前の人が出したランナーなので、その場合は僕が打たれたとしても自責にならないんですよ。なので数字的なところでの評価はされないんです。
絶対0点で押さえてやろうと思ってしまうと、かえってうまくいかないサイクルになってしまうので、自分が出したランナーじゃないんで別にどうでもいいやって、それくらい割り切っていかないと。2011年に前の人が出したノーアウト満塁を3回行って3回とも0点で抑えたことがあったんですよ。ノーアウト満塁なのでデッドボール1回当てただけで1点の場面なので、1球で1点とられる可能性もあるんですけど、常にその場面を「自分のランナーじゃないからどうでもいいや」って思って投げてましたし、そういう場面で抑えたらかっこいいなって思うし、抑えたら監督、コーチやファンからめちゃくちゃ評価されるなって。だから楽しもうって気持ちでマウンドに上がってましたね。

(森下)
いいイメージを持てていたってことですかね。

(岡本)
ブルペンにいる時は「嫌やな」って思ったりもするんですよ。でもブルペンから一歩出た時にスパッと切り替えるスイッチは結構あったと思います。

(森下)
それは自然に切り替わるんですか?それとも自分の中でルーティンのようなものを持っていたんですか?

(岡本)
僕はそんなにすごいボールを投げれる訳でもないですし、身長や身体が大きいわけでもないので、相手に「舐められたらあかんな」と思ったんですよ。なので表情だけは作っていってましたね。
例えば、その日は気持ちが全く乗ってなくて、自分の実力の50%くらいしか出せないなと思っていても、顔だけは100%の表情を意識していましたね。

(森下)
メンタルトレーニングの世界的権威でマリナーズなどのサポートもしていたケン・ラビザ博士がよく「ヘッズ・アップ」という言葉を使っていたんです。それがまさに自信のある表情、態度を作るという意味合いなんですよね。打たれた後も「ヘッズ・アップ」で気持ちを切り替えるということをテクニックとして指導していたんです。

(岡本)
人間なので、常に完璧な状態ではないと思いますから、打たれることもあるんです。僕が打たれて先発ピッチャーの勝ちを消してしまったとかは申し訳ないという気持ちはありますけど、その辺はお互い持ちつ持たれつだと思うので。
点を取られても僕らの場合は明日やってくるので、反省はしますし、映像とかもちゃんと見るんですけど、必ずその日の0時過ぎたら何も考えないようにしていました。

(森下)
そういう切り替えって大事ですよね。ただ、なかなか切り替えることができない人の方が多いような気がします。例えば、どのような意識で気持ちに切り替えをされていたのでしょうか。

(岡本)
そうですね。無理やり切り替えないと、どうしてもなかなか寝付けないんですよ。ナイターだと遠征先のホテルに22時頃に帰ってくるんですけど、自分が打たれた時って何も行動に移せないんですよ。ユニフォーム脱ぐのもしんどくて。食事もホテルで用意されるんで、気持ちを切り替えようとしていくんですけど、自分のせいで負けている時は気まずいので、早めに切り上げて部屋に戻って、チームから支給されているiPadで映像を見ながら、自分の頭の中で、あの時なんであんなボール投げたのかなとか回想したりしていました。ただ、0時を過ぎたあとは意識的に考えないように、あえてテレビを見るようにします。スポーツニュースを見ると自分の映像が出てくるので、無理やりバラエティとかを見てますね。そこから身体はまだ興奮しているのでゆっくりお風呂入ったり、切り替えているつもりではいました。


大事な場面では「結果」を求めるよりも「実力発揮」「全力を尽くす」ことに集中することがとても大切です。良いコンディションで自分の持っている全てを出し切ることが理想ではありますが、人間ですので疲れていたり、怪我を抱えていたりと毎日理想のコンディションで臨めることは当たり前ではありません。(もちろんそのための準備は必要ですが)

