COLUMNコラム

【プロフェッショナルから学ぶメンタルトレーニング ③】今できることを積み重ねていく|ブラインドサッカー選手・川村怜さん 後編

2024年度より、メンタルトレーニングの新たな取り組みとして、メンタルトレーナの森下が、様々な業界のプロフェッショナルの方々に、メンタルとの向き合い方や在り方等について取材しております。

読者の皆様が、プロフェッショナルの方たちの考え方や行動を知ることで、成長への気づきや、成功のヒント。そして、道を究めた方たちも“同じ人間なんだ”と、身近に感じて頂き、親近感や「自分もできるかもしれない」といったチャレンジ精神の芽生えなどに繋がることができましたら、大変嬉しく思います。

第3回目の“プロフェッショナル”は、ブラインドサッカー選手の川村怜選手にお伺いしました。

前編の記事はこちらからご覧ください↓

【プロフェッショナルから学ぶメンタルトレーニング ③】課題を受け入れ進化し続ける|ブラインドサッカー選手・川村怜さん 前編

後編では、「成長にフォーカスする思考」「大舞台での実力発揮」「今後の目標」などについてお届けします。

川村怜(ブラインドサッカー選手)
小学1年から少年サッカーをやっていたが、5歳のころぶどう膜炎を発症。7歳のころからその進行により視力が著しく低下した。
中学以降はサッカーを離れ、陸上競技に取り組む。鍼灸マッサージ関係の資格取得を目指し、2007年に進学した筑波技術大学で、ブラインドサッカーを始めた。
大学入学当初のころまでは弱視であったが、2009年ころにはかなり見えづらくなり、2013年には全盲と診断された。
2013年3月、日本代表に選出された初戦であるブラジルとの親善試合で、代表初ゴールを奪う。
3月20日、フットメッセ大宮で行なわれたこの試合で、川村は2点先行された後半終盤48分に、日本代表唯一のゴールを挙げた。
2014年の日本選手権では、MVPに選ばれる。


どんなことでも成長に繋げていく

(森下)
川村選手に憧れてサッカーを始めた選手や、川村選手の活躍を見て刺激を受けているビジネスマンなど、そうした人たちにアスリートの視点から何かアドバイスや心構えなど伝えるとしたら何をお伝えしますか?

(川村)
そうですね。成長思考で常にどんなことも成長に繋げていく意識を持つことが大切ということですね。そういうマインドで物事を捉えていくと、その結果良い方向へ進んでいくのかなって思います。というかそう信じています。

(森下)
川村選手自身が成長思考ですからね。
現在は成長思考で活躍して結果も残してきている川村選手ですが、昔からそうだったんですか?

(川村)
いや、昔はそうじゃなかったと思います。
大儀見さんのメンタルトレーニングの影響は非常に大きいと思いますし、潜在的には成長思考はあったかもしれないですけど、そこを引き出してくれたのは確実に大儀見さんですね。

(森下)
代表に選ばれてすぐの頃と、キャプテンという立場になった時と比べて、キャプテンになったからこその成長や変化は何か感じるものはありますか?

(川村)
やはり自分だけではなくて、チーム全体を見渡せるようになりましたし、チームの状況だったり雰囲気を気にかけるようにはなりましたね。

(森下)
そういったチームを俯瞰してみる力や考え方の変化が出てきた時、それらに伴いパフォーマンスにも変化はありましたか?

(川村)
チーム全体を俯瞰してみることで、自分に集中仕切れない時期もありましたけど、そこも段々とコントロールできるようになってきたのか、まだまだなのか…というところですけど笑

(森下)
まだキャプテンの難しさを感じている最中ということでしょうか?

(川村)
そうですね。自分への集中の切り替えのところっていうのはまだ課題ですね。

(森下)
そこはチームスポーツの難しいところなのかなって思いますね。
僕もチーム競技のメンタル面のサポートをしていてそういった集中の切り替え部分は難しいなと感じるところはあります。

(川村)
常に状況が変わりますし、チームの雰囲気とか個人の状態もそうですし。常に動きがあるものなので、お互いの変化に対してどうシフトしていくかっていうのはもっと上手くできるんじゃないかなとは思ってます。

(森下)
なるほど。ある意味、変化への対応が課題ということで、これから先も伸びしろがあるということですね。


スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック博士がプロフェッショナルな人とそうでない人たちの思考と行動の違いの研究をした結果、プロフェッショナルな人たちは自身の努力やチャレンジ、成長を重要視する「成長思考」という考えを元に行動しているのに対して、そうでない人たちは、結果や周りからの評価、誰かとの優劣を重要視している「固定思考」という考えを元に行動していることがわかりました。

スポーツや仕事の場合、結果(勝敗、成績、収入など)にどうしても意識が向きやすくなります。もちろん結果を意識することは悪いことではないのですが、結果ばかりに意識をむけてしまうと、必要以上に不安やプレッシャーを抱え込んでしまったり、結果さえ出せれば何しても良いという極端な考え方や、「どうせ結果出せないし…」と諦めやすくなる傾向が見られます。

