COLUMNコラム

【メンタルヘルス】“生きていかなければいけない理由”とは?

こんにちは!所属精神科医のT.Sです。

このコラムでは、

私が精神科医として患者さんと接する中で手に入れ、磨き上げてきた様々な武器
つまりは「幸せになるコツ」

を紹介しています。

改めまして、私は普段精神科病院で勤務医として働いているのですが、時折病院外で行う業務もあります。
例えば、提携している障害者施設などに赴いての往診や、最近だとコロナワクチンの接種などがそれに当たります。

そしてもう一つが、看護師の卵である看護学生さんを相手に行う、看護学校での講義です。
1コマ90分の講義を全部で6回済ませた後、テストまで私が作っています。

実はワタクシ、教師になることに憧れていた時期が、そう遠くない過去にございました。
なのでこの講義の依頼が来たときは、願ったり叶ったりという気持ちで引き受け、せっせとスライドの準備を行ったものです。

そして今年で2年目となった私の講義は、昨年度に比べいよいよ鋭さを増しており、ほぼ8割に近い生徒が、とっっっても気持ちよさそうに寝てくれます!
きっと午前中、プールの授業だったんだね…そうだよね…?

さて、導入が長くなってしまいましたが、今回のテーマは、私が看護学校講義で作成したテストから引っ張ってきました。

せっかくテストの問題は私が自由に作れるわけですから、
「日々の診療で自分が気になっていて、しかも色んな人達に意見を聞きたいことを、そのままテスト問題にしてしまえ!」
と考えました。我ながらなかなかのファインプレーだったのではないかと、自画自賛している次第です。

そこで私が実際に出題した問題(質問)が、以下になります。

あなたが考える “生きていかなければいけない理由”とは?

【質問】
もしも患者さんや周りの人から「こんなに辛いのに、どうして生きていかなければいけないんですか?」と言われた場合、
あなたはどのような声掛けをしますか。
“まずはどうしてそう思うのか傾聴し、相手の話を否定せず共感し…”といった回答ではなく、
あなたが考える「辛いことがあっても生きていかなければいけない理由」を聞かせて下さい。
なお、「そこまでして生きる必要はない」という結論でも構いません。
その場合も、その結論に至った理由を出来る限り記載してください。

…皆さんだったらこの質問、どのように回答しますか?

もちろん、「生きていかなければいけない理由は何か」という問いに対して、全人類が認めるたった一つの正解は存在するはずがありません。
ただし、自分なりの正解は探し続けるべきです。私はそう考えています。

このテーマについて真剣に考え抜いたことがある人は、一体どれほどいるのでしょうか。
特にまだ20歳にもなっていない学生たちには、こんなテーマとぶつかるチャンスはなかなか訪れません。
あるいは、漠然と生きづらさを感じながらも、どう対処すればいのか考えるまでには至っていなかった人も少なくないでしょう。

だからこそ、たとえ正解が見つからなかったとしても、テストの90分の間だけでも、このテーマについて真剣に向き合ってみてほしい。
そして、少しでも自分なりの正解を探すきっかけになってほしい。

そんな思いで、テストに組み込んでみたのでした。

質問に対する回答を一部ご紹介

それではここで、この質問に対する看護学生の回答を一部ご紹介いたします。

これまでにもお話しているように、「(より幸せになるための)武器を増やす」ためにも、他人の意見や考えに触れることは言うまでもなく重要です。

自分が思いつきもしなかった考えや、しっくりくる言い回しが、もしかしたらこの中に見つかるかもしれませんよ!

【質問】
もしも患者さんや周りの人から「こんなに辛いのに、どうして生きていかなければいけないんですか?」と言われた場合、

あなたはどのような声掛けをしますか。
あなたが考える「辛いことがあっても生きていかなければいけない理由」を聞かせて下さい。

【看護学生からの回答】
●私はあなたが死ぬという選択をしたとき、きっと寂しいと思う。
●すごく辛いときは、これは良いことが起こる前触れだと考えよう。
●とりあえず今は黙って逃げろ!
●今まではどうして生きてこられたのかを改めて考えてみよう。
●理由もなく、なんとなく生きている人はいっぱいいるから安心して。
●死ぬその時まで「辛い」と思っていたくない。人生を辛いの一色で染められたまま死にたくない。
●死ぬ瞬間を幸せなものにしたいから、自分が納得できる形になるまでは生きるべき。
●みんなが死なないのは、死に対しての恐怖心があるから。生きていたいというより、死にたくないから生を選んでいるんだと思う。
●突然死ぬときが来ても、「これが人生だったんだな」と後悔せず受け入れて死にたいから、その日まではそのように生きる。
●死ぬことによって、今まで生きてきた中で関わった人やものが全て失われてしまうのが嫌だ。仕事や役割は代わりがきくが、思い出や意思、関係はその人だけが持っているもので、これからも増え続けるはずだから、生きている分だけ心の支えが増えると思って生きている。
●もしアナタが死んでしまったら、今アナタが死ぬほど辛いと思っている苦しみを、周りの大切な人にも味わわせることになる。そうなると不幸の連鎖が始まるわけだが、逆に生きていればその連鎖は始まらない。つまり、生きているだけで、あなたはすごく価値のあることをしている。
●生きていかなければいけない理由をみつけるより、辛いことを取り除く方法を見つける手助けを、私はしたい。
●私のために生きてほしい、とは言わない。誰かのために、は弱いから。自分のために生きるべきだ。
●無理に生きる意味を見つけながら生きる必要はない。ただなんとなく生きて、短い幸せな瞬間を拾い集めながら生きる。どうして生きているのかなんて、死ぬまで考え続けるのだろう。

正解が存在しないと知りながらも、探し続ける

この回答だけを見ても、実に様々な考え方、生き方があることが分かります。

とにかく死は良くないと考える人もいれば、死はある程度受け入れながらもその最期の在り方にこだわりたいもいる。
周囲の人がどうなのかに着目する人もいれば、周りではなく自分だけに集中するべきと信じる人もいる。
そして、「そもそも答えなど無い。そして、それが答えだ。そうやって生きていくのだ」という人生観を持つ人もいる。

「こんなに辛いのにどうして生きていかなければいけないのか」と問われた時、多くの人はその相手の気持ち、生い立ちや立場や性格を考慮して、あーでもないこーでもないと悩みながら、少しでも適切な答えを絞り出そうとするでしょう。
そして、それが上手くいくときもあれば、受け入れられないときもある。

でも、そうやって考え続けるしか無いんだと思います。

どんな人をも救ってくれる、魔法のフレーズのような便利なものは存在しません。
そして存在しないからこそ、私たち精神科医だって自分なりの正解に近づこうと常にもがき続け、これまでに手に入れた中で最善と思われる武器を、患者さんにお渡ししているのです。

それはとても根気が必要なことだし、時には失意の底に沈むときもあるでしょう。
しかし、正解が存在しないと分かっていながらも探し続けることに意味があるのだろう、と私は信じています。

人によって正解が違うからこそ、その人にしか救えない命があるかもしれない。

そう考えると、この難問に挑み続ける価値があるとは思いませんか?

それでは、また次回のコラムでお会いしましょう。


 

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Writing by T.S

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