その中で自分の理想を出し切ることに意識が向きすぎてしまうと、思うようなパフォーマンスが出なかった時にモチベーションや集中が下り、悪循環のスパイラルに陥ってしまう可能性が高くなります。その時に大切なのが岡本選手もお話されていた「その日は気持ちが全く乗ってなくて、自分の実力の50%くらいしか出せないなと思っていても、顔だけは100%の表情を意識する」という考え方です。その日のコンディションの中でベストを尽くすこと、その状況や環境の中で今できる最善は何かを考えること。そこに集中できるようになればどんな場面でも大崩れはしなくなり、気持ちの切り替えもしやすくなるのです。


メンタルの強さとは

(森下)
お話を聞いてると、自然な流れでメンタルトレーニングを実践されてるのかなって思いました。現役の時にはメンタルトレーニングをしていなかったとおっしゃっていましたが、それに近いことを、自発的にされていたんですね。
ちなみに…岡本さんが思う、野球選手だけに関わらずこの選手メンタル強いなって選手はどなたかいらっしゃいますでしょうか。

(岡本)
今だったら大谷選手じゃないですか。野球以外の部分でトラブルがあっても野球に集中できてますからね。その上で成績も残しているんでそれは精神的に強い証拠だと思います。

(森下)
WBCの時の最後の勝負も記憶に新しいですよね。

(岡本)
僕はメンタル強い人って負けちゃダメな試合に負けないっていう人が多いと思います。松坂大輔さんもそうです。勝ちはしなかったとしても自分が登板している時には負けてない状態でバトンタッチができるんです。
普段の私生活とか普段のシーズンのピッチングとかはめちゃくちゃ強気でも、負けたらダメな試合に登板して負けてしまう選手はメンタル弱いなって思います。どこかで大舞台で活躍する人たちと何かが違うんだろなと感じます。その「何か」はわからないんですけど。

(森下)
ここぞと言う時に活躍できる選手ってメンタルが強い印象がありますよね。例えばサッカーでいえば本田圭佑選手とかもそうですよね。

(岡本)
そうですね。本田選手もそうですし、今で言えば堂安選手とかもそうですよね。僕はサッカーしたことないのでわからないですけど、堂安選手とかをテレビで見ていてゴール前で良いポジションにいるじゃないですか。これって技術とか経験もあると思うんですけど、精神的な要素も何か要因としてはあるんだろうなと。

(森下)
堂安選手も本田選手もPKの時に自分からボールを取りに行くじゃないですか。主張するのはすごいメンタリティだなと感じますね。頭では分かっていてもあそこまで堂々と行動できる選手ってそんなにいないなって思います。

(岡本)
そうですね。堂安選手なんかは相当メンタルが強いんだろうなって感じますね。


継続し続けること、まずやってみること

(森下)
現役を引退されてビジネスをしていく中で、現役時代に培ってきたメンタル面の強さが活かされているなって思うことはありますか?

(岡本)
“プロ野球”でというよりも、幼少期の頃から野球を始めて30年近く野球をやってきた中で、体力的にも、精神的にしんどかったりということも多々ありましたね。特に野球選手の時は1年1年が勝負なんで、戦力外っていう言葉の重荷を背負いながらプレーしていたんですけど、そういうところは精神的にはキツかったですし、心底野球を幼少期みたいに楽しめたかって言ったらそうじゃないと思うんです。
そういう中でやり続けるとか継続する、結果を伴わなくてもやり続けられる力っていうのは野球から学んだなと思います。自分が野球で経験してきたことっていうのは、ほぼ全て、一般の社会、仕事でも活かせるんじゃないかなと思います。

(森下)
うまくいかない時でも挫けず、諦めずに継続して来れたのは、今振り返るとどういったマインドだったのでしょうか?