一方、成長思考の人は努力、チャレンジ、成長に意識が向いているので、ミスをすることや周りからどう思われているかはあまり気にしません。ですから、新しいことにチャレンジしたり、新しい環境に踏み出すための一歩が踏み出しやすくなるので成長のスピードがとても速いんです。

結果を追い求めるよりも、チャレンジや成長に意識を向けていくことで、気がつけば良い結果が自然とついてくるという良い循環が生まれやすくなります。


大舞台での実力発揮

(森下)
いろんな国に遠征して、パラリンピックをはじめとした大舞台で戦ってきたと思います。
そういった場面では、プレッシャーや不安など、様々な感情に苛まれることがあったかと思いますが、その中でも自分のパフォーマンスを発揮するために心がけていることであったり、自分が意識して行っていることがあればぜひ教えてください。

(川村)
リラクセーションは試合前は必ずやるようにしてますし、緊張とリラックスのよいバランスのポイントを見つけながらコンディショニングしていくことは意識しています。初戦と2試合目とでも緊張感は全然違いますし、相手や環境、暑かったり寒かったり、音の反響具合も違かったり、パフォーマンスを発揮できるのかという不安と常に戦っているので、感じることは変わるので、そこの不安はやってみないとわからない部分が多いんです。なので初戦の前は必ず緊張しますし、その緊張感とうまく付き合いながらが大切だと思っています。


リラクセーションは「心のストレッチ」とも言い換えることができる、実力発揮をするための心理的スキルです。大事な場面ではプレッシャーや不安が大きくなり緊張レベルが高まるため、リラクセーションを行うことでリラックスレベルを高めていきます。

<リラクセーションの簡単な流れ>
①セルフマッサージ :肌をさすり爽快感(リラックス感)を感じ取る
②呼吸法(深呼吸)
③漸進(ぜんしん)的筋弛緩法:わざと一回力を入れてから抜くことで、緊張からリラックスのギャップを感じ取る
④自律訓練法:自己暗示、イメージトレーニング
⑤メディテーション:内的集中(寝てもよし)
⑥消去動作:セルフマッサージ、ストレッチなど


(森下)
不安やプレッシャーというものと、どういった捉え方や向き合い方をされているんですか?

(川村)
プレッシャーを感じることは戦闘モードに入った証拠ですし、この感覚を味わえるのって現役時代にしかないので、一生で考えたらその時間はそんなに多くないだろうって思うので、貴重な時間なんだなと捉えるようにはしていますね。

(森下)
僕がサポートしている選手たちにも、今の捉え方の話を聞かせてあげたいですね。
確かにポジティブに考えるならば、スイッチが入ったからこそというのはまさにその通りですよね。不安やプレッシャーを感じていない時は、逆に「大丈夫かな…」というサインの可能性がありますよね。

今のお話は試合前のことについてだと思いますが、試合中にプレーがうまくいかなかったり、チームが劣勢の場面での気持ちの切り替え方で川村選手が意識して行っていることや、チームとして取り組んでいたことはありますか?

(川村)
「できること」を積み重ねていくことは心がけていますね。個人としても簡単なプレーの時でも「できること」を積み重ねていますし、チームとしても劣勢の時に、立ち返られるようなキーワードやアクション、例えばボールに対して前に出ることや、距離感を保つための声出しを増やしていくこと、そうしたところは意識するようにはしていますね。

(森下)
できることを、自分の中で、チームの中で整理をして、できること「から」やっていくということですね。

(川村)
そうです。できること「から」積み上げていって、そうすれば必ず良いリズム、勢いに乗っていけるので。

(森下)
確かに、逆に流れが悪い時ってコントロールできないことを無理にコントロールしようとしてるところってありますよね。だからこそ自分たちのできること、コントロールできることから組み立てていこうという考え方ですね。

(小高)
劣勢の時に焦り、視野が狭くなって目の前のことしか見えなくなる。つまり、客観視ができなくなることってあると思うのですが、できることに立ち返るための前段階ではどのようなことをされているんでしょうか?

