COLUMNコラム

大切な人を亡くした子どものメンタルケア1【“死”の理解を助ける】

こんにちは!所属精神科医のT.Sです。

このコラムでは、

私が精神科医として患者さんと接する中で手に入れ、磨き上げてきた様々な武器
つまりは「幸せになるコツ」

を紹介しています。

少しでもみなさんの役に立てるように、という思いで記事を執筆しております。
ぜひ参考にしていただきながら、私と一緒にメンタルトレーニングをしていきましょう!

先月は私の誕生日でした。

弊社代表からもお祝いをしてもらったり、誕生日当日には昔からのバンド仲間たちとライブ(写真は本人です)をすることもでき、改めて自分の存在を肯定してくれる人たち、趣味を共有できる仲間たちの大切さを噛み締めました。

誕生日、大晦日、元旦、もろもろの記念日。

こういったイベントがただ「嬉しい、楽しい」ものではなく、「振り返り、これからを見据える」という意味合いが濃くなってきたのは、やはり歳を取った証なのでしょうね…笑

引き続き、まずはこの先の1年を見据え、周囲の人たちに感謝しながら日々精進していくつもりです。

 

さて、本日のコラムですが、私の中では非常にタイムリーなテーマを持ってきました。

今日お話しするのは、「大切な人を亡くした子どものメンタルケア」についてです。

つい先日、このテーマについての勉強会に参加してきました。
そしてそれが非常に有用なものでしたので、このコラムでもご紹介させていただきます。

誕生日に私が噛み締めたのも然りですが、私たちはいつも、大切な人たちに支えられて生きています。

しかし、自分も含め、人はいつか死んでしまいます。
自分にとって大切な人がこの世からいなくなる瞬間は、いつか必ずやってきます。

そしてその瞬間に直面したとき、大人と子どもでは、大きく違った反応を見せることがあります。

当然ですが、子どもは大人ほど理論的に考えることはできませんし、知らないこともたくさんあるでしょう。
だからこそ、大人たちが気づけないようなところでつまづいてしまったり、不安や怒りを感じてしまうことが多々あるのです。

子どもとの関わり方は、大人の場合と比べるとただでさ難しいことも多いですが、「大切な人を亡くした」という特殊な環境では、より一層注意が必要になります。

それでは、どんなことに気をつけ、どのように支えていけば良いのか、一緒に考えていきましょう。

なお、このコラムはこちら↓の資料を参考にしております。
より詳しいことを知りたい場合は、ぜひご参照ください。
大切な人を失ったあとに 子どもの悲嘆とケア 子どもを支える親と大人のためのガイドブック

また、弊社所属カウンセラーの安澤が、関連するテーマでコラムを掲載しております。こちらも合わせて読んでいただけますと幸いです。
【学齢期の子どもの心理:番外編】『対象喪失』と『モーニング』について触れてみる

 

死に対する子どもの反応

死は当然、大人も子どもも関係なく、残された人にとって計り知れない影響を与えます。

しかし、死に対する子どもの反応は、大人から見ると理解し難いものに映ることがあるため、一見すると子どもが影響を受けているのかどうか、把握しづらいことがあります。

したがって、子どもによく見られる反応を知っておくことは、子どもの反応を理解するうえで有用です。
以下に、死に対する子どもの反応のうち、よく見られるものを挙げておきます。

◯大きく動揺する
◯赤ちゃん返りをする
◯死について向き合いたがらない
◯遊びや絵、作文などで表現する
◯イライラしやすく、ときに危険行為に及ぶ
◯罪悪感にさいなまれる
◯特定の誰かのせいだと考えてしまう
◯不眠や体調不良を訴える

これらのサインは、子どもが大切な人を失って影響を受けていることを示している可能性があります。闇雲に押さえつけたり、無視したり、厳しく指導したりせず、どうしてそのような行動に現れているのかを考えることが必要です。

子どもにとっての「死」と大人の「死」は、実はかなり違う

ここで、そもそも「死」とは何か、について考えてみましょう。

前述の参考資料にも記載されていますが、「死」は4つの概念を持っています。

──「死」の4つの概念──

①死は永遠である

②死によって、生きるための体の働きは完全に停止する
③人はだれもがいつかは死ぬ
④人が死ぬには物理的な理由(死因)がある

これを読んだ大人は「そりゃそうだよな」と思えるかもしれませんが、実は子どもの立場に立つと、そもそもこの概念自体を理解できていないことが往々にしてあるのです。

たとえば①について。

子どもたちは日々、漫画やテレビ、ゲーム、映画を通じて、人が「死んで」、生き返るのを何度も見ています。
そして言うまでもなく、現実の世界ではそのようなことは起こりません。

しかしそれを理解できていない子どもたちは、「亡くなった人は、たぶん旅行かなにかで遠いところに行っていて、一時的に会えないだけだろう」と考えていることがよくあります。

そしてそんな中、周囲の大人が子どもを気遣うあまり、「長い旅に出ているのよ」などと説明してしまうと、さらにその誤解を強めてしまいます。
結果として、愛する人から電話もなく、大切な行事にも帰ってきてくれないと、不安、場合によっては怒りすら感じることもあるのです。

