所属カウンセラーの水野です。
私のコラムでは、「大切な人との関係性をどのように築いていくか」について、日々の相談対応の中で感じていることや、自身の体験を振り返りながら、一緒に考えさせていただけたらと思っています。
前回のコラムでは、
「大切な人を大切にしたいのに、できない状況」は、誰にでも起こりうること、そして、その要因として、
1.自分の中での「気持ち、考え、行動(言葉)」の不一致
2.自分ー相手の間での不一致
が挙げられることをご説明しました。
今回のコラムでは、前回ご説明した「不一致」への対処に大切な
「大切な人を大切にできるために:まずは自分の気持ちに目を向けてみること」
について書かせていただきたいと思います。本日は、「自分の気持ちに目を向けることの大切さ」と「自分の気持ちをおいておくこと」に焦点を当ててご紹介します。
前回のコラムはこちらです⬇︎
【関係性と心の発達】大切な人を大切にするのはどうして難しいのか?-自己一致・不一致の観点から考える-
大切な人を大切にすること、大切にできることは、「自分自身を大切にすること」にも繋がる大事な作業です。
「自分はここにいて良いのだ」「もっと頑張ろう!」など、安心感や、モチベーションにもつながる大事なことなのです。
みなさまが「大切な人」を想像しながらコラムを読んでいただけるよう、私も工夫しながら書かせていただきたいと思っています。
中には、「大切な人がいない」「思い浮かばない」「必要がない」と思われている方もいらっしゃるかもしれません。そうですね。決して、大切な人を持たなければならないというわけではありません。それはそれで良いのです。そのような方は、自立して過ごされている方である場合も多いのです。
ただ、今回の「自分の気持ちに目を向けてみること」はどなたにとっても大事なことかと思いますので、ぜひ最後までお付き合いください。
「自分の気持ちに目を向けてみること」
忙しい現代社会においては「自分の気持ち」を中心に生活することは難しい傾向にあります。
「自分の気持ち」ひとつひとつに気づき、その気持ちとどのように向き合うか考え、相手に伝えるなどの行動をとっていては、日常生活を円滑に送ってはいけません。そして、現在のコロナ禍のように他者との適度な距離感を維持することが容易でなく、日々不安と直面している時には、余計に難しくなります。
このような状況も相まって、「自分の気持ちをおいておいて」相手のこと、お子さんのことなどを優先させて、日常をまわしている方が多くいらっしゃるようにお見受けします。そして、「自分の気持ちをおいておくこと」は、とても忍耐のいるスキルであるとも感じ、私自身、頭が下がる思いです。
心理学的に考えても、「自分の気持ちをおいておくこと」自体は、社会に適応していく上で大切なスキルです。しかし、「自分の気持ちをおいておくこと」が慢性化すると、「感覚が麻痺してしまう状態」を引き起こす可能性があります。
感覚が麻痺すると、刺激を受け取ることが難しくなるため、「自分の気持ち」に自分でも気がつきにくくなってしまいます。また、「自分の気持ちをおいておくこと」を無意識に行い、「自分の気持ちをおいておいていること」自体がわからなくなってしまうのです。そして、「おいておいた気持ち」がいつの間にか「なかったかのように放置された気持ち」となってしまいます。
「自分の気持ちに気がつかない」「わからない」「自分の気持ちが放置されている状態である」ということは、自分自身でどのようにその気持ちと向き合うかを考える機会が持てないということです。また、その気持ちを相手に伝えるか、伝える場合はどのような形を取るのかを考える機会も得られないということです。その結果、大切な人との関係性がこじれてしまうことがあります。
そのような状態になる前に、ご自身の気持ちに目を向け、ご自身の状態を把握することが大切です。そうすることで、結果的に大切な人を大切にできることに繋がります。
「自分の気持ちをおいておくこと」
「自分の気持ちをおいておくこと」は、社会に適応していく上で大切なスキルであるとお伝えしました。「刺激への反応」という観点からその理由をお伝えしたいと思います。
人は、脳の機能により、外の刺激に対して、反射的に「気持ちが湧く」という反応をする生き物です。従って、本来であれば刺激の数だけ、「気持ちが湧く」という反応が伴っているはずなのです。しかし、外からの刺激ひとつひとつに、気持ちが湧いている人は少ないと思います。それは、人の学習機能によって、「気にする必要のない刺激に対して反応するエネルギーを使うこと」を防いでいるためです。
朝起きてから出かけるまでの間の例で考えてみましょう。
人は、その短い間にも、布団の重さ、室内の匂い、室温、湿度、光の強さ、自分や家族のコンディションなど多種多様な刺激を受けています。しかし、「今日は100個以上の刺激に反応したな〜。たくさんエネルギーを使ったな〜。」と感じる方は少ないと思います。なぜなら、人は刺激に慣れていく生き物であり、慣れている刺激に対しては、「気にする必要のない刺激」として、反応しないように「その刺激を意識の外におくこと」ができるからです。慣れている朝の状況は、わざわざ反応するエネルギーを使う必要のない刺激なのです。
ここで大切なポイントが。2点あります。
「気にする必要のない刺激」として、反応しないように「その刺激を意識の外におくこと」ができたとしても、
①刺激自体は、それぞれの受容体(視覚・聴覚・触覚などの五感など)で受け取り、エネルギーを使っている
②「刺激を意識の外におくこと」自体にもエネルギーを使っている
ということです。