(川村)
チームメイトに対しての声かけは意識をするようにしていますね。流れが悪い時や劣勢になってくると自分も含めてだんだん声が減ってくるので、「声が少なくなってきてるぞ」というような、ポジショニング、距離感の声かけを増やしていくことから始めるようにしています。

(小高)
チームメイトの皆さんの意識を集中させるために、気持ちが分散しているところを一回収めるような形ですね。

(川村)
そうですね。あとは「ここを踏ん張れば必ずチャンスが来るぞ」というような、ポジティブな声かけをしますね。


全ては将来につながる

(森下)
川村選手の今後の目標についてお聞きしたいなと思います。2024年はパリパラリンピックが開催され、選手としても大きな区切りだったのではないかと思いますが、次はどういった目標を持たれているのか、長期的な目標や、引退後のビジョンなんかも差し支えなければお教えください。

(川村)
パリで燃え尽きるかなと思ってはいたんですが、怪我もあったりで自分の実力を発揮しきれずに終わってしまい、成績も残せなかったので、やっぱりメダリストに対する憧れをすごく持っているんです。4年後のロスではメダリストになるというところにこだわって勝負をしていきたいと思っています。

(森下)
ロスに向けて再始動ですね。ロスの先のことは考えているんですか?引退した後のことなどでも。

(川村)
鍼灸師やマッサージの資格を持っているので、その資格を軸に、自分自身が学んできたトレーニングのメソッドだったり、メンタルトレーニングのことであったり、そうしたスキルを伝えていけるような仕事をしていきたいなと思いますね。アスリートだけでなく一般の方にも、将来アスリートを目指す育成年代の子供達も含めて役に立てるような仕事をしていきたいと考えています。

(森下)
世界の最前線で日本を代表して活躍している川村選手のさらなる高み、その先のことまで考えて動いているのは、アスリートだけでなく一般の方々にも響くと思うんです。「将来やりたいことがない」「引退した後どうしたらいいんだろう」と思っている人が結構多い傾向にある世の中だと感じていますが、そうした人たちが目標や夢を持つことでどのような変化があると思いますか?

(川村)
自分自身が今までどう生きてきたかを振り返ってみて、今後どう生きていきたいか、人生の目的を見つけると言いますか、そうすることによって方向性が定まってくるかと思いますし、夢や目標を持つことで自分自身が成長していくと思います。
また、様々な出会いや経験をすることの中で、楽しいこともたくさん待っていますし、苦しいこともあるとは思いますが、それらを含めて将来につながると思います。

(森下)
目標設定のトレーニングをすると長期的な目標が書けない選手は結構多いんですよね。書けない選手に対してよく伝えるのが、「ちょっとでも興味があることはどんどんやってみたらいいよ」ということなんです。それが続かなかったらまた次に興味があることにトライしてみればいいし、もっとやってみたいと思ったら掘り下げていけば良くて。

興味は「これってどうなるんだろう」「これはなんなんだろう」といった自分の知らない世界から生まれてくるものなので、常に同じ環境の中にいると興味は湧きづらくなってくるので、川村選手がおっしゃってくれたみたいに、新しいことや新しい人との出会いであったり、新しい環境に行って感じることであったり、そうしたことをしていくことによって、次のやりたいことが出てくるんだろうなって感じますね。

(川村)
そうですね、自分の好きなことが仕事にできればすごく充実するんじゃないかなと思うので、好きなことから始めてみるのがいいのかなと思います。

(森下)
好きなことじゃないとなかなか続かないですからね。でも始めてみないとそれも(好きかどうかも)わからないですから、とにかく興味のあることはとりあえずやってみる感覚でいいんじゃないかなと思いますね。


「好き」を仕事にできればとても幸せなことですが、現実はそんなに甘くはなかったりしますよね。
実際、私自身も「メンタルトレーニング」「スポーツに関わる仕事」という観点でやりたい仕事ができていますが、その中でも「嫌だな」「めんどくさいな」と思うことも正直あります…(資料作りとか、連絡とか苦手です)

辛いことや嫌なことも含めて「好きだな」「楽しいな」と思えるためには、成長思考で長期的な目標を持つことです。
今取り組んでいることが、将来の自分の成長している姿につながっているとイメージすることができれば、多少の辛いことや嫌なことも頑張って取り組むことができるし、成長を感じて理想の未来に近づいていると実感できたなら、自ら進んで辛いことや嫌なことにも取り組めるようになれるかもしれません。

今取り組んでいることが、ちょっと嫌だなと思う人はぜひ長期的な目標設定を立ててみてください。そこから何をすればそこに辿り着けるのかを考え、今取り組んでいることがどのように影響するのかを考えてみると良いと思います。


まとめ

今回(前編、後編)、川村選手のお話をお伺いして、できることを積み重ねていくこと、いろんな世界を見て(経験をして)視野を広く持つことの大切さを改めて感じました。

取り組む前からできないと決めつけて挑戦しなければ大きな失敗はしないで済むかもしれません。でもそれでは自分自身の成長や変化は何も起きず、環境や時代の変化についていけなくなってしまいます。

できないことの中にも、必ず小さな出来るはあるはずです。その小さな出来るを積み重ねていくうちに、自分でも気づかないうちに遠くまで行けるようになるのだなと思います。

今回、お時間をいただきました川村選手ありがとうございました!
ロスパラリンピックに向けてのチャレンジ応援しています!

それでは、次回の「プロフェッショナルから学ぶメンタルトレーニング」も楽しみにしていてください!


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