(岡本)
僕の中で野球と仕事は別物で、野球に関しては幼少期から大好きでやってきて、それがあるからこそ継続できたっていうのはあります。今やっているビジネスが野球以上に好きかと言われるとそうじゃないと思います。笑
そこは結構ドライに考えていて、仕事をしないと“生活できない”とか“家族を養っていかなくてはいけない”とか、現実問題を考えたときに自分が選択肢の中で選んだこの仕事をやり続けるしかないなって思っています。もちろん結果が伴わないもしくは、伴うときと分かれますが、伴わない時の方がまだまだ多くて。その時の気持ちの切り替え方は野球から学びましたね。
自分のメンタル的にも精神的にもしんどい状況でしんどいなって思ったときに、僕は辞めるんですよ。例えばそれが昼間でも帰るんです。次の日とか1週間内で辞めた時間を補えばいいと思っているんで。
その日の精神状態と体の状態が100%じゃなくて50%であったとしても50%の中でベストを出すんですよ。それが出来ないと思った瞬間に辞めますね。

(森下)
それは自分の心の声にしっかり耳を傾けて、自分を受容し、理解されているってことですよね。

(岡本)
そうですね。なるべく自分のことは理解しようとしてますし、僕は“人材のプロ”なので自分のことを理解できていないと、他人のことは理解できないと思っています。その辺はスポーツから学んだことかと思います。

(森下)
確かに気持ちが乗らないとか、疲れてるときにだらだらやっても生産性はあがらないですからね。

(岡本)
そうなんですよ。生産性もよくないし、時間は時間で作れると思うんで。例えば9時から23時まで仕事していたとしてもそこに関しては苦じゃないんです。いつか必ず、その取り組みが自分に返ってくると思ってるので。早めに辞める時もあれば地道にやる時もある。帰っても必ずパソコンは持ってるので、家の中でもちょろっとやる時もありますし、そんな感じですかね。

(森下)
野球で学んだことが、自然な流れでビジネスでも活きているんですね。
野球に限らずなんですけど、これから世界を目指していくアスリートたちなど、これから何かを挑戦しようとしている人たちに、岡本さんの経験からこういうことやっておいたらいいよというようなアドバイスはありますか?

(岡本)
僕はやり続けるってことが一番大事なことだと思います。夢を叶えるために何年でこうなっておきたいっていう計画性を持って夢に向かってチャレンジしていく。
もちろん計画性を持っても計画は必ず潰れるので、その都度もう一回計画を立て直すこともそうです。
プロ野球選手になりたいっていう夢を持って野球を始めた選手は最初にプロに行けるチャンスがあるのって高校なんですよ。それが無理だったら今度は大学なんで、明確に期限がわかるんですよね。僕らは計画立てやすかったんですけど、一般の人は計画を立てるのが難しいのかなって思ったんです。夢を語るだけなら誰だってできるんです。それを実行に移せるか移せないか、実行に移した時に計画性があるものなのか。その計画に向かってやり続けられるメンタルなのかっていうところだと思います。
例えば35歳からプロ野球選手になりたいて思ってもそれはどう考えても難しいですが、一般の世界では何歳からでもチャレンジできますし、毎日チャレンジし続けていく力っていうのも必要だと思います。

(森下)
プラン、道筋を立てて行くってことですね。

(岡本)
必ず道はどんどん枝分かれしていって自分で選択していかなければならないので、自分の信じた道をいく、間違っていたとしても自分で修正する。計画性とやり続けること、やり続ける中で毎日がチャレンジというマインドは持っておいた方がいいんじゃないかなって。

(森下)
特にスタートした直後って知識も経験も少ないと思うので、プランを立てづらい部分もあるんですけど、そこを試行錯誤して行く中で精度を高めていけるといいですよね。