そのほかにも、②も大人たちにとっては当たり前ですが、子どもにとってはそうではありません。

故人が動けないのは「生体の機能がすべて停止したからだ」とは認識しておらず、「ただ棺桶が狭いから動けないんだ」と考えているかもしれません。

そして葬式の棺桶に入った故人を前に、周囲の大人たちから「何か話しかけてあげてね」「手紙を書いて渡してあげようね」「見てごらん、笑ってるね」と言われた子どもたちは、「えっ、まだ生きてるの?」「生きてるのにこのあと燃やされるなんて…」と混乱し、恐怖し、故人が痛めつけられると思って心を痛めることがあります。

このように、子どもにとっての「死」と大人の「死」は、実はかなり違うのです。
まずはこの事実を理解した上で、子どもへのサポートを考えていく必要があります。

なお、もしも大切な人を自殺で失ってしまった場合は、④の取り扱いがより重要になってきますが、これはまた別の記事で説明したいと思います。

子どもが死を理解できるように助ける

これらのことを踏まえ、まず以下のことが重要になってきます。

子どもたちが大切な人との別れを乗り越えて進むための第一歩は、死について正しく理解することです。

この別れは永遠であり、大切な人はもう動くことも感じることも考えることもできず、生物として避けられない運命を辿ったのだ、ということを理解することです。

なので周りの大人たちは、子どもが死を理解できるように助けてあげる必要があります。

もちろん、何もない日頃から「俺もお前もいつか死ぬんだよ…!」などと言っていると、不必要に子どもたちを怯えさせることになるので推奨されません。

しかし、現実に大切な人の死を体験してしまった場合、死はもはや隠しおおせるものではありません 。
そして死を受け入れられない状態が長引いたり、悲しみを感じることを避けてしまうのは情緒的に不健康であり、後にもっと大変な問題に至る可能性があります。

ですので、大切な人の死をしっかり悲しむ機会を与え、死んでしまったことと向き合い、「さよなら」を言えることが必要になります。

では、具体的にどうすべきか。

まず、死は曖昧に伝えず、きちんとありのままに「死」「死んだ」という言葉を使って伝えることが大切です。

「遠くへ行ってしまった」などという曖昧な表現をしていては、子どもにとっての悲しむ機会、つまり回復のための第一歩を奪うことになります。

宗教的考えを伝えたい場合でも、まずは「亡くなった人の肉体に何が起こったのかを事実として簡潔に伝える」ことが重要です。

そして、親しい友人、親戚、家族などが亡くなった場合は、できるだけ子どもにもお葬式や追悼の会に出席する機会を与えるべきでしょう。

「きっと怖がるに違いない」と心配し、敢えて子どもを参加させない人もいるでしょうが、そうすると子どもは、実際よりはるかに恐ろしいものを空想してしまいます。

お葬式とはそもそもどういう場所なのか、どんなことが行われるのかを事前に説明し、子どもからの質問には答えてあげてください。
そして最終的には、子ども自身に参加するかどうかを決めさせましょう。極端にお葬式を怖がる子どもに、行くことを強制するのはおすすめできません。

また、たとえお葬式に出席できなかったとしても、一緒にお線香やロウソクを灯したり、お祈りやお墓参りをしたり、写真を整理したり、思い出話を語ったりしてください。
子どもが「死」を肌で理解し、亡くなった人を何らかの形で大切に考えて心に留めることは、今後の回復の大きな助けになります。

自分も「被支援者」であることを忘れないで

今回のテーマについては書きたい内容がもう少しあるため、次回の記事に繋げようと思います。

本記事で最も伝えたかったのは、大切な人を亡くした子どもにとって、死をきちんと理解することが非常に重要で、大人はそれを助けるべきだということです。

しかし念のため付け加えておきますが、子どもを怯えるだけ怯えさせて終わりにしてはいけません。

死の概念を子どもに伝えるときは必ず、「私は今元気だよ。あなたが大人になるまで長生きしたいし、そのために健康でいるからね」ということも伝えるべきです。

そしてまた、そういうことを子どもに伝えるためには、まず大人自身に心の準備が必要です。

身近な人を失い、本来は自身も「被支援者」である大人たちが、子どものために「支援者」として働かなくてはならないというのは、実は大変な状況です。
そんな中で冷静に振る舞えず動揺してしまったとしても、それは実はとても自然なことであり、決して弱さではありません。

まずはあなた自身が、自身のメンタルケアにも目を向けてあげてください。
そして心の準備ができたときに、子どもと話し合いをするのがよいでしょう。

…まだまだ説明し足りない部分があるので、次回は今回の内容の補足、付け足しなどをしていくつもりです。

それでは、また次回のコラムでお会いしましょう。

 

※このシリーズは、以下のリンクからご覧になれます。

大切な人を亡くした子どものメンタルケア1【“死”の理解を助ける】(←本記事)
大切な人を亡くした子どものメンタルケア2【大人だけが子どもに手渡せるもの】

※過去のコラムはこちらからご覧いただけます

【メンタルヘルス】精神科医T.Sコラム


 

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Writing by T.S

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