つまり、「反応すること」ほどはエネルギーを使わないが、「受け取ること」や「意識の外におくこと」にもエネルギーを使っているのです。このような形で使われたエネルギーは、睡眠などで、受容体を休ませ、人はエネルギー補給をしています。
「刺激を受け取ること」「その刺激を意識の外におくこと」「エネルギーを補給する」というプロセスは、ごく自然に行われていることなので、あまり意識されていませんが、日々、私たちの生活の中で無意識に行われていることです。
この原理は、「自分の気持ち」にも、当てはまります。
「自分の気持ちをおいておくこと」は、刺激を受け取り「気持ち」自体は湧いているが、その気持ちを「気にする必要のない刺激」として、「反応しないように意識の外においている」という状態です。そして、意識の外におくためには、自分の気持ちを過度に切り替える、見ないことにする、場合によっては、麻痺させる必要があります。
つまり、「自分の気持ちをおいておくこと」は、「ひとつひとつの気持ちに気づく」ほどはエネルギーを使わないが、「気持ちが湧くこと」や「その気持ちを意識の外におくこと」には、エネルギーを使っている状態と捉えることができます。「自分の気持ちをおいておく」ことにはエネルギーが常時使われているということです。
湧いた気持ちを「おいておくこと」はできても、エネルギーを消耗している以上「なかったこと」にはできません。エネルギー補給が必要であった受容体と同様に、気持ちや心もエネルギー補給が必要です。受容体に関しては、「受容体を休めなきゃ!」と意識的に行わなくても、睡眠という形で自然にエネルギー補給できます。しかし、気持ちや心は意識的にエネルギーを補給する必要があります。エネルギーが消耗しきる前に、補給することが必要です。
「おいておいた気持ち」をもとに戻してあげること
「自分の気持ちをおいておくこと」が慢性化することにより、関係性がこじれてしまうケースは、実はとても多いのです。
「自分の気持ちをおいておくこと」は、日々が忙しいとき、仕事が大変なとき、自分の力ではどうにもならないことが起きたときなど、「自分の気持ち」よりも優先しなければならない事態が起きているときに生じやすくなります。そのようなときは、気を張っており、精神的にも身体的にもしんどいことに加え、そのしんどさを口にせず我慢をしている状態である場合が多くあります。
「自分の我慢が報われない状態」は、怒りや傷つき、虚しさに繋がります。もともとあった「おいておいた気持ち」に加え、「自分の我慢が報われないことで生じた気持ち」が重なってしまうのです。そもそも、「自分の気持ちをおいておいて」我慢されている状態が続いているので、「自分の我慢が報われないことで生じた気持ち」もまた「おいておかれる」傾向にあります。そして、「意識の外においている」状態が続き、「なかったかのように放置された気持ち」となってしまうのです。
これらの行き場のない気持ちは、ご自身にも目を向けられておらず、相手に伝えられることもないので、自分にも相手にも受け止められる機会がありません。従って、ご自身はよりしんどくなってしまいます。そのうえに、ひとりで抱えていることへの孤独感から、大切な人との関係性もこじれてしまう可能性があるのです。
では、どうしたら良いのでしょうか?
「おいておいた気持ち」は自分の意識の中に戻してあげることが大切です。
そうはいっても、そもそも、大変な状況だからこそ「自分の気持ちをおいておく」という状況が生じているのですから、全ての気持ちを意識の中に戻すことは難しいかと思います。しかし、せめて二次的な「自分の我慢が報われないことで生じた気持ち」に関しては、意識の中に戻してあげていただきたいと思っています。そして、その気持ちを認めることで、極力、ご自身の傷つきに繋がらないように対処していただきたいと思っています。
まとめ
今回のコラムでは、「大切な人を大切にできるために:まずは自分の気持ちに目を向けてみること」についてご説明しました。
①「自分の気持ちをおいておくこと」は、社会に適応していく上での大切な機能であること
②「自分の気持ちをおいておく」状態が慢性化すると「自分の気持ち」に自分でも気がつきにくくなってしまうこと
③「自分の気持ちをおいておくこと」自体にもエネルギーを使っており、エネルギー補給が必要であること
④「おいておいた自分の気持ち」は自分の意識の中に戻してあげる必要があること
⑤ 全ての気持ちを意識に戻すことが大変ならば、「我慢が報われないことで生じた気持ち」に関しては、意識の中に戻し、認めてあげること
について書かせていただきました。
「気にする必要のない刺激」として、「おいておいた気持ち」の中にも、実は「自分にとって大切な気持ちもあった」と気がつくことも多いのです。それは、「おいておいた気持ち」戻してあげて、向き合って、初めて気づくことです。
「おいておいた気持ち」を戻すことが難しい場合にも、カウンセリングをお役立て下さい。カウンセリングの守られた空間で、カウンセラーと一緒に定期的に「ご自身の気持ちに目を向ける時間」を確保することにより、エネルギーが補給され、結果的に良い循環を導き出せるようになる場合がございます。
「おいておいた気持ち」の中にある、実は「自分にとって大切な気持ち」は、「共感されること」によってエネルギー補給されます。どのような関係性においても、「共感する−共感されること」は大切です。このことは、「自分の気持ちに目を向け、考え、行動すること」をきっかけに達成されます。
次回のコラムでは、「自分の気持ちに目を向けて、考えてみる」について、詳しくお伝えしたいと思っています。ぜひ、ご覧ください!
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