(岡本)
夢って誰が叶えてくれるわけじゃなく自分で叶えるしかないと思います。ただ、夢を叶えるための努力をせずにはじめから「協力してください」とお願いをしてくる人が多いと感じることがあります。その時点で自分で叶えようっていう気が僕からすると薄れてるんじゃないかなって思うんですよね。
まずは「自分一人で頑張ってここまでやります」それでもやり続けて「これ以上は自分だけだとダメだからお手伝いください」だったらわかるんですけど、やる前から協力してくださいは僕は違うなって思いますね。

(森下)
確かに。そういった行動や言動をしてしまうのは、失敗するのが怖かったり、否定をされたくないんでしょうね。

(岡本)
そうですね。でも失敗しないと何もわからないと思います。大きな失敗だろうが小さな失敗だろうが僕らって毎日失敗するんですよ。毎日失敗する可能性を毎日秘めているじゃないですか。成功すれば給料が上がるのでもちろん失敗したくないですけど、失敗から得る経験っていうのは成功するためには必要だと思います。野球選手で失敗しない人なんていないですから。

(森下)
そうですよね。そしたらみんな10割バッターとかになってしまいますよね。

(岡本)
イチローさんや大谷選手ですら3割で4割は打てていないですからね。7割は失敗してるんで。

(森下)
そう考えると失敗を恐れていたら何もチャレンジできませんね。

(岡本)
それを失敗と思うのか、成功の糧と思えるのかだと思います。


ランニングしている方を対象に継続できる人は継続できない人とどのような違いがあるのかを調べた研究があります。結論から言うと、継続できる人たちは「快適自己ペース」と呼ばれる自分が継続しやすいペースで取り組んでいたこと、そして、もうひとつは「自分の走りやすいフォーム」で走っていたということが明らかになりました。つまり自分のペースと自分のやり方を持っている人は継続しやすいということになります。これはランニングだけでなく全てのことに当てはまります。
継続するために必要なのは、まず自分自身を理解することです。自分は何のためにそれを取り組んでいるのか、自分のキャパシティを知ること、自分の長所を理解すること。自分を知り、自分のペースで進めていき、自分のやり方で「自分のハンドルを持っている」と実感できることです。継続力は瞬発力ではなく持久力なのです。


失敗を恐れない気持ち、糧にする勇気

(森下)
失敗って悪いものじゃないって気付いたのっていつくらいなのでしょうか?

(岡本)
野球してる時からそれは思っていましたね。失敗した時には悔しい気持ちは強いですけど、失敗から学ばない限りは自分の成長はないと思っています。失敗したから次は成功するために、例えば今年のシーズン失敗したなと思ったとしたら翌年成功させるために球種を1個マスターしようという考えになってくるんですよ。やっぱり失敗するからこそ自分がどんどん進化できると思うので、僕は失敗は絶対必要だなと思います。

(森下)
僕も育成年代のアスリートサポートもしていますが、失敗を恐れている選手が多いと感じます。もちろんできれば失敗したくないという気持ちはあるとは思いますが、必要以上に失敗を避けているように感じます。失敗から学べた経験が少ないのかなと思うんですよね。

(岡本)
失敗を恐れるということは、すでに自分の100%のパフォーマンスじゃないと思うんです。恐れてしまうと、一歩を踏み出せないというか、その人の成長はないんじゃないかなと思います。

(森下)
自分が失敗したと思った時にはそこから何を学ぶかに意識を切り替えているのでしょうか?

(岡本)
基本的に失敗したその時にはまだマウンドなので次の成長のことは考えられてはいないですけど、なんとか最小失点で抑えるという気持ちでは投げますよね。

(森下)
目標を下方修正するような感じですか?

(岡本)
そうです。

(森下)
試合が終わったら振り返りをして次に繋げるということですね。それの繰り返しですね。

(岡本)
そうだと思います。それがあるからこそ自分の成長に活かせると思います。ずっとうまくいきすぎて、いきなりとんでもない失敗に陥った場合は修正能力が育ってないから、自分で修正ができなくなるんですよね。もちろん一流選手は成功している中でも必ず考えてはいると思いますが。何も考えなくても、努力しなくてもプロに入るような選手はそれなりにポテンシャルを持っているとは思うんですけど、うまくいかない時にドツボにハマった時に出て来られなくなる、2軍に落とされて戻って来れない選手は何人も見てきましたね。
一般就職を目指している学生にも言うんですけど、会社に入って実際に働いてみて「ちょっと違うな」と思ったとしても、そこで結果を出すことが大切だと思います。自分が良しと思ってない仕事内容だったとしても、そこで結果を出すことによって経験値があがります。「会社は自分を成長させてくれる箱と思いなさい」とよく言うんです。箱からお金をもらいながらいろんなことを学べる、将来的に自分のやりたいことを見つけていける。その箱を重ねていってもいいですし、一つの箱の中で成長して行くでもいいんです。やりたいことってなかなか見つけられないと思うんですよ。特にずっと野球をやってきた人間だと。それだったら日本の市場の中で価値が高いようなスキルを学ばせてくれる企業を選んでいくのがいいと思いますね。

(森下)
視点を少しけるだけで、意識も変わりますね。。。捉え方一つですね。

(岡本)
そうだと思います。僕はそういう考えですし、自分もそうやってきたんで、それが正解だとは思ってないですけど、全て間違っているわけではないと思っています。失敗して学ぶっていうのは周りに学ばせてもらってるものだと思うので、そのバッターが打ってくれたから学べた、というマインドですね。

(森下)
全て自分の成長に繋げる考え方ですね。
そうしたマインドになるためにも、ミスをした時の親やコーチ、仲間といった周りの反応が、ミスに対しての考え方に大きく影響を与えますよね。

(岡本)
誰かがミスをした時にプレー以外でのミスは叩いたっていいとは思うんですけど、プレーに関してのミスは僕は違うと思うんです。“誹謗中傷”は不必要に人の心を傷つけるのでダメですが、“叱咤激励”はいいと思うんです。「これって怒られてはいるけど期待されてるんだな」って相手がそう思える言葉で伝える必要があると思います。それを「あんなところでなんでエラーすんだ」とか「お前のせいで負けたんだ」とかはただの誹謗中傷なので、その辺は違うなと思います。
例えば、大谷翔平が今ドジャースにいますけど、他の球団との試合をするときに、敵地のファンがブーイングするみたいなのがあるんです。これって大谷翔平が嫌いなんじゃなくて、違うチームも大谷選手に来て欲しかったのにドジャースに行ってしまったから、「なんで来てくれなかったんだよ!」の愛情のあるブーイングだと思うんですよね。これは大谷選手からしたらポジティブなブーイングなんですよね。アメリカってその辺しっかり棲み分けされていて、日本みたいにただ誹謗中傷するだけじゃなく、しっかりその辺を考えられている。元々そういう文化の背景もあるとは思いますね。

(森下)
リスペクトがしっかりある文化ですよね。

(岡本)
そうですね。日本はあまりそういった意識が低い傾向があると感じます。ただただ誹謗中傷を言うだけ。確かにリスペクトをされてるか、されてないかで全然違うと思います。

(森下)
業務のところについても同じことが言えますよね。

(岡本)
上司の文句を言う人っていっぱいいるんです。僕はその上司のことを知らないので、聞いてもなんのアドバイスも出来ないんですけど、聞いてる限りではお互いにリスペクトがないんだなと感じます。結局自分本位なので。それが嫌なのであれば辞めればいいんじゃないかなって思いますね。今の自分の能力で、同じ業界でも違う業界でも転職した時に、今と同じ対価をもらえるか試してみたらどうですかって。

(森下)
そうしたら今の環境がどれだけありがたいものなのかに気づけるかもしれないですよね。
新卒で入社して1回も出勤せずに辞めてしまう人もいる世の中で、自分がうまくいかないこと、思い通りにいかないことを周りのせいにしてしまう“他罰的”な人が増えていることも感じます。もちろん、新卒の方全員がそういうわけではなく、一部の方ではありますが。
その一部の方は会社を変えればなんとかなるとか、安易に会社を辞めてしまうため、その人の本質や問題に向き合うことができなければどこにいっても同じ問題にぶつかると思うんですよね。

(岡本)
自分でやりたいこととか、周りを自分の思うようにしたいと思うのであれば、もう独立した方がいいと思います。そこで苦労をして、学ぶ機会を設けること。
人間関係の悩みなんて仕方ないと思うんですよ。例えば200人、300人いる会社に入社した時に、同じ人生を歩んできた人たちは誰一人としていないじゃないですか。
その中で自分のポジションを見つけるべきだと思いますけど、それをやろうとしない人が多い傾向にあると感じます。深く周囲と関わらず、相手の良さや関係性を見出さずに周りのせいにして辞める人が多いことも事実です。上司との関係性に不満を抱く前に、その上司とちゃんと話しましたか?って話なんですよね。辞めるのはいいと思うんですけど、しっかり向き合わずに辞めるんだったらどこいってもまた同じ理由で辞めます。自分が変わらない限りは周りは変わってくれないし、会社は変わってくれない。自分がどんどん成長して変化をしていかないと世の中の変化にもついていけません。
それを転職する人たちにはよく言います。でもこの考え方はスポーツをしてきた人寄りの考え方だと思うので、スポーツ経験したことない若い人たちからすると多分理解できないと思います。僕はスポーツの世界にしかいなかったんで、全然人種が違う、国が違うくらい考え方が違うんですよね。僕らが言ってることが全然理解できなくてエージェントなのに精神論言わないで就職先見つけてくれればいいみたいな。こっちとしては企業に紹介をする責任もあるので、そういう人は紹介できないということもありますね。


多くの人が失敗に対してネガティブなイメージを持っています。例えば「自分の評価が下がる」「ダメというレッテルを貼られる」「恥ずかしい」「怒られる」といったものです。失敗に対してネガティブなイメージを持っている人は、失敗を恐れチャレンジをせず、周りの顔色を伺い、自分ができることや無難なことしかしなくなるのです。もしくはチャレンジを前にして不安やプレッシャーを必要以上に感じ、パフォーマンスを低下させてしまいます。
チャレンジには失敗はつきものです。必ずうまくいくと分かっていることはチャレンジではありません。失敗するかもしれないからチャレンジなのです。
世界的に活躍をしているプロフェッショナルたちはそれを十分に理解しており、失敗に対してポジティブなイメージを持っています。成長していくためには失敗が必要だということを理解しているんです。「天才」の代名詞であるエジソンは白熱電球を発明するまでに20,000回も失敗し、失敗をするたびに成功する可能性が上がったと考えていたそうです。
たくさん失敗をすることが成功(成長)への近道ということです。


前編まとめ

プロ野球選手ほどのプレッシャーは一般的にはないにしても、日常生活において多かれ少なかれプレッシャーのかかる状況や場面は誰しもあるはずです。
そうした中で、良い意味で諦めること(現実を受け入れて前を向くこと)、ミスから学んでいくこと、自分のペースで継続していくことが良いパフォーマンスを発揮していくことにもつながっていきます。
そしてスポーツに限らず、何かを一生懸命に取り組んだ経験や壁を乗り越えた経験がる人は、違う場面で壁にぶつかったとしても、「前に乗り越えたことがあるから今回もきっと大丈夫だろう」という自信を持って挑んでいくことができるのです。
プロ野球という限られた人しか立つことのできないステージで長年活躍してきた岡本さんだからこその説得力のあるお話でした。

後編の記事では、
今後のスポーツ界の発展に必要なことや、野球を通じて学んできたこと、セカンドキャリアなどについてお伺いしていきます。後編の記事は12月更新予定です。お楽しみに!


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